34
あっという間に整理してしまったレイを驚いた目で見つめればレイは笑って照れ臭そうに椅子をルカのそばに持ってきて座り直した。空になった段ボールにまとめたファイルを積めて軽々と持ち上げる。ルカも慌ててファイルを持ち立ち上がった。
「レイがこんなに整理上手だとは思わなかった。結構大変なんだよ」
「そうですか?これでも几帳面らしいです。部屋もめちゃくちゃ綺麗だって言われます。俺はそう思わないんですが」
尊敬を込めた目でキラキラと見つめるルカにレイは照れを越えて恥ずかしくなり少し早足で机へと戻った。親や友人からも気持ち悪い、顔に似合わないと言われ、からかわれ続けた自分の特徴をここではまた褒めてもらう。真っ直ぐに褒められる経験があまりないため、ルカの素直さは心臓に悪いが、正直とても嬉しい。にやける顔を見られないように隠しながらレイは机の横へ段ボールを置いた。
「改めて見ると、すごい量だね。これで何か発見できなかったら。。。レイの労力が無駄になってしまう」
「へ?なんですか?それ」
照れ隠しのため顔を見られないように背中を向けていたレイが勢いよくルカの方を向く。段ボールの中にあるファイルをぼんやりと見つめながら無意識に出た言葉をレイはしっかりキャッチしたらしい。まさか反応が返ってくるとは思っていなかったルカは驚きながらも、ごめんねと静かに謝った。
「え?全然いいですよ。てか、この資料整理って俺がサボったわけですし。それに無駄になっても、それはそれでいいじゃないですか」
「そうかなぁ」
「そうですよ。一生懸命やったからって全部が結果に繋がるわけじゃないですけど。俺が罪滅ぼしのためにやったのもあるし」
レイはまとめたファイルを一冊取りパラパラと捲って何かを思い出すように優しい目をした。報告書が日付順に並んでいることを確認してルカへ手渡す。ルカは受け取って不安げにレイを見つめた。
「それに、俺、この頃仕事が楽しいんですよね。さっきも言いましたが、こうやって働くのすんごく楽しいんですよ」
「そうなの?」
「はい。ふて腐れて掃除をしていた時はかなりしんどかったのに。自分でもコロコロ変わって恥ずかしいんですが。ルカさんが言ってたように自分に素直になったからかな」
新しいファイルを出して綺麗に並べられているのを確認している。大量にあったバラバラの報告書はあっという間に見やすいファイルになっていた。感情がすぐ顔に出るレイがとても明るい顔をしているので、ルカも少しずつ不安が小さくなりほっと息を吐く。
「そっか。。。よかった。コウからも同じ事を言われたよ。気にせずとことん調べてって」
「ははは!そうですか。じゃあ、しっかり調べないと。まず、特定の3人の報告書を探してみましょうか?」
レイは自分の机から付箋を取り出してルカの机に置いた。3人を色で分けて見つけたらペタペタと貼っていく。低迷期の7月から11月の報告書を二人で手分けして見直しながら3人の報告書に一通り目印をつけた。
「なんか、少ないね。それに3人とも似たような商品を売り上げてる。相手先の会社はどう?」
「どれも同じグループ会社ですよ。4ヶ月間もあるのに報告書がこれだけって変です。俺だったら、先輩たちから怒られています」
付箋を貼った報告書を数えてみても明らかに数が少ない。チーム内で指摘されなかったこともおかしい。また疑惑が増えてしまった。
「営業部って1ヶ月のノルマがあるんですが、3人ともギリギリでクリアしてます。しかも、無駄なくピッタリに。これも変ですよ」
「報告書の書き方も単調で必死で書いてる様子はないね。ほら、レイの先輩の報告書。とても綺麗に書かれている」
「本当だ。先輩はいつも書き直しが多かったから、こんな報告書初めて見ました」
11月分のファイルを閉じてレイは大きくため息をついた。なんとなく先輩が関わっているかもしれないと疑っていたが、だんだん確証に変わりやるせない気持ちが溢れてくる。ライバルだと思っていた若い社員も裏で通じていたのなら、とても残念だ。営業部にいた頃は劣等感でいっぱいだったが今は純粋にがんばってほしいと応援する気持ちが芽生えていた。
「アルさんのプレゼンが負け続けたのも、この3人が情報を流していたのかもしれない。その見返りに商品を売り上げていたとしたら」
「でも、証拠がありません。あくまでも推測です。偶然だって開き直られたら何も言えないですよ」
ルカもファイルを閉じてフル回転していた頭を休ませるように天井を見上げた。文字は書き手の心情をそのまま訴えてくる。感情を圧し殺したような報告書にルカも気持ちが重くなって思わず息を吐いた。
「レイ、今度は12月から2月分の報告書を見てみよう。書き方が単調なのはわかったけど、もう一つ気になるのは、この報告書を見た上層部の反応が何もないことだよ。売上が上がっても下がっても指示がないなんて、おかしい」
「確かに。。。まるで黙認しているみたいです。3人の報告書を見た役員はそれぞれ違いますが、ヨシザワ部長の印鑑があるのに何も書いていないのも引っ掛かります」
人を褒めたり叱ったり、部下想いのヨシザワが特定の3人に指示をしなかったのもおかしい。クレームや得意先回りで忙しいヨシザワだが、部下の報告書に目を通した時には何かしら赤ペンで手紙のように簡単なメッセージを残していた。レイもヨシザワから時々赤ペンでメッセージをもらっている。励まされたり突っ込まれたり。次の営業に繋がるヒントもたくさんあった。
「ヨシザワ部長って全部の報告書に目を通すの?」
「いいえ。数が多いですからね。部長の他に役員が確認して捺印します。全部見たいっておっしゃってましたが、それじゃあ、毎日机から離れられませんよ」
「そっか。だから、ヨシザワ部長の印鑑があるのとないのとあったんだ。印鑑が押してあるなら、目を通してるってことだよね」
偶然なのか3人の報告書にはヨシザワの印鑑が押されていた。赤ペンでメッセージが書かれてある報告書に押された印鑑と同じで、別の印鑑を使われた形跡はない。確実にヨシザワの持つ印鑑が押されている。それでもレイは首を傾げて納得いかない顔をした。
「忙しくても手書きで言葉を書いてくれるんですけどね。おかしいなぁ」
スッキリしないまま売上が劇的に上がった1月分を見てみる。ほとんどの社員が売上の成果を喜ぶようにぎっしり文字が書かれていた。売り上げた商品は消耗品から最新型の器具と様々で、中にはずっと交渉し続けた成果を誇らしげに書いているものもあった。
「売り上げた相手先の会社を見ると、見慣れない名前も出てきたね。書き出して隊長に見てもらおう」
「はい。ルカさんが言ってた通り3人の取引先、すべて同じグループ会社ですよ。入れ替わっていますが、他の取引先が見当たらない。2月分はどうでしょう?」
今度は二人で一番売上高がある2月分の報告書を見直してみた。金額が大きい取引ほど同じ会社名が出てくる。ルカとレイは顔を見合せ、やっぱりと頷き合った。
「営業部が低迷していた時も劇的に売り上げた時も、上層部は黙認していて取引先も同じグループ会社ばかり。変だよね」
「はい。プレゼンの資料も臨場感がなく淡々としていました。まるで選ばれるのがわかっているみたいに。でも、証拠にはなりません。どうやって突き詰めるんですか?」
レイの問いかけにルカは難しい顔をして苦しそうに唸った。不審な点があるのものの報告書としては何ら問題はない。純粋に商品を売り上げ上層部からも認められている。
「隊長に報告して指示をもらおう。レイ、急に売り上げた取引先のメモ取った?」
「はい。あの、印鑑って簡単に同じものを作れるものなんでしょうか?」
レイはまだヨシザワが印鑑を押しているのに赤ペンでメッセージを書いていないことが気になっているらしい。ルカは念のためヨシザワの印鑑が押されていて、メッセージが書いてあるものと書かれてないものの報告書をファイルから取り出した。
「これも隊長に見てもらおっか。そうだ!隊長の机からルーペも一緒に持っていかなくっちゃ」
「。。。。」
ルカはリュウガの机の引き出しから銀色の丸く分厚いレンズを取り出し二枚の報告書の上に置いた。レイは何とも言えない顔でじっとルカの動きを見守っている。不思議そうに見上げたルカに、どうでもいいがずっと気になっていたことを告げた。
「隊長の引き出しって、どうなってるんですか?なんか、前、見たこともない工具がガシャガシャ出てきたんですけど」
「ああ」
リュウガの引き出しは異様に広く深く作られていた。後ろの棚にも様々なものが綺麗に収納されている。リュウガ自身いろんなものを作るのが大好きで、道具も使いやすいように改造しているらしい。
「隊長の引き出しってなんでもあるんだよ。足りなかったらパンフレット見て頼んだりしてる。この件が解決したら、見せてもらうといいよ」
「はぁ。。。隊長って自由ですし、ほんと謎ですよ。まあ、今さらですけど」
リュウガの過去や経歴が全くわからない。持ってきたレンズも本格的なもので、どうしてそんなものを持っているのか検討もつかない。聞いてみたいが聞くのも怖い気がする。
「頼りになるってことだけはわかるんですけど。俺には深すぎます」
「ははは!」
整理したファイルを段ボールに戻し、ルカとレイは中央の寛ぎスペースへと歩いていく。こたつの上で何やらパソコンを操作しているリュウガに新しく記したメモと二枚の報告書、レンズを渡し、気になったことを報告した。
ポンポン書いてみました~~。とにかく四六時中小説から逃げないというか。どっぷり浸かりながら自分の人生も楽しんで完結に向けて書いていこう!と思います。いつもありがとうございます(*^^*)どうぞお読みください♪




