とある人間の暴走
お待たせいたしました……
前回は葛飾北斎でした。
今回はヤマトタケルです。
著作権が怖いので古い人しか出せません。
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「友恵、さっきの教室覚えた?」
比較的、入口付近で固まって座ってる女子3人組。その中から聞こえてくるのは、特有の間延びした声。
その様子を見ず、鞄の中から真っ黒なタンブラーを取り出す。
「無理無理!!広いし、覚えられっこないよぉ~」
「杏も、杏もー!!」
女子の会話は、同意が殆どだ。
……少なくとも、集団の中でそういう人は1人以上はいる。
「もしかして、ちさっちもう覚えたの!?」
何故、男女違うだけであんな甲高い声が出るのかよく分からない。取り出したタンブラーのフタを捻り、中に入った緑茶を喉に流し込む。
「そんな訳ないじゃん?あの量は、流石に記憶力良くても無理って!」
「だよね~」
(他の人なら出来ないとしても、あの人なら出来るだろ……)
あの3人とは話してはないけど、あの中の1人は知っている。
その人は天才ヴァイオリニスト。……なんでも、【瞬間記憶】と言われるほどの覚えの早さが定評だとか。
キャハハハと、女子独特の笑い声を出しながら、いつの間にか投稿アプリの話に変わっていた。
(目まぐるしく会話が変えれるのが凄い…というか、教室覚えないつもりなのか)
業間遅刻する気満々かよ……と心の中で毒づく。もし本当に口にすれば、今後も彼女達と関わる羽目になるだろう。
……まず、話せるほどの精神持ちではないけど。
(女子は耐性つけない限り無理)
そう誓いつつ、今朝話しかけてきた人と、あの先輩以外と付け足す。
今朝の人は、よく分からなかったけど、あの先輩は…………。
(あの人もよく分からないな)
女子は皆、ああなのかと思うと、関わるのが更に億劫になった。
ちなみに、彼女達の話を聞いていた自分は、校舎の教室のことは大体は覚えてる。
と言っても、白虎棟はそもそも図書館だけの棟だし、前々日に行ってすっかり覚えてる。青龍棟は、いつもいるこの棟だから大丈夫だろうという理由だが。
(残りの3棟が心配要素だったが、朱雀棟も玄武棟も、基本は高等部では使わないらしいから……)
つまり校舎棟は5つあるが、実際は、ここと黄央棟の2つの棟を利用することが多いということになる。
(図書館も普通は行かないだろうし……)
そう考えれば、一気に難易度は下がり易しくなる。ただ、多くの人は校内見学の時間を友達とのお喋りタイムとしながらいたので、『そんなこと知らない、聞いてない』というのが事実だろうけど。
(さて……相変わらず、何も変わらないな。状況)
ここまで思考を巡らせても、黒板は朝のまま。超大作がそこにある。
こんな会話をしていても叱られない。
今は全生徒達が学校に通っていて、まだ有意義で過ごせる時間……そう、昼休みだ。
(この時間はいつまで経っても居心地が悪い)
賑やかな教室では、いくつかの小島で話の花が満開になっている。2人組、また先程の彼女達のような3人組。はたまた5人組。それ以上。
大半の人はそのどれかに属している。
当然、遠くのグループの話を聞いてる自分は見ての通り……。
「ねーねー、なんで普通に棟の名前、西棟とか南棟にしなかったのかなー?」
「確かに……気になるなぁ?」
さっきと反対側を見ると、今度は男子6人が固まって話している。
どうやら、ここは校内見学よりも校舎棟の名前についてらしい。
自分はといえば、他人の話を聞く必要はない。が、同時に話に花を咲かせる誰かさえもいない。
(ちょっと聞くか……)
鞄の中からランチトートを出したまま、彼らの方に耳を傾ける。
「では、第95回公正漢会議を執り行おうではないか!!」
いかにも意味のわからない開始。この時点で中々キャラが濃い。
「なんで、95回?っていうか、おとこ会議ってダサいから、意味判らないから」
全員が原色キャラかと思ったが、その中の1人は確実にまともそうだ。
(あの人は確か……)
結構特徴的な名字なのは残っているが、細身の少年の名前は、分からなかった。
「まあまあ、細かいことは気にするなって。まーちゃん」
「細かくないだろ」
絶妙なタイミングで切り返す細身の少年。
対するリーダー格らしき生徒は、体型だけでキーパーとかキャッチャーにされそうな容姿だ。
「それで、議題は議長?」
横槍に邪魔され、明らかに不機嫌な様子で先程の少年は舌打ちをしていた。
(なんか……野良猫みたいな人だな)
「よく聞いてくれた、友よ!!今回は、この学びの館、衣ヶ丘大学付属高等部の校舎名についてだ!!」
「「「「「…………」」」」」
「あれ、もしかして乗り気じゃない系?」
(もうちょい捻りあってもいいんじゃないのか……)
どうやらこのリーダー格の人は、適当なのかセンスがない。
一気に静まり返ったグループは、彼の浮きを際立たせている。
「そんなことか。ぶっちゃけ、どうでもいい」
先程の少年は相変わらずのサバサバ感を出す。
「末久、どうでもいいってのは心外だと思うぞ?」
「正直、どうでもよくね。覚えたら終いだし」
……あのグループはキャラが濃すぎる。そして、唯一の常識人も極度のマイペース(めんどくさがり)ということは今のでよく分かった。
(そこは同調するものじゃないのか……こういう時は)
「末くん、いじわるだからしょうがないよね!!」
「おい、誰が末だ。末だって何度言えば……」
「同じだぁ!」
「ふふ……ならば愛すべき馬鹿のために!この僕がっ!!直々にっ!!!推理してみせましょう!!!!」
「違うって言ってるだろ、ゴロー。あと、話を妨げるな、ヤマトタケル野郎」
ヤマトタケル……伝説的英雄に野郎って。中々のあだ名センスがある。
(……なんかあの子は関わりが多分ないと思うけど、凄い)
多分、麥瀬だ。ただ、むぎが【麦】ではなく【麥】なので普通は書けない。
「言葉を選びたまえ、青年。この推理、完璧に解いてみせる!!」
「それ、要するにまだ分かってないってことか」
「もちろん!!」
「馬鹿じゃないのか、お前…… 」
あのグループは、中々ゴチャゴチャなグループすぎる……。というか議論というよりかは大喜利っぽい。
(さっきの女子の会話を聞いておけばよかったかな…)
「じゃあ、創立者が中国大好き人間とか?」
まぁ、確かに有り得なくもない。創立者というよりかは、理事長が全ての実権を握っていると言っても過言ではない。……もっとも、理事長である姫木 章造は、確か。
「いや、それは無いだろ……日本に朱雀門ってあるし。それに、歴史でも白虎隊とかあっただろ」
「ゴロウはダメだ……全くもってね」
……一応、四神は中国が原点だったはずなので、馬鹿ではないと思うけど。というか。
(単純に理事長が、異国を好かないだけなんだけど)
彼らが知らないことを心で吐く。
まぁ、楽しく推察するのはいいことだと思うし、そこに水を差す行為は自ら進んで行うほど性格は歪んでない。
(何より、的確なツッコミと判断力のあの少年には、間違いなく仲良くなれない……)
「じゃあ、なんでこんな名前なのか、周分かってるの!?」
「当たり前だろ、ゴロ。ズバリ、関係者全員がミスター拗らせマンだった!」
「拗らせ?」
「ほら…よくあるじゃん。黒焔授かりし者って書いてダークフレアマスターと読むみたいな」
「だーく、ふれあ、ますたぁ?」
要するに、中二病と言いたいのだろう。ただ彼はその言葉を思い出せないみたいだ。現にえーと、あれだよあれ!!と騒いでいる。
「まぁ、周が気に入らないのもあるけど、それはない」
また冷たい言葉……。麥瀬。本当に容赦ない。ある意味見てて楽しいけど。
(傷付くとか嫌われるとか全く気にしてないのか……)
「周、ドヤ顔なってるよー。彼女できない歴=年齢なんだからやめとこー?」
「できないじゃなくて、いないな!!」
「迂弥は、間違ってないと思うよー」
「てめぇ……」
ふと、周りを見てみるが、各々は属するグループの話に夢中である。
(ゴチャゴチャしまくってるこのメンバーの話が耳に入らないなんて凄いな……)
ある意味、グループに属するというのは恐ろしいと心で思う。
「でも、分かりづらさは俺も分かる」
「オレ、最初教室分かんなかったぜ?」
「は?」
今の反応で分かったが、きっと麥瀬少年は怒ってなくとも怒ってる?と言われる人間だ。しかし、さっきの話
(それはどういう事だ……。)
「いやさ、せいりゅうって聞いたから西書いて龍かと思ってたのにまさかの東でビビったわ」
「そういえば、議長もただの馬鹿だったな」
永遠に聞いてられそうな会話につい、羨ましく思ってしまう。
(……まぁ、無理なんだけど)
教室では、さっきまでの校内見学の感想を各々誰かと言い合っている。
特に昼休みということもあり、それがかなり明確になる。
(つまり今1人でいる人は、ぼっち飯……か)
当然のことながら、常に本を嗜む者には寄り付く島も無く、また寄り付く者もいない。
周りにはほんのわずかの少人数だけが1人で過ごしているだけだ。
「ちょっと……いる?」
まぁ、友達作りを高校から始めた人なんて早々いないし、中学からの顔見知りや、小学の友達。幼馴染も有り得るか。
(対して、小·中とただでさえ友達少ない。というかいない。転入生キャラ……)
世間的に見ればかなり終わってる学生。いや、下手し引きこもりニートの方が友達(ネッ友というのが)多いかもしれない。
「…………、くーん?」
もっとも、ここの学校に志望したのは今までの関係を完全に断つ為だ。色々な条件を要するこの学校には、通っていた学校の人は入れっこないはず……。いたら、その時は全力で関わらないだけなんだけど。
「汐宮くーん!」
物思いに耽ていると教室の入口から声が飛んでくる。
そちらに目を向けると、160cmぐらいの背の高めの女子がいた。
程よく焼けた小麦色の肌に、焦げた茶色の髪。後ろにはオレンジのゴムで結わえてあり、どこかネコ科っぽい切れ目。少し潰れた鼻。声を発したであろう口は薄らな印象だ。
長袖の指定ブラウスは少し捲ってあり、スカートの下には同じ色の細い足がスラリと伸びている。ただ、細いけど多分、走ったら同じぐらいか負けるかぐらいに感じるぐらいしっかりしてそうだ。
(間違いなく、夏女)
呑気に感想を思う。……もちろん当然のことながら、こんな運動部の代表格、活発系女子と仲良くなんかない。というか、他人に自分から話せるほどのコミュニケーション能力はない。皆無。
(クラスの人とも話せないのに先輩と話せるわけないだろ……)
「……あ、はい」
ただ、心の声とは逆に端的な応答をする。
呼ばれたから立ち上がる。ただ当たり前の行動。無視するのはあまりにも不味いし、要件はどうであり、用事があるのだろう。
(ここで無視すれば、残りの高校生活はクズ人間認定になる)
強制フラグは、きちんと回収しておくべきだと思ったから……なんて誰も思わないはずだ。そんなもの他の人に喜んで渡したいぐらいだが。
「……思ったけど、汐宮って中々イケメンに部類されるんじゃない?」
「無口、眼鏡、文学少年の三拍子はかなり点数高い…………」
……窓際側の端っこヲタ女子の一部が、コソコソと話している。
あくまで聞く気はなかったけど、聞こえるように言ってるから聞いてしまっただけだ。
(あくまで、自分は入口。あちらには目を向けてはいけない)
「美少年だよね、めちゃくちゃ」
「色白だから、ジョソウ…………どう?」
「そこは、受けでしょ」
「彼は拒否するけど次第に……される感じ?」
(なんか、とんでもないことを目論んでる言葉が聞こえたんだが……)
つい、寒気を覚えてしまう。
(このクラス、やばい人しかいませんけど……)
しかし、何の用なのだろう。まだ昼休みは始まったばかりだし、話を聞き入ってしまったせいで、机の上にはまだ手をつけてない手作り弁当がある。否、弁当の入ったランチトートがある。
「えーと……あ、いたいた!!汐宮くーん!!!!」
こちらの囁き程度の返事にしっかり反応をしてくれた。
(声大きいよ……目立つじゃん)
そう思いながら、少し駆けて入口に向かう。
周りからはあの先輩誰!?状態。静かにはならないし、何より戻ってきた時の視線が怖い。
もしかすると、テクニックみたいな事や理由やら聞かれるかもしれない。
(むしろ、こっちが聞きたい……)
「こんにちは、汐宮くん!!君、図書委員だよね?」
見た目によらずかなりの元気キャラ。その時点で少しタジタジになりかける。
なんでこんなに他人は、他人に向かってこんなハイテンションで話しかけられるんだ。
(というか、図書委員は1人じゃないけど)
心の中では色んな言葉が飛び交ったが、あくまで口に出すのはコンパクトにした。
「……そう、ですが」
話の意図が全く見えない。この人が、図書委員とはどう足掻いても、思えない。人は見た目云々って言うが、それでも釣り合わないレベルだ。
図書委員長なら尚更、有り得ない。図書委員長のシンボルはあの変な先輩が……。
「あの……」
「私、伝書部3年の木葉、木葉 恋華!!よろしくね!」
でんしょぶ。またこれは珍しいというか、いかにも独特の部活名が発せられる。
(でんしょ……伝書鳩?)
頭で何かよく分からない言葉が反復する。でんしょ。でんしょ。伝書……。
「じゃあ、行きますか!!」
その瞬間、自分の細い右腕はがっしりと掴まれ、廊下を駆け出した。
「え、ちょっ……」
「特別サービス♡」
そう言われ、木葉先輩という人と、走るハメになった。
(……そんなサービス存じません)
こんな巻き込まれるの…………普通。
新人物がたくさん出ました。
麥瀬くんが、汐宮くんの代弁者っぽくて楽しかったです。
ちなみに麥瀬くんの嫌いなタイプは、馬鹿な人と意見を言わない人です。
さて、伝書部の先輩 木葉ちゃん。
汐宮くんはまた走らされます。
(筋肉痛にはなりません…意外と筋肉はあるんで)




