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この世は優しくて甘い   作者: ニケ
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ルカとレイの報告を聞きながらリュウガはうんうんと頷き、簡単な質問を繰り返す。問いかけられたシンプルで何気ない言葉に、考えながら答えていくともやもやと霧に包まれていた頭がスッキリと晴れていくのを感じる。疑惑は疑惑として無理に結論付けなくていい。リュウガの軽やかでふわっとした口調から暗くて重い気持ちが少しずつ軽くなっていく気がした。



「なるほどなぁ。それは落ち込むだろうね。レイ、大丈夫?このまま深く調べても辛くない?」



「はぁ、まあ。。。落ち込みはしますが、どうしてもはっきりとした事実が知りたいです。あいつや先輩が不正の売上を上げていたとしたら、その理由っていうか」



「正々堂々が好きだもんね~~、レイは」



あっけらかんとした声で的確に心情を指摘されて恨めしい気持ちもあるが、ここは素直に頷いておく。自分には知らない裏側があるのなら知っておきたい。そう考えると胸の辺りがどんよりと重くなったが、そばには軽やかで優しい書籍部の仲間がいる。できる限りどこまでも調べてみたい。



「中途半端に暴いても傷が深くなるだけだし。。。隊長、どうしますか?」



二枚の報告書とレンズ、メモ紙をパソコンのそばに置いてルカは静かにリュウガを見た。リュウガは動かしていたマウスを止めると、画面上を画像を何やら拡大し、見てごらんと二人に優しく促した。



「これ、インクですか?」



「そうそう。アルの資料にあった7人の筆跡とインクをね、調べてみたんだよ」



「細か!!てか、この繊維、紙ですか?」



拡大された黒のねばっとしたものと羽のように細い糸のような物質が画面上に広がる。リュウガが隣にあるカラフルなボタンをポチッと押すと、黒の線が赤や橙色に変わり何やら小さな数値も一緒に表示された。



「なんですか?これ。赤から紫まで。色が徐々に変わって、レインボーだ」



「あ!隊長、これってもしかして。使われているインクの量で文字の筆圧を表してるんですか?」



「ピンポーン!」



ルカの指摘にリュウガは人差し指を立てて正解とばかりに明るく笑った。ルカは驚いたまま画面上のカラフルな線を見つめる。数値はインクが使われた微細な量を示しているらしい。いつの間にこんなものを作ったのかレイは何も言えないままリュウガに視線を送った。



「ふふふ。もう、二人とも!そんなに褒めたら照れるじゃないか!!いやー、初めは俺のロマンを叶えようってメガネくんに打ち明けたんだけど」



「。。。褒めてませんよ。。。なんですか、そのロマンって」



「ふふふ!自分だけのオリジナルインクをさー!!ブレンドして作ってみたくなって!んで、俺の書き方にピッタリのインクを探そうとにやにやしてたのさ」



オリジナルのインク!自分には全く思い付かない発想だ。何だか興味を引かれてレイは相づちをうち、体をリュウガの方に向けた。面白いと顔に書いてあるレイにリュウガはますます嬉しそうに笑い口を開く。ルカは楽しそうな二人を見守りながら優しく笑い、また真剣な表情で画面を見た。



「人って書き方に癖があるだろ?俺の癖に合わせたピッタリのインクを作りたい!って前々から思ってたのさ~~。メガネくんも万年筆好きだし」



「俺も好きです!カッコいいですよねー!あのインクのかすれ具合や継ぎ足して使った時のにじみとか!」



レイの明るい声にリュウガは顔を綻ばせて、うんうんと深く何度も頷く。万年筆好きの仲間が増えて二人して楽しそうに笑った。



「レイの歓迎プレゼント、どうしようか迷ってたんだけどさー、もう万年筆で決まりだね。金ぴかの万年筆にしようかなぁ」



「え!?そんな、俺、まだ何も役に立ってないし。そんなプレゼントなんて、もらえませんよ」



「ふふふ」



全力で拒否するレイをリュウガが何か企んでいるような顔でまた違った含み笑いをした。この事件が解決したらお祝いしないとと小さく呟いてにやけた顔を引き締めるように自分の頬を軽くつついた。



「さてさて、それじゃあ証拠品を見てみようか」



「証拠ってほどでもないですけど。。。ヨシザワ部長の印鑑が気になって。隊長のレンズも一緒に持ってきました」



真剣な表情で見つめていたルカに話しかけると、画面から視線を外し調べてほしいと伝える。リュウガは分厚いレンズを目に当ててこたつに持ってきていたスタンドの光を強に切り替えた。二枚の報告書に押印してあるヨシザワの印鑑を丹念に見つめた。



「どうですか?」



「うーん、これ、同じ印鑑で押されてるよ。だって、ヨシザワ部長の印鑑、俺が壊したしね」



「へ?そうなんですか?」



レンズを外し何かを考えるように上を見ながらリュウガは何気ない口調で気になることを言った。不思議そうに話の先を待つルカとぎょっとした目で固まっているレイに過去の行いをしみじみ思い出しながらのんびりと口を開いた。



「ヨシザワ部長。いつも印鑑を引き出しに入れて持ち歩かないからさぁ。不正に使われたら大変だろ?全く同じの新しい印鑑作られても困るし。だから、真似できないような傷をつけたのさー」



「ええ!?マジですか!?」



「わぁ。。。」



不正防止のためとは言えそこまでやっていたとは。二人とも驚きながらもリュウガに持ってきた報告書の印鑑をもう一度見直す。丸い外枠の部分に小さな空白があり、所々特徴的な線も入っていた。



「これなら、新しく印鑑を作られてもわかるだろ?部長を説得すんの、疲れたわー」



「そうだったんですか。人を疑うのを毛嫌いする人ですからね。。。じゃあ、二つの報告書に押された印鑑は同じもので間違いないと?」



「うん」



リュウガは口元をきゅっと引き締めて二つの報告書を見比べた。ルカが気になった赤いペンでメッセージが書いていない方を注意深くレンズで見る。一枚だけではわからない。レイにヨシザワの印鑑が押された報告書をできるだけ多く持ってくるよう指示した。



「朱肉のつけ具合もこの装置で見てみようか。肉眼ではわからないものも数値化してくれる。気になるんだよね?」



「はい」



ルカはマウスを動かしてリュウガが見ていた7人の筆跡と筆圧をじっと見ている。リュウガは嬉しそうに小さく笑って、装置の使い方を教えた。この装置はルカ専用になるだろう。開発部の同期はさぞかし飛び跳ねて喜ぶに違いない。



「その前に、この7人の筆跡と筆圧を覚えておきたいです。こうして色で示されると、とてもわかりやすいですね」



「うん。不思議だよね。人って顔だけじゃなくて、文字も書き方や力の入れ方で個性が出る。無意識に心を表してるんだから」



操作を教えるとすぐに使いこなし、夢中で画像を見つめるルカをリュウガは優しく見守り穏やかに目を細めた。プレゼンの資料はパソコンで打ち出して印刷されている。しかし報告書は想いを込める、自分の営業活動を見直すという理由で手書きで書くことが義務づけられている。そこには不正を防ぐという意味も含まれていた。



「持ってきましたよ!ヨシザワ部長の印鑑が押されている報告書。これでどうですか?」



「お!ありがとう。じゃあ、ルカ。スキャンしてみて」



報告書の中で印鑑の部分だけを綺麗にスキャンする。画面上にスキャンした印鑑の朱肉量を示した数値と色の変化がゆっくりと映し出された。驚いたのは見事に赤ペンでメッセージが書かれてあるものと書かれていないものでは朱肉の量が違っていた。詳しく見てみると、メッセージが書いてあるものは均一にほぼ同じ数値が表されているのに対して、メッセージがないものは朱肉量を示す数値がバラバラで統一されていなかった。



「メッセージが書いてあるものは、ヨシザワ部長が押していて、他のものは別の人が印鑑を押している。。。」



「ってことですよね。ヨシザワ部長の印鑑ってどこにあるんでしょう?」



「おそらく、部長のことだから引き出しなんじゃない?鍵はかけてるだろうけど」



リュウガは明るくしょうがないと肩をすくめ、出てきた解析結果をじっと見つめた。印鑑の押し方にも癖が出るらしく、もっと突き詰めれば誰が印鑑を押したのかおぼろげながらもわかりそうだ。しかしそれには地道で膨大な労力が必要になる。報告書に押されている役員や社員の印鑑部分をスキャンし、それぞれの朱肉量の特徴がわかるまで何度も同じ作業を続けることになるからだ。



「ヨシザワ部長が押印していない報告書があるってわかっただけでも大きな手がかりだよ。プレゼンの資料だって、部長が確認しないまま作成されてるものもこれでわかるわけだし」



「そうですね。ルカさん。今度はプレゼン資料に押印された部長の印鑑を調べてみましょう。印鑑だけでヨシザワ部長不在のまま行われたプレゼンもあるかもしれませんし」



「。。。。そうだね」



調べるなら徹底的に調べたいと悔しそうな目をしているルカをリュウガとレイはやんわり止めて、再びプレゼン資料を引っ張り出した。ヨシザワからもらった資料はアルからの資料より数が多い。資料すべての印鑑をスキャンするのも大変な作業だ。真剣な目の光は衰えないものの、少し疲れた色が見え始めたルカに、リュウガとレイはそっと休むよう顔を覗きこんだ。

やっと書けましたー!!全然一人になれず、夜中書いて爆睡して書いて爆睡して。一人の時間ってすんごく貴重だな。。。としみじみ思いました。人がいるとどうしても物語の世界にどっぷり浸かれない。。。これも修行だ!!と楽しみながら書いてみました。いつもありがとうございます(*^^*)どうぞお読みください♪

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