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少女と王  作者: 咲夜
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不思議な夢と確かな現世



不思議な夢を見た。


とても綺麗な男の人が、泣くのを堪えて顔を歪ませ、横たわる女性にキスをする夢。


その表情があまりにも辛そうで、悲しそうで…、私の胸まで痛くなって。


私は手を伸ばした。










「里桜、起きて!もう8時過ぎてるんだけど、遅刻したいの?」


耳に届いた、不機嫌さを隠しもしない声に、里桜はうっすらと目を開いた。


この声は…葉月……?


8時…って……、朝?夜?いつの8時?


それに遅刻って……。


そこまで考えて、 ようやく気付く。


「学校!?」


「気付くの遅すぎるよ。じゃあ、俺は先に行くから。頑張って支度すれば間に合うんじゃない?」


背を向けて“じゃあね”と手をひらひらさせる双子の弟に薄情者!と言い捨てて、私は急いで準備を整えると椅子に置いていた鞄を掴んで朝食も食べぬまま走り出した。


全力疾走のおかげか滑り込みで間に合い、私は教室に着くなり、マラソンランナーよろしく床に倒れこんだ。


「お疲れ、里桜!葉月君から遅刻って聞いてたけど…良く間に合ったね」


「本当にね。普段の体育もそれくらい頑張ればいいのに」


しゃがんで笑いながら顔を覗き込んできた友人の奈都と、置いていった薄情者の葉月をギロリと睨むと、私は息を整えるべく深呼吸を繰り返した。


「それにしても、珍しいね。里桜が遅刻しそうになるなんて。夜更かしでもしたの?」


首を傾げる奈都に、私は首を横に振った。


「ううん。なんか変な夢みて……」


「夢?」


不思議そうな奈都の隣で、葉月が何故か顔を歪めた。


「……それって、もしかしてヘンテコな格好した美形が出てこない?銀の髪の……」


「そうだけど…、なんで知ってるの?」


「……別に。何となくそう思っただけ」


じゃあね、と朝同様、引き留める間もなく立ち去る葉月。


「どうしたんだろ、葉月君」


「さぁ…」


納得がいかないまま、私たちは首を傾げて席に着いた。




朝の騒がしさとは打って変わり、授業は穏やかに進んで、気がつけば放課後。


「里桜、帰るよ」


「えっ!葉月、剣道部は?」


小さい頃から剣道一筋な葉月の言葉に驚いてると、葉月が深い溜め息を吐いた。


「テスト前は部活動禁止でしょ。弓道部も一緒だよ」


「うわぁ、忘れて持ってきちゃったよ……」


がっくり項垂れると、本日何回目かの溜め息を頂戴した。


「テスト忘れるとか余裕だね、里桜」


「違うよ!朝バタバタしてたから、うっかりしちゃったの!」


「はいはい。いいから帰るよ」


然り気無く私の鞄を取って、歩き出す葉月の後を慌てて追いかける。


「ふふっ、ありがとう葉月!」


「何が?気持ち悪い顔してないで、早く行くよ」


笑顔でお礼を言えば、そっぽを向いて憎まれ口を叩く葉月。


でも、それが照れ隠しだとわかっているから、腹も立たない。


私は更に笑みを深くして、葉月の隣に並ぼうと少し横にずれて……。


「きゃっ!」


小走りだったせいか、自分の足に躓いてしまった。


グラリと、上体が前に傾ぐ。


目に広がるのは、長い階段。


「里桜!!」


葉月の鋭い声が聞こえたかと思ったら、グイッと左腕を引かれた。


バランスを崩して倒れる私が見たのは、さっき私がいた所に飛び出す葉月の背中。


ズダダダダン


大きな騒音と共につんざく様な悲鳴が上がる。


震える足を叱咤して立ち上がり下をみれば、血溜まりの中に倒れている葉月の姿があって……、頭の中が真っ白になった。

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