↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/2

プロローグ 現代

1995年 ドイツ・ベルリン


窓の外では静かに雪が降っていた


暖炉の火が小さく揺れ、古びた書斎を橙色に照らしている


一人の老人が椅子に腰掛け、ぼんやりとテレビを見つめていた


画面には第二次世界大戦終結五十周年の特集が映し出されている


行進する兵士たち

歓声を上げる群衆

戦車の列

瓦礫と化した都市


そして戦争によって失われた数え切れない命

老人は静かにリモコンを置いた

テレビの光が消え、部屋は再び静寂に包まれる


彼の名はハインケル・ヴァイス


かつてドイツ陸軍の将校としてヨーロッパ各地を転戦した男だった


老いた瞳は、今もなお遠い過去を見つめているようだった


ハインケルはゆっくりと立ち上がると、本棚の奥にしまわれていた古い木箱を取り出した


箱の蓋には無数の傷が刻まれている

長い年月を共にしてきた証だった


蓋を開く


中には数枚の写真が入っていた


一枚目を手に取る


そこには若者たちの姿があった

まだ軍服も着ていない頃の写真

写真の中にそれぞれの名前が記されていた


中央ではラインズ・ローラントが大口を開けて笑っている

その隣ではカール・アドラーが何か冗談を言っている最中だった

フリードリヒ・シュナイダーは相変わらず仏頂面で腕を組んでいる

そして端にはエリーゼ・ホフマン

少し呆れたような顔をしながらも、確かに笑っていた


写真の中の誰もが若かった

誰も戦争を知らなかった

誰も自分たちの未来を知らなかった


ハインケルは静かに目を閉じる



あの日、私たちは未来を信じていた


祖国の未来を

自分たちの未来を


この行いは必ず報われると

正しい選択をすれば国を救えると


そう信じていた


だが、現実は人の願いなど気にも留めない

気付けば私たちは時代の奔流に飲み込まれていた


そして多くを失った

失ったものは、あまりにも多かった


長い沈黙の後、ハインケルは写真を箱へ戻した


代わりに、一冊の古びた日記帳を取り出す


黄ばんだ表紙

擦り切れた角

何十年もの歳月が刻まれている


彼は机に座り、ゆっくりと表紙を開いた


最初のページ


そこには若々しい文字で、こう記されていた


「1930年4月」


ハインケルはその文字を見つめる

そして、遠い昔の記憶が静かに蘇り始めた



これは歴史を変えた英雄たちの物語ではない

歴史の激流に飲み込まれながらも


自らの信念を抱いて生きた者たちの物語である

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。