いなくなるドラゴン
エレナの細い首は、老いた男の手の中にも簡単に収まった。
ぐっ、とその手に力が込められたその時。
ゴオッ、と炎が老いた男を襲った。
強い魔力だ。
男は思わず、エレナから手を離した。
「なんだ!」
男は怒鳴った。
付き人や、女性も辺りを見回したが、魔力を使った痕跡のある者は見つけられなかった。
エレナは、ふと、頭に重みを感じた。
自分では頭の上を確認できなかったが、男たちは不思議そうに上を見つめるエレナにつられ、エレナの頭上を見た。
「な、なにあれ!」
女性は悲鳴をあげた。
「ど、ドラゴンだ!」「本物か!」
反対に男たちは歓声を上げた。
一人の男が、ドラゴンを捕まえようとエレナに近づいてきた。
エレナはとっさにドラゴンをかばった。
「なんだ、お前!」
エレナに怒り、もう一度手を出そうとした男に、
「やめろ!!!」
と、老いた男が怒鳴った。
老いた男の手はワナワナと震えていた。
顔も真っ青だった。
その時、パキン、と何かが割れる音がし、エレナの頭上から重みがなくなった。
「あ、あぁ、、フィルディア様...」
怯える男の目線をたどる。
エレナの隣に、フィルディアが立っていた。
男たちや、女性はとてつもなく驚いた顔をしていた。
「貴様ら、ここでなにをしている。」
エレナの隣が冷んやりと感じた。
老いた男は、今にも床に膝が付きそうだ。
「お、お許しを....」
とうとう、男たちが床に膝をつき、謝った。
男たちは、フィルディアの分家にあたる遠い親戚だった。
「フィルディア様!どうしてそんな女をかばうのですか!」
唯一、膝を付かなかった女性が、フィルディアに向かって叫んだ。
フィルディアの眼光はこれ以上なく鋭くなった。
「貴様、誰に向かってものを言っている。」
フィルディアの殺気を直接浴び、女性は腰を抜かした。
ぺたりと床に座り込んだ女性は、それでも不満げだった。
「いいか、女。俺はお前が誰か知らぬ。
そして、お前と結婚の約束をした覚えもない!」
その言葉を皮切りに、男たちは一斉に屋敷を追い出された。
女性は担がれ、老いた男は引きずられていった。
エレナは唖然とした。
めまぐるしく変わる状況に、頭がついていかなかった。
「フィルディア様...?」
「ああ。」
「ど、ドラゴンは...?」
「ーーあれは、私だ。」
ドラゴンは、フィルディアだった。
ふらっ、と倒れこむエレナを、フィルディアが支えた。
そのまま、部屋に連れていかれた。
フィルディアの優しい手つきに、エレナはなにがなんだか分からなかった。




