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70 視線

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 視線が落ちる先に見えるのは美しい筆跡。その筆跡にはこの瞬間を書き留めることに命の燃焼をしないではいられない、そんな強さがあった。


 ――日記なのだ。


 自分の感覚では今日何をしたか、世界はどう動いていたか、そして未来の自分に期待することは何か、そんなことを唯徒然と赴くままに書く、それが日記だと思っていたが、しかしながらこの日記には明日を生きられるかどうか分からない切実さがあった。

 だからこそかもしれないが、もし自分に死が訪れればと言う暗黙の約束を果たす為に、自分の言葉を此処に残そうという信念が感じられた。


 ――田中イオリの日記。


 真帆が彼女の美しい筆跡で書かれている日記の頁は1945年、三月十四日と日付が書かれている。

 その日、何が遭ったというのか。

「大阪大空襲があった日だよ」

 先程タブレットを渡した友人が呟いた声が鼓膜奥で響く。


 ――1945年、三月十四日


「その日大阪は一面焼け野原になったんだ」


 友人の声はまるで遠くの世界からその時の現実を引き寄せる力があった。そしてその声に引き込まれるように真帆が田中イオリの美しい筆跡を追ってゆく。

 真帆は彼女になる。

 そして彼女の生きた世界の扉を開いた。


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