表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
食屍鬼 -楽園-  作者: 藤岡
約束
118/125

07

「どういうつもりだ?」

藤山は目隠しをされ拘束される女性の隣に立つレイを睨み付けた。

「知らんがな。俺はキョウに言われたからやっただけ。キョウに聞いたらええやん。」

「……女は関係無い。やるなら俺にしろ。」

「女は関係無い?キョウの知り合いの子供に手ぇ出したとかって聞いたけど。」

「あの子供は関係がある!でも───」

「あのガキは関係無ェだろォが。」

藤山が振り向くと赤く染った服を身にまといニタリと笑うキョウと目が合った。

「えらい可愛がられたんやな。」

「俺がもっと可愛がってやった。感謝してほしいねェ。」

「おー、こわいこわい。」

ケラケラ笑う二人に挟まれた藤山は何も言えなかった。

いくらブルータルの王とは言え、一人であの人数……それも、負傷した状態で勝てるだなんて有り得ないからだ。

だけど今目の前に立っているのは紛れもなくブルータルの王。

最後に見た時と違うのは、王の服が濡れているということ。

返り血だとすれば相当の量だ。

腹から血を流しているとは思えないし、他の場所から流血しているようにも見えない。

それに、誰一人として後を追って来ない。

「何を考えているんだい?」

少し荒い呼吸。それでもどこか余裕を見せる表情で煙草の煙を吐きかけたキョウ。

藤山はその場に座り込みキョウを見上げた。

今、藤山の脳内は”敵わない”という言葉で埋め尽くされている。

「二度と……貴方の周りの人に手を出しません……。だから、どうか……どうか、助けてください!」

藤山は生まれて初めて土下座をした。

屈辱的であり、プライドがズタボロになった。

だけど、そうしてでも守りたいものがすぐそばに居る。

「信用ならねェ。」

「信用を得るために、なんでもします。命令されれば、強盗でも、殺人でも……なんでもします!」

「それはなんの為にやるんだい?」

「なんの為……?」

藤山は言葉に詰まった。

生きる為に人から奪い続けてきた藤山は、他の理由が思いつかなかったからだ。

勿論、こちら側の人間は皆同じ考えだと思っていた。

だから、わざわざそんな事を聞く必要なんてないはず。

「生きる……為。」

「生きる為に人を殺す?はっはは、そうかい。」

「えっと……王も同じ……ですよね?」

藤山は髪を引っ張られ強制的にキョウと目を合わす事になる。

「同じだよ。生きる為には喰わなきゃならねェ。でも、俺が生きる為に殺す事はしない。

俺の意思で殺す時といえば、怒りを鎮めるため。

それでも鎮まりきらねェ時もある。でも、多少は落ち着く。」

藤山は一年前のあの事件を思い出した。

多くの人が犠牲になり、ブルータル接近禁止令が発令されたあの事件を。

まだ未成年の二人がブルータルの王だということは報道されなかった。

だけど、こちら側の人間ならば嫌でも知っている。

極悪非道とはこの人達のために作られた言葉だと言われるほど残忍な男二人の息子たち。

恐れられていたのは東の王。

そして、息子の代でもそれは変わらない。

東の王と西の王は二人が合わさると凶暴性が増し、行った悪事が報道されると体調不良を訴える者が現れるほどだった。

そんな二人が居なくなり、暗い闇の中に閉じ込められた裏社会は、新たな二人の王のぶっ飛んだ行動に光を見出した。

二人はこちら側に手を差し伸べ、そして言った。

「俺達がお前たちを救ってやる。」と。

その中に藤山も居た。

だが、藤山はそんな息子二人が気に入らなかった。

ブルータルの王を名乗れるのは父であるあの二人であって、名を借りただけの息子が語るのは間違いだと思ったからだ。

熱心な信者。

それは藤山以外にも大勢いて、藤山と同じ思いの者も少なくは無い。

どこかで父と比べてしまう。

憧れ崇拝する人のご子息だとしても、藤山にとってそれは関係が無い。

自分が守りたいと思えるのは、初代王だけだからだ。

だけど、一年前のあの事件を知り体の芯から震えた。

初めて初代王と出会った時と同じような気持ちになった。

鳥肌が立ち、恐れと喜びを感じた。

王の血が流れていなければ、あんなことは出来ない。

そう思った時に、身を引いておけばよかった。

ならば、こんな思いはせずに済んだだろう……と、後悔する藤山は気付けば涙を流していた。

後悔からくるものというよりも、今自分を見つめる新たな王の目が、自分が憧れ慕った王と同じだったからだ。

「なんや、急に黙って。死んだんか?」

「死ぬようなことはまだしてねェし、そもそもそんなあっさり死なれちゃ困る。」

キョウとレイは若者が世間話をするのと同じように楽しそうに話していた。

「……俺は、どうなっても構いません。」

「あ?なんだい?」

「どうか、女と子供だけは……」

藤山は諦めていた。自分の命を。

接近禁止令なんてものが発令されるずっと前から、ブルータルの王には逆らうな。と耳が消えてなくなるほどに聞かされ続けていたからだ。

それは今も変わっていない。

裏の世界で生きていくためには、ブルータルの王という存在は絶対であり、何よりも優先して従うべき人。

不要。そう判断が下された時、死んだも同然なのだ。

「お前は俺の気を損ねた。分かっているかい?」

「……はい。」

「覚悟は出来てるんだなァ?」

「……はい。」

「あァ、そう。偉いね。」

キョウが自分の願いを叶えてくれるのかどうか分からないまま、藤山は背後からの強い衝撃を受け気を失った。

微かに聞こえた泣き声は、別れを告げているようだった。

──────────────

「で、誰に何をされたんや?」

「可愛がってたガキに手ェ出された。」

レイとキョウは車に揺られていた。

「ボス、ブルータルと今の拠点、どっちがいいですか?」

運転する男がキョウに話しかけると、キョウは「ブルータル」と答え、隣に座るレイの肩にもたれかかった。

「流石に疲れたか?」

「あァ。遠慮なく殴るし蹴るし……今度会ったら殺してやる。」

「いやぁ、怖いわぁ。物騒な事言わんとって。」

怯えたふりをするレイには特に反応せず、キョウは静かに目を閉じた。

「なんや、寝るんか?」

「いやァ、目を閉じてる方が楽でよォ。」

「おいおい、ブルータル着いたら死んでるとか無しやで。」

「はっはは、大丈夫。ただのかすり傷で死んだりしねェ。そもそもこの程度で死んでちゃ何も守れねェ。」

「まぁそれもそうやな。」

二人はこれ以上何も話さず、レイは外を眺めていた。

少し経つとスースーと寝息が聞こえ始める。

「毎日毎日あっち行ったりこっち行ったりしてるんやろ?何をしてんの?」

「あー、俺らも詳しい事は分からないんすよ。ボスに言われるままに動いてるんで。」

「あぁ、そうなん?……まぁ、好きにしたらええけど、いつか刺されへんか心配やわ。俺もやねんけど。」

ケラケラと笑うレイ。

「お二人の事は俺や他の奴らが守りますよ。まだ中には受け入れられてない人もいますけど、殆どの人がお二人を王として認めています。」

「受け入れられへんのはしゃーないわな。この席も親父らがおらんかったら無かったもんやし。

俺らも座る気なんか無かったけど、気付いたらこうなっとった。

それが分かった上で親父らが仕組んだんかもしれんけど。」

「仕組んだ……あれの事を言ってるんですか?」

運転する男は悲しそうな目をした。

「そう。ああいう最期になるように仕組んだんちゃうか?って俺とキョウは思ってる。

鬱陶しいとか思っとっても、あんなやり方されたら黙ってられへん。

座る気なくても動く気にはなる。

動いたらそのまま流れで親父らが用意した椅子に座らなあかんくなる。

まんまと嵌められたんや。」

「でも、あれはあの二人にとっても想定外だったのでは?」

「それは親父らを見縊りすぎや。どっから入手してんのか知らんけど、ありとあらゆる情報を持っとった。

まだ世間に知られてへんような情報もな。

親父らはブルータル事件からあの時まで、俺らに徹底的に教え込んだ。

普通小学生や中学生にそんな事させへんやろって思う事でも、ちょっとコンビニまで買い物に行ってこい程度の感覚で言ってきた。俺ら二人に人の悲鳴と血に慣れさせた。

親父らは、俺らがあの椅子に座るように小さい時からレール敷いて逸れんように歩かせた。

そんな二人が嵌められる?無いわ。あったとしたら内側の裏切り。

……もしそんな事があったとしたら、俺らも黙ってはいられへん。」

レイは光の無い瞳に流れゆく景色を映した。

「裏切りがあったとしたら、やっぱり殺すんですか?」

「そりゃそうやろ。表のやつだけなんてズルいやろ。裏側もきっちり責任取ってもらわんと。」

「でも、いたとして分かるんですかね?誰がどうやったとか。」

「裏切り者は誰かに裏切られる。因果応報や。でも、その為にも俺らはもうちょっと信用得なあかんわな。」

「今の状態でも血眼で探してくれそうですけど。」

「俺らを裏切らんとは限らんやろ。……裏切ったらどうなるかもまだ分かってへん。教えたらなな。」

運転する男は唾を飲み込んだ。

この人を裏切るだなんて自殺願望者位しかしないだろう、そう思えるほどに冷たい声で話すからだ。

「まぁ、俺は血腥い事好きちゃうし、他のやつよりは多少慣れてる程度で度が過ぎたら気分悪なる。

だから結局親父と一緒で東の王に任せんとあかん。

だから、こんな所で死なれたら困るんや。……なぁ、キョウ。」

「急に話を振るなよ。」

キョウはレイの肩にもたれ目を瞑ったまま不機嫌そうな声で答えた。

「寝息聞こえんくなったから起きたんやなと思って。」

「すぐ隣でこれだけ話されりゃァ誰でも目が覚めるだろォよ。もう少し気遣って小声で話してくれねェか?」

「それはすまんかった。ごめんやで。」

悪びれた様子のないレイにキョウは溜息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ