プロローグ
彼が好き。
どうして気づいてしまったのだろう。
彼の背を見送りながら、今気づいた想いに愕然とする。
そんな私の心など知らない彼は、ふと振り返り無邪気な笑顔で私に手を振る。
それは彼の恋を応援してるから。その私に対する感謝の気持ちだ。
私は小さく手を振り返した。
うまく笑えているだろうか。気になるけれど、ここに鏡はない。
気がつけば一筋の涙が頬を伝っていた。はっとして前を見る。彼の後姿はもう見えなくなっていた。
ぐっと唇を噛み締めて、声を出さないようにしながら上を向く。下を向いては、更に涙が零れそうだったからだ。
ここは王城の渡り廊下で、顔を上に向けただけで綺麗に澄んだ青空が見えた。
私の心とはかけ離れた空に、慰められた気がした。
―*―
訓練の合間に見上げた空はとても青々しく綺麗で、つい眺めていた時だった。
彼女は涙を流していた。
誰かがいたのだろうか、二階の渡り廊下でその奥を見つめながら涙を流していた。
彼女は不自然には見えないよう気を遣った仕草で目元を拭うと空を見上げた。
何かを抑えつけるように目を瞑ってからゆっくり開き、その碧天のような碧の目に空を映す彼女はとても綺麗だった。
亜麻色の髪が風に吹かれてふわりと広がり、次に前を向いた時には凛としていた。
その横顔に、俺は焦がれてしまった。