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侵入者

エレナはドラゴンとの生活を満喫していた。


ドラゴンは毎日あぐあぐとエレナを噛み続け、至る所に噛み跡を作った。

フィルディアが帰ってこない悲しみや不安は、ドラゴンとの毎日で薄れかけていた。


それどころか、フィルディアがとっくに国に帰ってきていると聞いて、別の不安が生まれていた。

「フィルディア様、どうして帰ってきて下さらないのかしら...」

ベッドにつっぷすエレナの隣で、ドラゴンがキュウ、と鳴いた。


突然、使用人たちが慌ただしく動く気配がした。

窓から外を覗くと、馬で屋敷に乗り込む人が数人見えた。

エレナは、フィルディアが帰ってきたと思い、急いで玄関に向かった。


久々に部屋から出てきたエレナに、使用人たちは驚いていたが、

「エレナ様、部屋にお戻りください!」

と、なぜか一様に部屋に戻るように言う。


エレナが疑問に思っているうちに、玄関から険しい声が聞こえてきた。


「フィルディア様はおらぬのか。」


年を取った男の声だった。


メイドや執事たちが、慌てて帰って頂けるよう説得するのを横目に、屋敷まで上がってきてしまった。

そして、その男に続き、クルクルした髪の女性や、男の付き人や騎士までもが屋敷に乗り込んだ。


男たちの身なりは良く、勝手知ったるように屋敷を歩き回る男に、使用人たちも強くは出れないようだった。


「フィルディア様を出せ。」

年老いた男は、執事に詰めよった。


「お帰りになられておりません。」

「そんなわけはなかろう。もう国に帰ったと聞いている。」

険しい顔で詰め寄る男たちに、執事も体をのけぞらせた。


「エレナ様、今のうちに部屋にお戻りください!」

メイドが小声でささやいた。

エレナも流石に事態の重大さに気がつき、部屋へと帰ろうとした。


その時、パッ、と男の視線がこちらを向いた。

エレナと目があってしまった。


「誰だ。」

男の眼光が鋭く光った。


「奥方様にございます。」

怯えたエレナの代わりに、メイドが一歩前に出て、応えた。


すると、男たちの後ろでつまらなさそうにしていたクルクル髪の女性がドレスをひるがえしてこちらを向いた。


「奥方様?誰の?」


「フィルディア様の奥方様にございます。」

普段はフィルディアのことを旦那様と呼ぶメイドも、わざとフィルディアと呼んだ。


クルクル髪の女性は、つかつかとヒールの音を立ててエレナの前まで歩いてきた。

「あなたが?」

女性はおかしそうに言った。

「かわいそうに、フィルディア様。こんな小娘と結婚させられて。」

年老いた男は、扇子で口元を隠した女性を慰めるように肩に手を置いた。


「今すぐ出ていってくれ。そうすれば、罪には問わん。」

年老いた男はエレナに言った。

エレナは、一体この人たちは何を言っているのか、と不思議に思った。

そもそもこの男たちはただの侵入者ではなかったのか。


「あら、なんにも知らないのね?わたくし、フィルディア様の婚約者なの。もうすぐ結婚するはずだったのよ。」

女性はまた悲しそうに扇子で顔を隠した。

普段、リラを見ているエレナには、女性の仕草が白々しく映った。

「そういうわけだ。出ていってくれさえすれば、後はこちらでやっておく。」

男の中で、エレナが出ていくことは決定しているようだった。


エレナはフィルディアに婚約者がいたことを知らなかった。

たしかに、あの見た目で宰相という地位があれば、婚約者くらいいてもおかしくはないだろう。

むしろ、エレナと会う前に結婚していて良い年齢だったはずだ。


それでもーー


エレナは考えた。

フィルディア様から離れたくはなかった。

いくら邪険にされても。

「申し訳ありませんが、それはできません。」

男たちも女性もとても驚いた顔をした。

「なにができないと?」


「この家を出ていくことはできない、と言っています。」


途端、男はニヤニヤと笑った。

「住む場所がないのか。仕方ない。私が用意しておこう。」

たしかに、ここを追い出されれば住む場所がないことは事実だったが、そんなことは微塵も考えていなかった。


「いえ、フィルディア様と離れることができない、と申しているのです。」

エレナは胸を張った。

屋敷を頼まれたエレナが、フィルディアの許しなしに屋敷を離れるわけがなかった。

今のエレナを支えているのは、「屋敷を頼む」というフィルディアの一言だった。


女性は呆気にとられた顔をした。

男たちの顔は怒りで赤くなった。

「なにを言っているか分かっているのかーー」

老いた男の手は、怒りで震えていた。

「フィルディア様にお前ごときが釣り合うと、本気でそう思っているのか?」

男の手がエレナの首にかかった。


メイドたちは驚き、エレナへの暴挙を止めようとしたが男たちの妨害にあい、近づくことさえできなかった。

クルクル髪の女性や他の男たちは、それをニヤニヤしながら見ていた。



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