六十五話 「弟子な」
優子は部屋の修繕費を払いに、大家の部屋に来ていた。三人で無理に並んで寝て、壁に穴を開けたからだ。
「んと、一万二千円だな」
「ちぇっ」
「そう機嫌悪くすんなって。最安なんだから」
「ちぇーっ」
「......」
「へっ」
大家が横目に優子を見る中、優子はとどめの如く大家を鼻で笑った。
「......なぁ、優子」
大家が下手に呼ぶ。
「あん?」
「どうしたら、その、お前みたいに人の弱いところに優しく出来るんだ?」
「は?」
「いやっ......優子が居なくなれば、その分代わりがいるだろ!?」
大家はなんだか自分の性に合っていない気がして、顔が少し赤くなった。
優子は大家を一瞥して、話してやるか思った。
「大家さんは道にハムスターが落ちてたら拾いますか?」
「あーそりゃあ、拾って安全なところまで連れてくかな」
「その後は?」
大家は「後?」と、考えてなかった様子で答えを探した。
「何も知識がないから変に飼っても......他の人を探すかなぁ」
「自分で勉強すれば良いじゃないっすか。それじゃあ相手が有識人ってだけで人に押し付けているのと何ら変わりはないっすよ。でも、自分に知識がないって事をわかってるのはえらいポイント」
優子は大家に向けて親指を立てた。
「じゃあ、野美子たちは俺がどうにかしろと」
「あーそれもだめ」
「ああん?」
「なんか昔いたんすよねー、自分から首突っ込んで助けるとか言って、一人で馬鹿みたいな事して迷惑かけたやつ」
「どんなやつだったんだ?」
「デブで馬鹿で性格が低俗で、すぐ女に絡んだしクソみたいなやつだった。哲学者のカントは動機が大事って言ってたけど、その観点からすれば、そいつは悪かな。トラブルばっか起こしてたし、自分の価値観だけで考えて女の子泣かせるのは卒中」
「まぁ、そうなのか」
「大家さんはきっと下心ないだろうし、大丈夫かな」
「んじゃ、自分の最善を全力ですればいいのか」
「いい事言うじゃん。今日から私の弟子な」
「......は?」




