初任務②
関所から通ってきた通路を通り抜け地獄の大扉を潜り抜けた私たち二人は今地獄にいた。ここからは、目の前にそびえ立つ塔以外何も見えなかった。しかし、今自分がいる地面より深い所から悲鳴のようなものが聞こえてきた
「気付いていると思うが、この階層はただの出入り口にすぎないからな。本当の地獄はここより下にある。しかし、今回はそこまで行く必要はない。目の前に塔があるだろ?」
彼は、目の前にそびえ立つ塔に目を向けて言ったので私は「見えます」と言うように頷いた。
「あれが、地獄に来た魂をどの階層の地獄に相当するのかどうかを調べる為といつ誰が地獄入りしたかを記録する役目も持つ。この塔にも呼び名があってな。」
「どんな名前なんですか?」
「それは――――――」
彼が口を開こうとした時に私を制止させるように目の前に右手を翳すと同時に私たちの目の前に一人の男が現れた。
「この塔の名前は“Tower be mate up of Guilty”。“罪で構成された塔”という意味さ。最も、俺らは名称で呼ばずに“塔”とか“本拠地”とかしか呼ばん。」
開口一番に目の前に見えるイクスさんが説明しようとした塔の説明をした。そして、その男はこちらを見て何やら不思議なものをみるようにまじまじと見ていた。
「えと、なんですか?」
「あぁ、すまない。転生した死神なんてあんまり見ることがねぇからマジマジと見てしまったよ。俺は、ここの最高権力者のサタンだ。」
サタンと名乗る人物は「よろしく」と言いながら、こちらに手を差し出してきたので私もそれに対応し手を出し握手を交わした。すると、彼は笑みを浮かべ言った。
「へぇ、君~面白いね。」
「えっ?」
「まぁ、いいや。君たちがここに来た理由は、俺たちがそっちに依頼した行方不明の魂の捜索の為にここまで来たんだろ?」
こう問われたので、今度はイクスさんが口を開いた。
「分かってるじゃないか。それで…だ。俺たちは、関所からここまでの全てのゲートを調べたが、対象は全て通過したとあった。この地獄にいるのは確かなようだが、あんたら何かミスしちゃってないか?」
サタンは、目を閉じ考えるような仕草をした後…そのままの姿勢で叫んだ。
「アル!!!!」
叫ぶと同時に地面が揺れた。そして、なにもなかった場所に黒い塊が現れそこから小柄の悪魔が出現した。
「サタン様、そんなに大きな声を挙げずとも聞こえると何度言えば――――」
アルと呼ばれた人物はこちらを見ると一礼し、すぐにサタンの方に向き直った。
「いつものジョークは置いておくとして、何かご用でしょうか?」
「あぁ。関所側に送った依頼が一つあったろ?それを受けたのがこいつらな訳だが、どうやら調査の結果ここまで来る道中にあるゲートには対象がしっかりと通過した履歴が残っているらしい。こちらの不手際かもしれん、早急に調べなおせ。」
「御意に…」
そう呟くと、アルの周りを黒い焔で埋め尽くしその焔ごと消え去った。それを見届けたサタンは、こちらに向かって…
「調べなおすのに、時間がかかる。ここで立ち話もアレだから、中でゆっくり話そうぜ。」
サタンが先導し、塔に向かう中イクスさんと少し話をした結果、調べなおしてもらっている間ここに滞在することにし、二人で彼の後ろを追って塔の中に入って行った。
塔の中に入ると、未だに寝間着姿の者やスーツを着てバリバリに仕事をしている者など様々な姿で過ごしていた。
「ここは、関所のようにいくつも塔があるのではなく、一つの塔に全ての業務と住居を全てこの塔に集約しているんだよ。(…………その方が面倒じゃねぇしな。)」
それを聞いていた二人は、サタンが最後にボソボソと言った声が聞こえていたがそれを聞こえないフリをした。彼の後に続いてその塔の中を歩き、上へと昇って行った。昇って行くと、人間の骨のみで作られた扉がありそれを開けるとその中には金と銀とで作られた家具やら絨毯などでいっぱいだった。
「なんなんですか?この悪趣味な空間は!?」…と叫びそうになった私はこれを心の中で叫んでいた。すると、私の少し前を歩いていたイクスさんが驚きの声を挙げた。
「なんだよこれは。すげぇ、悪趣味だな。」
「イクスさん、それは不味いですって…。」
「いやいや、気にしなくても大丈夫だ。お前たちの隊長も同じような事を言っていたし、実際悪魔の感覚は皆このような感じだからおそらくこれが悪魔の趣味なのだと思う。」
悪趣味と言われて怒られると思ったがそうではなく、逆に納得してしまったようだった。
「まぁ、なんだ…。おそらく、調べなおすのに時間がかかると思うから勝負でもしないか?」
「勝負…ですか?」
その言葉を聞いた時、隣にいるイクスさんからのみ殺気にも似た感覚が伝わってきた。
「勝負というのは、つまり…」とイクスさんが言いながら腰に携えていた刀を抜こうとするとサタンは「そんなんじゃねぇよ」と制した。
そして、サタンが出したものは武器ではなく一枚のコインだった。
「それは?」
「これか?これは、どこにでもある表と裏がある普通のコインさ。」
と言って、彼はそのコインを指で弾き上へと上げた。上げられたコインは、空中をくるくると回り上へと昇っていたコインはやがて下に降りてくると彼はそれを手で掴みとり、こちらに両方の手を掲げ――――
「さぁ、コインはどちらの手に入っていると思う?」
彼が始めたのは世界共通と言ってもいい物当てゲームだった。その様子を見てイクスさんと私はお互いに目を合わせた後、サタンの方にまた目をやり――――
「私は、左手だと思います。」
「俺も同じ方だ。」
と答えると、サタンは左手を開きそこには先程のコインがあった。
「お見事。少し簡単だったな…。じゃあ、これはどうだろう?」
そして、またコインを高く上げそれをまたどちらかの手で取りこちらに掲げて見せた。
『左手…』と二人で答えると、サタンは両手を開いたがそのどちらにもコインの姿は見えなかった。
「えっ?なんで?」
と聞くと、彼の足の隙間から出てきた。
「そんなのありかよ…。」
イクスさんがため息交じりに答えた。
「ジョークさジョーク。」
こんなゲームを続けていると、部屋に置いてあった黒電話に電話がかかった。
「あぁ、俺だ。あぁ…分かった。俺と死神のお二人さんは俺の部屋にいるから書類持って登ってこい。……どうやら、調べ終わったようだ。直にここに来る。」
「えっ、もう?…うわっ、時間が結構経ってる。サタンさん凄いですね。」
「悪魔である俺たちは、ゲーム好きなのさ。だから、こんな原始的なゲームさえも極めちまう。」
その時、ドアをノックする音が聞こえ、彼はコインを胸ポケットにしまい込んでからノックされたドアに向かって歩き出し、扉を開けた。すると、外から先程調査を依頼された“アル”という名の悪魔が立っていた。
「失礼します。御命令された人の魂の調査が完了したので参上いたしました。」
「それで、結果は?」
こう聞かれたので何枚か厚く重なった紙の束をサタンに手渡すと、彼は面倒くさそうな顔をしてそれを受け取った。
「たかが、一人の人間の調査報告書くらいでこんなにあんのかよ…。」
嫌々ながらもその書類全てに目を通すと、それを机の上に投げこちらを見た。
「あ~、なんというか…。…すまない、こちらのミスだ。」
そして、謝った。
「了解した、では後ほど関所の方に違約金に加え報酬金を支払っておいてくれ」
「まったく、必要以上に金掛けちまったな…。アル、今回の書類があがった部署に罰として第二階層での1週間の滞在を命じろ。――――あぁ、ついでにこのお二人をゲートまで送れ」
「了解しました。―――はい、そちらの方も分かりました。それでは、お二人様私についてきてください。」
と促されたので私たちはアルの後ろをついて行くことにした。
《サタン視点》
三人が出ていった扉を見て、彼らが歩き出したのを確認すると彼はどこかに電話を掛けた。
「あぁ、俺だ。今しがたアルが二人を連れてロビーへ向かった。…あぁそうだ。…折角ここまで来てくれたんだ、しっかりもてなしてやれ。俺も頃合いを見てそこに行く。」
そう言って受話器を置き、机の上に組んだ手を置いた。
「さて、リン。君の実力を見せてくれ。」
《リン視点》
私たち三人は、サタンのとても悪趣味な部屋から出ていきここに着くまでの道のりをまた歩いていった。しばらく、歩き出入り口付近に来るとアルが立ち止りこちらを振り返った。
「いやいや、今回はこのような所まで御足労くださいましてありがとうございました。少々、ここでお待ちください。経理課の方に行って、今回の違約金と成功報酬となるはずだった物を取りに行きますゆえ…。」
そう言い残すと、彼は立ち去って行った。そして、残ったのは私たち二人の死神と私たちを見つめる沢山の悪魔たちの視線だった。
「私たち…歓迎されていませんよね…?」
「当然だろう。死神以外の種族のほとんどは大戦時からいる古参の悪魔たちだから俺たち死神を良く思う奴なんて少ないだろうよ。念のため、いつでも戦えるようにしておけ。ただし、殺しはなしだ。」
イクスさんが私に囁き「分かりました」と同じくらいの声の大きさで返答し、左手を懐にあるエムに手を掛けた。すると、一人の悪魔がこちらに近づいてきた。
「おっと、変な真似はしないほうがいい。数ではこちらのほうが上だ。」
自分を中心として辺りを見渡すと私たち二人を取り囲むように悪魔たちが各々の武器を携えてこちらに敵意剥きだしの状態でいた。しかし、それでも私の隣にいるイクスさんは自分の刀から手を放そうとはせず臨戦態勢のまま辺りを警戒していた。だからこそ私もエムに手をかけたまま辺りを見渡しいつでも動けるような態勢で構えていた。
「答えは『No』ってか…。」と言って、右手を挙げるとその他の悪魔が各々の武器を取り出し今にもこちらに向かってこれるような態勢をとった。
「この手を下せばここは戦場になる。その前に名乗らせてくれ、俺はデュレスという。大戦時から今に至るまで戦術指揮官及び後方支援隊隊長を務めている。以後、お見知りおきを…と言ってももう会うことは無いでしょうけどね。」
そう言い終わるか言い終わらないうちに彼の右手は降ろされ周りに集まっていた悪魔たちが一斉に群がって…いや襲いかかってきた。
ある者は銃を…刀をと武器を持ち、ある者は何も持たずして向かって来るものもいた。それに対抗して、イクスさんは刀を抜き私は懐に入るエムを抜くと隣で刀を抜いた彼は私より前方に立っていた。すると、イクスさんが通ったであろう道中にいた悪魔たちが突っ伏して倒れていた。
「ただの峰内さ。だが、しばらくは起きないだろうがな。」
「全然、見えなかった…。」
「当然だ。君よりも遥かに長く死神をやっているんだ。」
「今の私にもできないかな~?」
と戦闘の真っ只中で会話を始めた私たち二人に向かって「おい、いつまで話してるんだ!?」などの野次が飛んできた。
「リン、ここはいろんな事を学べる場所でもある。自分の能力-ちから-を発揮してみるのもいいだろう。」
「分かりました。やってみます。」
そう言い残し、私も左手にエムを取り自分の目の前にいる敵に向かって弾丸を発射した。ただ、普通の弾丸ではなく…
「『ファントムバレット!!』」
といって打ち出した弾は前に飛んでいき眼前にいた敵に当たり、その弾は貫通こそしなかったがその後ろの敵にも命中した。すると、それを見ていた悪魔の一人が言った。
「今のは何だ!?」…と…。そして、私が答える間もなくデュレスの名乗った男が言った。
「今のは、一射目の弾丸の下に二射目を放ち相手方に見えないように撃ちだしたのだろう…。そうだな、死神?」
「そうです。それより、私の名前はリン―――」
「お前の名前なんぞ、俺にはどうでもいい。どうせ、いますぐ死ぬのだからな。」
正直ムカついた…、しかし今はそんなことだけを考えている時間などなかった。何故なら、私の目の前で悪魔の彼がどこからともなく取り出していた大きな砲台の銃口がこちらに向いていたからだ。それを見た悪魔たちは大口径砲台の射程内から逃げるようにして私の後ろからいなくなった。
「これは、俺が大戦時から使っている中・遠距離用砲台の一つ『ディトレクション』だ。…そして―――」
彼が持っている砲台が起動し機械音が鳴り響きその音は次第に大きくなっていくと同時に銃口付近にはエネルギーが集中し、そのエネルギーが雷のように目で見ることができるまでになりその砲台の銃口の中で行きかっていた。
「これが、お前を殺す武器の名前だ!」
そして、砲台の中で蓄積されたエネルギーは私に向けて発射された。その砲撃は黒く太いもので上にも左右にも逃げられないようなとても大きなものだった。
無理だとは思ったが、エムによる射撃を行ったがその弾丸はそのエネルギーの中に飲み込まれていくだけだった。レイも取り出し、数発対抗してみたがそれでもダメだった。
「無駄無駄。普通の攻撃じゃコイツのエネルギー弾には勝てねぇよ。」
「(どうしたらいい…。どこにも逃げることができないなら、あのエネルギー弾を消滅させるかあるいは、アレに当たり死ぬか…のどちらかしかない。)」
こう考えていると、いつものように心に語り掛けてくる二つの声があった。
『私は、まだ死ぬわけにはいきません。』
『俺も同意見だ。』
「(でも、二人の弾丸でも駄目だったんだよ?他に方法あるの?)」
『まだ、あるじゃない。私たち個人にはそれぞれ名前があるけど、二人を総称した名前があるでしょ?』
「(リムの事?でも、私がリムと呼べばあなた達二人が出てくるだけなんだよ?)」
『そりゃあ、お前がリムを俺ら二人の総称…っていうことだけ考えているからだよ。』
『つまり、リムはリムという名前の武器を想像すればいいんですよ。ルシファーさんも言っていたように私たち二人ももともとはマスターの心から生まれました。なら、貴女の心で思うがままの能力-ちから-を発揮できるといってもいいでしょう。』
「(なら、心で思えば君たちの姿形も変えることが―――)」
『もちろんです。貴方が思うがままに―――』
そんな会話を終えて、現実に戻ってきた私はすぐさま今持っているエムやレイの姿を変化させ、彼がやったように銃にエネルギーを溜めて撃ちだし、それを相殺して見せた。
「なん…だと…!?―――それは、なんだ?」
彼が見たものは、私が持っているものに向けて言ったものだった。
「これは、私の武器-こころ-で名前はカノンと言います。」
彼女の持っていた武器は、先程まで持っていた拳銃型ではなく手に持てるサイズの砲台だった。その砲台を持てるようにそれの左側と上側に手で持つ為の持ち手がそれぞれついていた。
「では、お覚悟願います。」
そう言い、リムにエネルギーを収束させ撃ち放った。
「おいおい、収束早くねぇか―――?」
彼は避けることなくそのエネルギーをその身で受けた。それを見ていた他の悪魔たちは自分たちのリーダーの安否を確認するべく一度私たち二人への攻撃を中止し、彼の元へ歩み寄って行った。
「隊長!大丈夫ですか?」そんな声ばかしが飛び交っていた。すると、命中したその場所から煙があがる中から一本の手が伸び、他の悪魔たちがその腕を掴み上げた。
「痛ってぇな~おい。久々にとてつもない一撃を喰らってしまったよ。」
「相変わらずだなデュレス。その癖どうにかならないのか?」
「ルシファーじゃねぇか、どうだった?俺が育てた兵士たちは?」
「こんなこと言うもんじゃないと思うが、大戦時に比べたらまだまだだな。」
横に目をやると、ルシファーさんが刀を鞘に戻しながらこちらに歩いてきていた。
「どういうことですか?」
「これは、リンに対する歓迎セレモニーのようなものだよ。」
その言葉を聞いて、目の前にいるデュレスに目をやりそして周りにいる悪魔たちに目をやるとその誰もが武器や自身が発生させていた能力を消し柔らかい顔でこちらを見ていた。
「イクスさん、これは一体…?」
彼に問いかけると返答の代わりに自身の顎で階段の方を指した。そこには、この地獄の長であるサタンがゆっくりと階段を下りてきていた。
「まぁまぁ、そんな熱くなるな。どうだ、リン。俺らの力は?」
「そうですね。こんな人たちを敵に回したくはないですね。一番は、デュレスさんでしょうか…。」
彼の名前を口にすると、その張本人はこちらを見て笑っていた。
「アイツの本業は、肩書通りだから敵との距離が離れていればいるほど本領を発揮するタイプだ。それは、君も同じじゃないのか?」
サタンは、私の持っているカノン砲に目をやってこう答えた。
「そうですね、私は近距離より遠距離の方が動きやすいですね。…では、なく。この襲撃は一体何だったの?」
「これは、デモンストレーションだ。君が――転生者がどれほどの力を持つのか試したくなってね。」
私は、その言葉を聞いてからまずサタンに目をやり…それを知っていたデュレスさん…そしてイクスさんを見てからまた周りを見渡してから、深いため息をついた。
「もうっ、やめてくださいよ。こんな冗談…。本気でここにいる悪魔さんたちと相手しなければいけないかと思いました。」
「いや~、すまんすまん。だが、このおかげで君は新しい力を開発できた…そうだろ?」
「それはそうですが…、何事にもやり方っていうものがあると思います。」
私の言い分に今度はイクスさんが答えた。
「言ったろ?心の変質にはそれなりの事象が絡んでこないといけないものなのさ。」
「そういうものなんですかね…?」
と私が首を傾げていると、イクスさんだけでなく他の悪魔たちも「そういうものだ」と言わんばかりに頷いて見せていた。
そして、サタンが近づいてきた。
「とりあえず、すまなかったな。いきなり、攻撃を仕掛けてしまって…。」
「いえ、こういうことなら大丈夫です。」
と笑ってみせると、彼がさらに近づき耳元で囁くように話しかけてきた。
「言っておくが、君の力は未成熟だ。これから、様々な事を体験していくだろう。もちろん、その都度君の力が開花していく。しかし、その体験の中には無慈悲な事や君にとって許されない事などもあるだろうが、君は誰かを裁く力を持って転生した。そのことを忘れぬようにな。」
こう囁いた後に私の背中を叩き、少し歩いた後自分で発生させた黒い炎の中に消えていき、その炎も次第に消えていった。
私は、その炎が消えてもその場所を見つめていた。すると、後ろからイクスさんが肩を叩いてきた。
「サタンの野郎も悪魔にしては、良いこと言うだろ?」
「そうですね。一応、私たちの任務は終わりですね。」
「ほんとはもっと早くここから出られたんだがな…。」
呆れたような…疲れたような顔をしながら言うと、周りにいた悪魔たちは申し訳なさ半分といったような顔をしていた。すると、アルという名の悪魔が近づいてきた。
「お疲れ様でした。すいませんね、うちの『馬鹿』がこのようなおふざけをしてしまって…。」
「いいんだよ。いつもの事じゃないか。」
とイクスさんがフォローしたがそれでもアルさんは深々とお辞儀をした。
そして、そのお辞儀から直立姿勢になった後、アルさんは私たち二人を事務所の奥へと誘った。その奥へと進んでいくと灰色の扉と普段から見られるような茶色の扉の二つがあった。すると、イクスさんはその二つの内右側に見える灰色の扉へと向かっていった。
「これが地獄にある悪魔専用とも言うべき関所への通用口だ。」
すると、今度はアルが近寄ってきた。
「悪魔専用と言っても関所に関わる全ての種族が使用できるんですけどね…。とにかく、今回はこの扉を通って関所までお帰り下さい。こちらからならすぐにあちらに着くようにできています。」
「分かった。ならお言葉に甘えてこちらの道を通らせてもらおう。」
「ありがとう、アルさん」
私がそう言うと、アルさんは顔を赤くしたかと思うと恥ずかしそうに俯いたが、すぐにそれを直し再びこちらに向き直り、笑顔を見せた。
「いえいえ、私たちができるのはこのような事しかできませんから…。それよりも転生者が貴方のような優しい人で良かった。では、いずれまた会いましょう。」
とこの言葉を最後に私たちは、促してくれたドアを潜り地獄を後にした。
《アル視点》
無事に転送完了…。本当にあの子が今のこの世界の在り方を変える人…なのかな。でも、それは間違いない。我ら悪魔だけでなく、天使や死者たちも彼女をただの『転生者』とは思っていない。それに、この世界のバランスをとる『柱』もそろそろ危ないんじゃないか…というのが全種族が抱いている不安…。
「はぁ~~、ダメだなぁ~。自分みたいな者がそのようなことを考えてはいかんな。トップを支える身ならば、そのトップを全力で支えていくのみ…だな。」
彼は、自分で自分を引き戻し彼女たちが通って行った扉に背を向けて自分の仕事へと戻って行った。
久々の投稿でアップが遅くなってスイマセン。