女の影
もちろん、エレナにはその話をフィルディアにする気はなかった。
もし事実であっても、結婚しているのは自分である。
そして、その相手が本当に姫ならば、自分に敵うところがなく、諦めるしかないと考えていた。
ただ、本当かどうかあまりにも気になり、屋敷を出て王宮まで来てしまった。
使用人たちの目をかいくぐり、どうにか外へ出れば、部屋に入るめったに訪れない彼らは気づくことができない。
貴族のお嬢様としてではなく、家で動き回って育ったエレナには、屋敷から王宮の道は徒歩でも簡単だった。
エレナは、フィルディアの顔が見れるだけで良いと思っていた。
ここ数日は睡魔に勝てず、遅くに帰るフィルディアに会うことすらできていなかったからだ。
エレナは、フィルディアの家紋を使い、簡単に王宮に入ることができた。
「宰相様かー。ならあっちに見える塔の方にいると思うよ。」
親切にも、門番がフィルディアの居場所を教えてくれた。
門番も、まさかこの少女がフィルディアの妻であるとは思っておらず、親戚か妹が会いに来たものだと思っていた。
エレナは意外にもすぐにフィルディアの姿を見つけることができた。
白銀の髪と蒼い目のフィルディアは、一際目立っていた。
フィルディアは誰かと会話をしていた。
ここからだと顔がはっきりと見えなかったが、柱の影で密接した距離感だった。
艶やかな金色の髪をした女性と至近距離で話すフィルディア。
絵になる二人だった。
エレナとフィルディアでは身長差が大きい。
女性とフィルディアは、身長が近く、金色と銀色の髪の対比が美しく映る。
後少し歩けば、フィルディアのところにたどり着けるーー
しかし、エレナの足は進まなかった。
金髪の女性とフィルディアが他人を寄せ付けない親密な空気を醸し出していた。
どうみても、昨日今日だけの関係ではない、とエレナは思った。
気づけば自分の部屋まで帰ってきていた。