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食屍鬼 -楽園-  作者: 藤岡
約束
114/124

03

暫く沈黙が続き、最初に話し始めたのはキョウだった。

「紫怨って名前は聞いてねェし、傘下だなんだってのも断ったはず。そもそも俺は最初にお前はこっち側に来るなとも言った。言うことが聞けねェ奴はいらねェんだよ。」

「親父はあれだし、母親も俺を捨ててどこかに消えた。周りにいる大人は親父の事を知るジジィばっかり。それでどうやって向こう側で普通に暮らせって言うんだよ。」

「お前のことを知るやつがいない場所に引っ越せっつっただろォが。金も渡したろ?」

「あの金は使ってねぇ。引っ越すっつってもどこにでもいんだよ、親父の信者が。」

右京がキッと睨み付けると、キョウはくわぁっと大きな欠伸をした。

「人が真剣に話してる時に何欠伸なんかしてんだよ。」

「親父の信者共の殆どはお前の事を知らねェ。知ってるヤツらには口止めしてあるし、そもそも絡むなっつってあんだよ。だからなんとでも出来たはずなんだけどなァ?」

キョウは右京の顎を掴みグイッと引き寄せた。

「壱縷、お前最初から俺の言う事を聞く気なんて無かったんだろォ?そんなくだらねェ言い訳並べて俺に通用するとでも思ってるのかい?」

右京はもごもごと口を動かすが何も話せない。

「俺の力になりてェだァ?笑わせるなよクソガキが。お前に何が出来んだよ?人を集めた?結局人任せかァ!?おい!」

「あ、あの!!」

右京に怒鳴りつけるキョウに声を掛けたのは山野目だった。

「あァ?」

ドスの効いた声を出したキョウに怯えながらも、山野目は震える声で話し始める。

「あ、あの……右京さんは、その……」

「なんだよ?」

「凄い仲間思いで、その……仲間の為なら命を張れるというか……どんな手を使ってでも……あの、助ける人……です。」

「だからいらねェんだよ。」

「……え?」

右京の顎から手を離したキョウは煙草を取り出し火をつけた。

「こいつが俺の為に体を張って守ろうとして、そのまま死んだら俺は一生悔やむ事になる。」

フッと吐き出した煙が漂い山野目の前で消えた。

「レイや赤城、それにブルータルの奴らならそう簡単には死なねェと思ってるし、安心が出来る。

でもコイツは駄目だなァ。安心が出来ねェ。どうしても心配になって様子を伺っちまう。

親父のせいでこいつには苦労をかけた。だから、せめて静かに暮らしてほしいと思って金を渡した。

でも結局蓋を開けてみりゃァ人の言うことも聞かねェ、人の気持ちも知らねェで好き勝手にやってる。

傘下だなんて馬鹿げたことを言い出した時に散々説教をしたはずだが、それも意味がなかったようだなァ?

……嫌なんだよ、俺の為にこいつが死ぬってのが。」

レイはキョウの横顔を見て驚いた。

長年隣にいたけれど、初めて見る顔をしていたからだ。

仲間に対するでも、自分に向けるでも、赤城に向けるでも無く、家族に向ける優しい顔を。

「キョウ……俺、それでも……。」

「駄目だ。今からでも遅くねェ。さっさと向こう側の人間になれ。」

「無理だよ。」

「無理じゃねェよ。」

「無理だって!」

右京はキョウの腕を掴み、目を潤ませ叫んだ。

「俺にももう守りてぇと思う仲間がたくさんいる。そいつら捨てて俺だけなんて都合が良すぎる。

俺の為に捕まったやつもいるし、俺の帰りを待つ仲間がいんだよ。」

「じゃァその仲間達とよろしくやってろよ。わざわざブルータルに関わってくんじゃねェ。」

キョウの突き放すような言い方は、右京の心を萎縮させた。

「……分かったよ。分かった。言うことを聞くよ。」

右京はゆっくりと立ち上がるとフラフラと山野目の元に行き肩を叩いた。

「付き合わせて悪かった。帰ろう。」

「右京さん……。」

「帰ろう、山野目。」

「……はい。」

トボトボと歩き出す右京。

山野目はキョウたちに深く頭を下げたあと右京の後を追って倉庫から出て行った。

「……キョウ。」

「なんだい?」

「ちょっと冷たすぎひん?」

「そうかい?」

キョウは灰皿に煙草を押し付けるとフラリと立ち上がった。

「ちょっと外の空気を吸ってくる。」

キョウはそう言うと倉庫を出て行き、レイと赤城だけが残された。

「なぁ、赤城。」

「はい。」

「なんかおかしいと思わん?」

「キョウさんがですか?」

「それもやけど、弟も。なんかあるんちゃうか?」

「……探りますか?」

「せやなぁ。キョウにバレへんように出来る?お前キョウにちょっと小突かれたらすぐ話すやろ。」

「……。」

「こらこら、話しませんって言えや。」

赤城が黙ったままでいると、レイはやれやれと首を振る。

「にしても驚いたな。なんで話さんかったんやろ、弟がおるって。なんかちょっとショックやし寂しいわ。」

「そうですね。でもきっとキョウさんにも何か考えがあって話さなかったんだと思います。」

「考え……なんやろな。俺がちょっかい出すと思って黙っとったんかもしれんな?」

「……。」

レイがふざけたように言うとまた黙る赤城。

「おい。ええ加減にせぇよ。否定しろや。」

「……すみません。」

「まぁええわ。さて、このままなんの問題も起こらん事を願って俺は客のとこにでも行こうかな。颯と懍が手ぇ焼いてるみたいやし。」

レイは立ち上がり大きく伸びをした。

「赤城はキョウの所に行ったってや。頼んだで。」

「はい。」

赤城が頭を下げるとレイは颯達がいる西倉庫へと向かって行った。

赤城は右京がキョウの弟である事を知り、最初の対応を反省しながらキョウがいるであろう場所へと向かった。

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