04
「で?何が言いてェ?」
「あ……その、だから……。」
「はっきり喋れよ。」
ブルータル地区出入口付近でキョウと山野目が話している。
「う、右京さんはとても良い人で……」
「で?」
「あ、その、仲間思いで……」
「さっきも聞いた気がするけど。」
「あ、え、あの、すみません。」
「お前、一応あいつの側近みたいなもんだろォ?一人残してグダグダ時間潰してていいのかい?」
「……えっと、はい。直ぐに戻らないとなんすけど……」
山野目は手汗でびしょびしょになった手を強く握った。
「あの、俺も右京さんとキョウさんがご兄弟ということは今さっき初めて知ったんすけど」
「うん。」
「あの、その……多分すけど、右京さんは……キョウさんの事が凄く好きなんだと……思い……ます。はい。」
「……で?」
気怠げに立ち面倒くさそうに返事をするキョウに山野目は萎縮していた。
「あ、えっと……だから」
「俺の下に置いてやれって言いてェの?」
「いや、ちが、違います!あの……き、嫌いにならないであげてほしいっていうか……あまり冷たくしないであげてほしい……と思いまして……すみません。」
やっと言いたい事が全て言えた山野目は静かにキョウからの返事を待った。
「別に嫌いじゃねェ。むしろ大切に思ってんだろォよ。みりゃァ分かんだろ?」
「え!?あ、えっと……すみません、あまり……」
「嫌ってるように見えたかい?」
「あ、は、はい……すみません。そう見えました……。」
目を泳がせながらも返事をする山野目を見たキョウは、ははっと声を上げ笑った。
「え、なんか自分おかしい事……言いました?」
「はっはは、いやァ、素直だなァと思って。赤城みてェだなァ。……冷たく接するのは敢えてそうしてんだよ。じゃなきゃアイツはどんどんこっちの色に染まっちまう。まァ、あまり意味は無かったようだけどなァ。」
「……右京さんは……これは俺の憶測っすけど、多分キョウさんに憧れてるんだと思います。」
「憧れ?もしそうなら馬鹿としか言いようがねェなァ。」
「こっちの世界の人は勿論ですけど、俺らみたいに半端にこっち側を齧ってるやつらでさえキョウさんとレイさんと言えば雲の上の存在です。その人が自分の兄となれば……」
「兄がこれなら嫌悪して嫌えよなァ。どこをどう見りゃァ憧れの対象になんだよ、こんな事して生きてるやつの。」
キョウは山野目の肩をポンと叩くとベンチへと移動をした。
山野目は咄嗟に目を瞑ったが、「さっさと来い。」と言われ慌ててベンチの方へと走った。
「まァ、座りなァ。」
「え!?あ、はい。すみません、失礼します。」
山野目は恐る恐るキョウの横に浅く腰をかける。
「一つ頼まれてくれねェ?」
「……え、自分すか?」
「お前以外に誰がいんだよ。」
「で、ですよね。すみません。なんでしょう?」
「あいつ、壱縷の事任せてもいいかい?」
「……へ?」
「俺も詳しくは知らねェが、向こう側で暴れてんだって?紫怨ってグループ。その頭やってんだろォ?あいつ頭張れるような器してねェんだよ。どっか気ィ抜けてて、馬鹿みたいに騒がしくて、気も長く無ェ。俺も人の事は言えねェけど。」
キョウは緊張する山野目の目を見ると、優しく微笑み頭を下げた。
「アイツが暴走しそうになったら止めてやってくれ。きっと、お前の……山野目の言葉には耳を貸すはずだ。頼むよ。」
「ちょちょちょ、頭をあげてください!大丈夫です、絶対、絶対俺が右京さんを守りますから!だから、頭を上げてください。」
顔を上げたキョウは目を丸くした。
慌てふためく山野目の後ろに立ちキョウと同じように目を丸くする右京が立っていたからだ。
「何してんだお前。」
「それはこっちの台詞。キョウが人に頭を下げる事ってあるんだなぁ?」
「あ?」
キョウと右京に挟まれた山野目はあたふたとしながら、ふとブルータルの方を見るとこちらをじっと見る赤城と目が合い思わずヒッ!と声を漏らした。
「何、山野目。おばけでも見たか?」
「いや、あの、赤城さんが……」
キョウと右京が山野目の視線の方を見ると、赤城が頭を下げた。
「赤城ィ、どうしたァ?」
「いえ。キョウさんの様子を見に来ただけです。」
「あァそう。お前もこっちに来なァ。」
キョウが手招きをすると赤城は軽く頭を下げキョウの隣に並んだ。
四人はなんとも言えぬ空気に気まずさを感じていた。
カァと鳴く鳥の声が響くほど静かな空間に最初に限界を感じたのは右京だった。
「あの……さ、キョウ。」
「なんだい?」
「一つ教えてくれねぇか?」
「……なにを?」
「キョウはブルータルというグループ……組織の頭だろぉ?仲間が危険な目に遭ったら、頭としてどう動く?」
「そりゃァその時の状況にもよるねェ。出来るだけ助けてやろうとは思うが、出来れば自分のケツくらい自分で拭いて欲しいとも思う。最初から何もせずに助けてくれなんて言ってくるような奴はいらねェしなァ。」
「どうしようも無い状況で、キョウにしか助けられないってなったら……助けるかい?」
右京は真っ直ぐと真剣な眼差しを向けた。
「俺にしか助ける事が出来ねェなら、助けてやるしかねェだろォよ。それが金なのかなんなのかは知らねェけど、どんな手使ってでも助けてやる。……そもそも俺の仲間に手を出すのが間違いなんだけどなァ。殺される覚悟が無い奴ァ大人しくしてろって話。」
「そっか。そうだよな。どんな手を使ってでも助けるのが頭だよなぁ。」
右京は納得したように頷くと、ケロッとした顔を見せた。
「いやぁ、色んな頭張ってるやつを見てきたが、威勢だけが良くていざ目の前にすると怖気付く奴が多かった。でも、キョウは違うんだろぉな。きっと、何人を目の前にしても変わらねぇ。余裕すら見せる。だから、ブルータルの王と恐れられてんだろぉな。」
「……壱縷。」
「ん?なんだい?」
「お前、何か面倒に巻き込まれているのかい?」
「いやいや、違ぇよ。俺は結構気楽に過ごせてるし、あまりちょっかいもかけられねぇ。……親父とキョウっていう最凶の守護神がいるからねぇ。」
「なんだいそりゃァ。」
「キョウ、時間を作ってくれてありがとう。俺が話してぇと思ってるって分かったから会ってくれたんだろぉ?相変わらずお優しいことで。」
右京がケラケラッと笑うと、キョウは呆れたような顔をして、フッと口角を上げた。
「いやぁ、それにしてもブルータルは良い所だなぁ?変なやつがウジャウジャしてるけど、賑やかでいいや。また、そのうち遊びに来るよ。いいよなぁ?」
「はァ……好きにしなァ。」
右京は嬉しそうな顔をして山野目を引き連れブルータルから出て行った。
残されたキョウと赤城は二人の背中を見つめ続けた。
その姿が見えなくなると、キョウは煙草に火をつけ話し始めた。
「赤城ィ。」
「はい。」
「驚いたかい?」
「え……はい。驚きました。」
「そうだろォねェ。俺も驚いた。まさかあの親父が外でガキを作ってるなんて思いもしなかったし、母親が知れば鬼の形相で親父を殴ってただろォよ。」
ケタケタと笑うキョウ。
どこか寂しげで、嬉しそう。
「あの、キョウさん。」
「ん?」
「右京さんがキョウさんの弟さんだとは思わなかったので、少しばかり失礼な態度を取ってしまいました。申し訳ございません。」
「あァ、いいよ別に。俺も言ってなかったわけだし。それに、向こう側とは言えそれなりに名を馳せたグループの頭が急に姿を現してウロチョロしてるってなりゃァ警戒するのが正しい。だから、お前は間違ったことはしてねェ。気にするな。」
「はい。有難うございます。」
赤城が頭を下げるとキョウは煙を吐き出し静かに口を開いた。
「で、早々で悪いんだが少しばかり調べてはくれねェか?」
「調べる……右京さんの事をですか?」
「壱縷の事というより、周りの人間をと言った方が正しいかァ?」
「承知しました。直ぐに調べます。」
「あァ、頼むよ。どうせ面倒に巻き込まれてんだろォよ。その相手と内容が知れりゃァそれでいい。」
「はい。」
キョウは赤城に先に戻るように伝えると、ベンチに寝転び吐き出した煙を目で追った。
「助けてって言ってるのは、どこのどいつの話なんだろォなァ。」




