ドラゴン
次の日からフィルディアは遠征に出た。
エレナは、その日ばかりはフィルディアを見送れるようにと次の朝まで一睡もせずに起きていた。
屋敷から出ようとしていたフィルディアは、玄関に慌てて出てきたエレナに驚いていた。
フィルディアは、その日もエレナに何か言うわけではなかったが、
「気をつけて帰ってきてください。」
「ああ。屋敷を頼む。」
という会話だけでエレナは満足していた。
それからフィルディアが戻らない日が続いた。
外の天気も悪く、雷がゴロゴロと鳴り響く。
エレナはフィルディアのことが心配で仕方がなかった。
フィルディアが帰らなくなってから三日後の夜、窓から外を見つめるエレナの視界になにかが映った。
それは、空から落ちてきた。
「ギャンッ」という鳴き声が聞こえ、エレナは慌てて外へ飛び出した。
エレナは雨の中、声の正体を探した。
雨で視界が遮られる中、キラリと光る何かが目に入った。
庭の芝生の上に横たわるそれは、弱々しく震えていた。
エレナは恐る恐る手を伸ばす。
それは抵抗をせず、エレナの手に収まった。
ツルツルとした爬虫類のような銀色の鱗。
猫のような瞳孔をしたキョロリと青い瞳。
背中には一対の翼が生えていた。
エレナはそれを手のひらに乗せ、慎重に部屋へと持ち帰った。
大雨と雷で慌ただしい屋敷では、エレナが外へ出たことは誰にも気付かれてはいなかった。
こっそりと部屋に戻り、エレナはそれをベッドの上に乗せた。
それがドラゴンと呼ばれる希少種であることに気づいていた。
ドラゴンはその貴重さゆえ、鱗一枚でも高値で取引される。
ここ数百年は目撃されておらず、絶滅したというのが通説だ。
エレナも図鑑でしか見たことがなかった。
硬い鱗で覆われた身体は冷たく、水滴をぬぐっても冷たいままだった。
エレナはメイドを呼んだ。
「エレナ様。失礼いたします。なにかご用でしょうか?」
「お風呂に入りたいのだけど、いいかしら?」
メイドが風呂に湯を張る間、ベッドに乗せたドラゴンを背で隠した。
それが終わると、メイドには退室してもらえるよう頼んだ。
貴族は数人のメイドを伴って、入浴する。
身体を洗うことから、乾かすことまで全てをメイドに任せるのだ。
しかし、エレナは昔からメイドを伴わずに風呂に入っていた。
その習慣はここでも変えることができず、部屋の外では自由にできないエレナも、部屋でのことだけは好きにさせてもらっていた。
もちろん、初めはメイドの大反対にあったのだが。
そっと、手のひらにドラゴンをのせ、エレナは浴室へと向かった。
エレナは一旦ドラゴンをタオルの上に乗せ、着替え始めた。
すると、今まで大人しくしていたドラゴンが暴れ始めた。
エレナは驚き、脱ぎかけのままドラゴンを持ち上げると、また大人しくなった。
エレナは風呂の中でも、終始ドラゴンを手のひらに乗せて温めた。
エレナの身体ほど熱を帯びることはなかったが、さっきよりかは温かくなったドラゴンにホッと息をついた。
エレナは風呂を出ると、自分より先にドラゴンの水滴を拭った。
ドラゴンはくすぐったそうに、ブルブルと身体をよじらせた。
そのままドラゴンはベッドに戻し、隣に並んで眠りについた。




