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021. 起きている事件

「――ありがとうございます」


 数秒ほどして顔を上げると、晃生さんのお母様は先ほどと変わらぬ表情で私を見ていました。


「……気にすることはありません。晃生の出入りしている離れ、アレは龍石神社への道が近く、その付近を下働きの者の服装で歩き回って欲しくないだけ――家の対面を保つためなので」


 冷めた声色に、晃生さんが言っていた『爪弾きにされている』という言葉を思い出しました。風輝さんといい、この方といい――。

 私ができることは……晃生さんの立場がこれ以上悪くならないように動くことでしょう。


「それでも、です。ありがとうございます」


 私は、彼女の目を見て柔らかく微笑みながら言いました。


 晃生さんのお母様はじっと私を見つめた後、ほんの少しだけ目を伏せて、再び晃生さんをみながら言いました。


「ところで。離れで世話をするのは良いですが……まさか、あそこに一人で居させるわけではないですよね?」

「――――」


 私は……一応そのつもりなのですけど。

 何も答えない晃生の後ろ姿を見ていると、晃生さんのお母様は呆れたような顔を見せました。


「貴方……ここ最近起きている事件のことを知らないわけではないですよね……?」


 事件――? そういえば晃生さんが何か言っていたような……かなり大きな事件なのでしょうか?


「それはもちろん! ですが……これまでの事件は街中で起きているし、離れには結界も――」


 その時です、晃生さんの言葉を遮るように、お母様は大きな大きなため息をつきました。


「……何かあってからでは遅いのです。貴方も離れに留まりなさい。そして責任を持ってその子を守りなさい」


 晃生さんと二人きりであの離れに?

 畳のお部屋は六畳なので……別に布団を並べて眠ることはできますよね……。晃生さんさえ良ければ、ですが。


「けどこんなムサイ男と一緒には……」

「ムサクないと思いますが――」


 思わず口から出てしまいました。だって、晃生さんのお顔は――おそらくお母様と同じタイプの美しい系ですし……。


「……よかったじゃないですか。彼女には問題ないようですよ」

「ですが――」


 なおも言い淀む晃生さん。


「では、これも彼女に渡しておきましょう」


 お母様はそう言うと、袂から小さな何かを取り出して、すっと私の方に差し出します。


 それは黒い小さな巾着でした。


「左手の中指につけていなさい。(よこしま)な感情でもって近づいてくる者を拘束する能力があります」

「それは――⁉︎」


 何故か晃生さんがとても驚いた声を上げました。


「神器に匹敵する能力の――家の家宝じゃないですか――!」


 え。


「今これの管理を任されているのは(わたくし)です。どなたにも文句を言われる筋合いはありません」

「ですがそれは本来当主が身につけている者なのでは――」


 晃生さんの驚き様から、それがいかに異様なことなのかが感じられます。

 何やら物凄い物を渡されようとしているらしいですね……


「あの……事件って、何があったのですか……?」


 聞いて、何ができるわけでもないでしょうが……。せめて巻き込まれないように注意することくらいはできるかもしれないと、どんなことが起きたのかを聞いてみました。


「――昏睡強盗事件だ――。

 被害者は昏睡しているが外相はなく――持っていたはずの貴重なアーティファクトが見当たらず、強盗事件として捜査されている」

「これまでのケースでは、街中で事は起きていますが――そんなものは()()()()の話。過去の話です。

 これから先も()()だと……誰かが保証してくれるのですか?」


 お母様の言葉に、晃生さんも「確かに」とつぶやきました。


「当主は今、件の事件の対策のためにこれの管理を私に任せたのです」

「まさか――当主自らが囮に――⁉︎」

「えぇ、今回の外泊もそのためです。

 キョウトの要所を守る五つの御家のうち、まだ被害にあっていないのは家ともう一軒しかありません。

 そのアーティファクトは、修復が必要となって非公式に修復に出されていることになっています。

 預ける相手は貴方でもよかったのですが、貴方はそういうものを引き受けたくはないでしょう?」

「確かにそうですが……だからといってトウマに――」


 それ、家宝を預かる、お借りするということは……この時代に、存在するはずのない私が“居た”ということが記録に残りそうで……。

 なんとなくですが、それは避けたいと思いました。


「すみません……私、そのように重要な物をお預かりすることはできません。そのアーティファクトに何かあった時、責任が持てないです――」

「……そうは思いません。貴女はかなりの使い手でしょう。

 身につけているアーティファクトの数々が、とても普通の物とは思えない光を放っています。

 そのような物を複数持っている者が只者とは思えません」


 光量――そうか、お母様も未使用アーティファクトの光が見えるんですね――!

 ですが……光を見ただけでそこまで言い切るだなんて……私が記憶喪失だということは全く気にしていないのでしょうか……?

 アーティファクトの使い方なんてろくに知らないのに――


「では――母上は俺が例の事件とは関係ないと?」

「貴方にそのような甲斐性が無いことは知っています」


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