兄への態度
「と、とりあえず!い、い……いちゃいちゃ……してたからってアリオンに当たらないでよ!」
いちゃいちゃ……の部分はちっちゃな声で兄に文句を言っておく。
「はいはい。でもアリオンくんに襲い掛かるのにちょうどいいなって思ったのも本当だよ」
兄の言葉が理解不能で困惑の目を向ける。
――襲い掛かるのにちょうどいいってなにそれ……?
「ほら、やっぱり油断している時にどう対応するかも見たいだろう?」
「なによそれ……」
さも当たり前のように言ってくる兄に呆れて溜め息を吐く。
「アリオンくん、僕が時々突然襲い掛かってたから最近は訓練場内で気を抜くことなかったんだよね。流石に廊下で襲うわけにはいかないし……。今日はローリーがいるからか、アリオンくんが完全に油断してていい機会だったんだよ」
「お兄ちゃん……」
機嫌よさそうに笑ってそんな事を言う兄はとんでもないと思う。
――稽古の一環なのはわかるけど……わかるけど……!
さっと他の騎士……シオンやスカーレット、フューリーさんに目を向けると、なんだか遠い目をしていた。少し離れた場所にいる他の騎士の人達も兄を恐ろしい目で見ているような気がする。
――……お兄ちゃんの稽古についてくるのがアリオンだけになる理由がとってもよくわかるわ……!
むしろアリオンもよく兄の稽古に付き合っていると思う。
そう思ってアリオンを見るとなんだか難しい顔をしている。
「でも油断しきってたのにあの反応ができたのは成長してるね。僕がかなり接近してたのにちゃんと剣を抜いて対応するなんて驚いたよ」
「は、はい。ありがとうございます。俺としてはリックさんに指摘された通り、もっと早く気づけていたらと……それに守護魔法を構築するので精一杯で精度のことなんて考えられもしませんでした……」
兄の言葉に眉を寄せながら答えるアリオン。どうやらさっきの戦闘を省みて難しい顔になっていたようだ。
「そこはこれからの課題だね。さっきのはアリオンくんが今できる範囲内でしっかり対応したよ。そこを僕は評価してるから。気負い過ぎずに訓練していけば君ならすぐにできるようになるよ」
兄が微笑みながらアリオンにそう言う。アリオンはパッと顔を上げてとても嬉しそうに顔を緩めた。
「ありがとうございます!これからも精進します!」
「うん、頑張って」
その二人のやり取りをじーっと見ていた私は羨ましくて口を曲げる。
――アリオン、お兄ちゃんに褒められたからってとっても嬉しそうだわ……。
兄は上官で七つも年上で、その上私を通じて個人としても付き合いがあって稽古もつけてもらっている。だからかアリオンは兄に対して私達には向けない年下としての顔をする。
――……お兄ちゃん、アリオンの弟っぽい感じのはにかんだ可愛い笑顔を難なく引き出しちゃうなんて……悔しい……!
アリオンは私に対して過保護に守ってくれるのが主なので、弟っぽい部分はなかなか出さない。
――私にもアリオンのあの笑顔を見せてほしいのにー!
むぅっと兄とアリオンのやり取りを見ていると、ポンッと肩に手を置かれたので振り返る。
そこにはにこにこと笑っているスカーレットがいた。
スカーレットの意味深な笑みに顔を赤くする。
――あうう……。スカーレットに私の気持ちバレてそう……!
赤い顔でちらりとスカーレットを見上げると、微笑んだまま頷かれた。
――バレてるわね!これはバレてるわね!!
スカーレットに対して知った顔をしている場合ではなかった。
バレていそうとは思っていたけれど、実際に頷かれると羞恥が襲ってくる。
――スカーレットが赤くなっちゃった気持ちわかるわ……!
赤い顔を隠すように俯く。するとカリナから声が掛かった。
「大丈夫だよ、ローリー。他の人はみんなブライトさんの猛攻にローリーが屈してるんだって思ってるよ」
にこりと笑って言われた話に微妙な気持ちになる。
――アリオンの猛攻に屈してるって……なんだか悔しい気もするのだけれど……。
それにアリオンから猛攻される前からアリオンのことは気になっていたのだ。だから猛攻に屈したというのは違う。
――アリオンのこと、アリオンが気持ちをはっきり伝えてくれる前から……。……はっ!わ、私ってば今何を考えていたのかしら!?
なんだか恥ずかしいことを考えていたような気がする。
――あ、アリオンへの気持ちの理解度がふ、深まっちゃったわ……。
頬の赤みを手で抑えて誤魔化していると、にこにこしたカリナとスカーレットの顔が目に入ってそろーっと目を逸らした。
「ふふふ、ローリー可愛いわ」
スカーレットの言葉に恥ずかしくなりながらも見上げると、スカーレットは顔色を悪くして続ける。
「でもブライトはすごいわね……。ガールド隊長のあの急襲に対応するなんて……」
スカーレットは恐ろしいものを見るように笑っている兄と兄に褒められて嬉しそうなアリオンを見る。
「自分があれをされたらと思うと恐ろしくて堪らないわ……」
そう言ったスカーレットの顔は真っ青で、私は改めて兄とアリオンを見た。
――……やっぱりお兄ちゃんの稽古についていった上で素直に慕ってるアリオンって……普通じゃない、わよね……。
兄とアリオンの訓練への考え方が似通っているのも一因だと思う。やはり似た者同士なのだ。
――お兄ちゃんに訓練の仕方を聞いてたからなのかしら……?
うーんと腕を組んで悩んでいると、スカーレットの肩がポンと叩かれたのが見えた。スカーレットはパッと顔を上げてその人物……フューリーさんを見上げた。
「スカーレット……やっぱあの急襲怖えよな?だから顔青いんだろ?」
フューリーさんはスカーレットの青い顔を心配して声を掛けたようだ。原因ははっきりしているけれど。
「ええ……。あの本気で仕留めに掛かってると思えた鋭い眼光……。あれ……夢に見そうよ……」
「わかる……。俺もすっげぇ怖かった……」
スカーレットとフューリーさんが共に青い顔で頷き合っていると、同じく青い顔をしたシオンがひょこっと現れた。
「俺も……。んで気づいた次の瞬間にはガールド隊長とアリオンが鍔迫り合っててさぁ……あの速さでかぁって……」
「ああ……わかるわ……」
「あれ対応すんのかって思ったな……」
シオンも加わって苦そうな悔しそうな顔で三人は話す。
その顔にアリオンが褒められているように思えて顔が緩む。
――ふふ、やっぱりアリオンすごいわ。
……兄の稽古のやり方には問題があるとは思うけれど。
――うーん……でもあんなやり方だからこそアリオンが強くなっていっているのかしら……?
兄が褒めてスカーレット達が悔しそうにする程強くなっている。それは素人の私から見ても無茶苦茶ではと疑ってしまう稽古のお陰なのだろうか。
ちらっとアリオンを見る。
兄より背が高いのに、アリオンの幼い笑顔が兄を慕う年下だと表している。それに少し頬を膨らませながら腕を組む。
――もー……アリオンがあんな顔するからやっぱりお兄ちゃんになんにも言えなくなっちゃうわ。
アリオンが兄の稽古を受け入れているなら仕方ない。強くなっているのが嬉しい気持ちが溢れ出ているアリオンのあの笑顔を見ると何も言えない。
スカーレット達は更に話を続けている。
そういえばと思ってユーヴェンの方を見ると、ちらちらとカリナを気にしていた。色んな元凶の自分がこちらに近寄ってもいいのか一丁前に悩んでいるらしい。……さっき感心した顔をしたのがちょっとイラッときたのでもう少しそのまま悩ませておこう。そう考えてユーヴェンから目線を外す。
「あの速さで魔法を次々展開していくのも驚くわ」
「よく守護魔法をあんなにすぐ展開できるなって……。しかもちゃんとガールド隊長の蹴りがきた方向に展開してただろ?あれ見ると……学園じゃアリオンより俺の方が魔法の成績よかったけど、やっぱ実戦で使う魔法の上手さは違うなって思い知らされる……」
「そうね、それは私も感じるわ……」
スカーレットとシオンが眉を寄せながら溜め息を吐く。やはり実戦では一瞬の判断で適切な魔法を使っていかなければいけない分、魔法の成績だけでは測れない難しさがあるのだろう。
「この前の模擬戦もすごかったけどな……今回のは急にだぞ?まぁ確かに突然襲われる状況もあんのかもしれねぇけど……あそこまで急に切り替えできずにやられちまうぞ……」
フューリーさんの言葉にピクッと反応する。この前の模擬戦のことは気になる。
「そうよね……。そこは私達も鍛錬不足かしら……」
「ぐう……それはそうかも……。でもやっぱりこの前の模擬戦、すっげぇ容赦なかったよな。今回はアリオン怪我もほぼしてないし……」
そうシオンが口に出したところでピタリと止まる。そしてゆっくりと私に視線を向けてきたのでにっこりと笑ってやった。
「シオン?『すっげぇ容赦なかった』模擬戦の内容、教えてくれるかしら?」
口端を引き攣らせたシオンに笑いながら詰め寄り詳細を聞いたあと。
私は兄に怒りの一撃を食らわせたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
更新が遅くなってしまってすみません。
私事が立て込んだ上に体調を崩してしまいまして……。
今は元気になったので更新ペースを上げられるように頑張ります。
これからもよろしくお願いします。




