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97階層 静寂の森での洗礼

「うん、偶数階節が濃厚だな」


 俺たちは階段を登り切るが、アナウンスが流れないということは、97階層ではDP消費の%はあがらないようだ。


「んで、次の階を登るまでが目標だよな?」

「そうだな、とりあえずはな」

「なんかこの階不気味じゃない?」

「少し薄暗いぞ!」


 レンが目標を確認したので、相槌を打っていると、メグミとサトシが周囲を見まわして感想を述べる。森であること自体は変わらないのだが、なんというんだろう。木々が茂っており、静かだ。ダンジョンの中だと思うので、正しい表現かはわからないが、日を遮っているんだろう。今までの階層ではそよそよと感じていた風も、ここでは無風に感じる。レンも感じたようで、周囲を見まわした後、肩を抱くようにしてぶるりと震えた。


「なんつーか、気持ち悪い森だな。変なのが出なきゃいいけど」

「ちょっと、レン! 不吉なこと言わないでよ!」


 ギャーギャーと騒ぐ2人の声が、まるで反響するようにいつもよりも数倍騒がしく聞こえる。違和感を感じた2人もすぐに声を潜めた。俺は3人に目配せをすると、つぶやく。


「慎重に進もう」


 こくりと3人ともうなづくと、俺たちは森の中へとゆっくりと足を踏み入れた。


 ざくざくと落ち葉を踏み締める音が妙に気になるほど大きく聞こえる。茂みに触れただけで、ざわりとした音に全員がびくりと反応してしまうぐらいだ。一言で言えば、不自然に静かすぎる森だ。


「ねぇ、あれって?」


 緊張を解けぬまま進む俺たちは、メグミが指差した方向にいる、白い塊に全員が目を向けた。いつの間にそこに? という気持ちもあったが、見た目は可愛らしい白いうさぎだった。今まで森で出くわした動植物は全て敵。俺は警戒を強めるが、見た目の愛らしさに3人は若干警戒を弱めてしまった。


「なんだ、あれがここの敵か?」

「うーむ、弱そうだな!」

「可愛いー! 抱っこできないかな?」

「お前ら……」


 だが俺は知っている。うさぎはその見た目とは裏腹に、賢く、縄張り意識が強く、歯や爪は人間などと比べると鋭いことを。忠告しようと、後ろの3人に視線を少し向けようと、うさぎから視線を外してしまった。すぐに油断は俺もだと視線を戻すと、すでにうさぎがいない。えっ、どこに?


「どこいった! ……っ!?」


 俺が叫んだとほぼ同時に、ズキンっと足の痛みに声がつまる。先ほどまでそこそこ離れた位置にいたはずのうさぎが、俺の足に食いついていた。遠目からだとわからなかったが、中型犬ぐらいのサイズだ。幻覚とか拘束とかだったのに、いきなりこんなんかよ! 痛すぎて咄嗟に声がでない!


「ヒロト!」

「このっ!」


 レンの声に、サトシがすばやくうさぎに掴みかかるが、素早い動きで茂みの中に飛びこんでしまった。


「だ、大丈夫? ポーションかけるね!」

「あ、あぁ、頼む。まじでいてぇ……」


 噛みつき跡というより刺し傷のような二筋の傷から血が流れている。結構深そうだ。メグミにポーションをかけてもらうことで痛みと出血は大分引いたが、全快とは言わなそうだ。ズキズキと痛む。


「悪い、油断した」

「すまん! 次こそ捕まえるぞ!」


 2人ともバツが悪そうな表情をしながら、周囲を警戒してくれている。自分自身も直接的に害を与えられことがなかったことに警戒が緩んでいた。あれだけの大きさのうさぎが、音もなく一瞬で近づいてくるなんて誰が予想できるだろうか。


「大丈夫だ。情報を得られたし、緊張感も取り戻せたから、マイナスじゃぁない」

「情報ってことは……まじかヒロト?」

「おぅ」


 俺は噛み付かれていたときに、白うさぎの鑑定に成功していた。ただで噛ませて終わらなかっただけでも上出来だろう。


ーーーーーーーーーーーーー

サイレントラビット

ーーーーーーーーーーーーー

物音を出さずに忍び寄る白い悪魔

鋭い牙での噛みつき

鋭利な爪での斬撃に注意


決して視線を外すことなかれ

奴らは捕食者である

ーーーーーーーーーーーーー


 見た目からは想像もできないほど物騒な鑑定情報を共有する。


「物理的な怪我を直接負うような敵は初めてだよな。この階層やばくね?」

「あぁ、下手したら死人がでる。首とか噛まれたらまじでやばい」

「最初はだいぶ距離があったと思うが、早すぎないか!」

「うーん、それなんだけどさ。多分なんだけど……」


 不可解な最初の距離の詰められ方は、全員が感じていたらしい。そんななか、メグミが憶測であると前提して、予想を共有してくれた。怖がっているだけじゃないところ胆力があるんだよな。


「鑑定結果が示す通り、全員の視線から外れるとまずいんじゃないかな?」


 俺が噛まれた時の状況を思い起こし、それぞれのうさぎから視線を切ったタイミングから、メグミの予想はだいぶ当たっているんじゃないかと俺たちは確信した。


 問題は、その瞬間に噛まれるのであればあまり試したくはないということだ。物理的なダメージがある。それだけで俺たちは引け腰になってしまっていた。

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