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ハードラック5

部屋の中を見て正義は唖然とした。

テレビでしか見たことのない立派な部屋だ。何度か校長室に呼び出された事はあるがそれの比にならないほどの景色が目の前に広がっている。


「…来たか。まあかけたまえ」


白髪の男が言うと秘書がソファに誘導してくれた。

正義はすぐにこの男が司令官なのだと理解した。顔を見たのは初めてだが名前は聞いている。工藤栄光(くどうえいみつ)。クラウンの司令官であり創設者である。

クラウンの司令官ということは俺の上司でミクリや桂木さんよりもかなり上の人間か。そう思うだけで冷や汗が吹き出してきた。


「君が桂木の代わりのヒーローか」

「ふぁい!?」


突然声をかけられたので変なことが出てしまった。


「はい、彼がヒーローの春屋正義です」

「話には聞いていたが若いな。見たところ君たちは同じ年頃だろう」

「そのとおりです」

「状況が状況だったとはいえ民間人を巻き込んだことに対し議会は大いに荒れたよ」


どうやらハードラックの会議の他に正義の件もまとめて会議が行われたようだ。


「司令、春屋正義をヒーローにしたのは俺です。責任なら俺が…」

「いやその件について責任は問われない。無事怪人を倒したわけだしな。ただ会議の結果として彼に1つ聞かなければならないことがあるんだ」


そういうと工藤司令官は正義の目を見つめた。彼と目を合わせると見透かされているような気がする。

そして工藤は正義に問いかけた。


「君には人を殺す覚悟があるか?」




司令室から戻った正義たちを実働部隊の隊員たちは張りつめた面持ちで迎え入れた。

ミクリが会議の結果を報告する。その報告に隊員たちは喜びを隠しきれなかった。

内容はこうだ。会議の結果ハードラックの隊員への攻撃はクラウンへの敵意の表れだということに決まった。そしてハードラックを危険人物と認め彼の討伐が命ぜられたのだ。


「みんな静かに、この話には続きがあるの」


そう、この命令には続きがある。それはクラウン側の被害をこれ以上出すことがないようにするためハードラックの討伐はヒーローのみで行うということだ。


「おいそれってつまり…」


そこまで聞いたところで隊員たちがざわめき始める。


「そう、ハードラックの討伐は正義くんにやってもらうわ」

「おい!ふざけんなよ!ヒーローたってまだなって日が浅い新人だろ!?」

「納得いかない人もいると思う。でも上官の命令よ」

「長官も我々のことを思っての事だ。今回は耐えろ」

「桂木さん、あんたがやるなら分かるよ。でも正義はただのガキだ。正直あんたの代わりが勤まるほどのヤツじゃない」


恭二の言葉に他の隊員たちも便乗して言いたいことをいい始めた。それを桂木は静かに聞いていたがしばらく聞くと一喝してそれを静めた。

周りが静かになったのを確認すると正義の頭にポンと手をおいた。


「ここにいる時点でこいつはただのガキじゃない。俺たちの仲間でありヒーローだ。今まで鍛えてきたのはお前たちだろう?師であるお前たちがこいつを認めてやらずに誰が認めるんだ?」


桂木は隊員たちに言った。

さすがに桂木に言われては周りも反論出来ずに黙った。

恭二だけが何か言いたそうにしていたが正義と目が合い反らしてからは静かなものだった。

その後会議は終わり解散となった。各人各々が行動をとる。帰宅するものやそのままトレーニング室へと向かう者もいた。

正義も帰宅するため桂木とミクリに別れを告げ部屋を出るとすぐに恭二に呼び止められた。

どうやら待っていたらしい。


「なあ、ちょっと面貸せや」

「…はい」


正義はドスの聞いた声に逆らえず言われるがまま彼のあとをついていった。

恭二についていくと人気の無い通りに連れてこられた。


「お前さ、人殺す覚悟があるのかよ?」

「え?」


唐突に聞かれたので聞き直してしまった。

この質問は本日二回目だ。


「だからさ、人を殺す覚悟はあるのかって聞いてるんだよ」


殺す覚悟…という言葉に正義は違和感を覚えた。人っていうのは間違いなくハードラックのことだろう。討伐命令も出てるしそれは間違いない。しかし殺すことはないのではないかと正義は思っていた。確かに仲間がやられてる訳だし報復するのに疑問はない。そして犯人である彼を庇う気もない。

でも殺すのは違うと思った。それはハードラックと接触したとき彼から非道さや恐怖の他に悲しみのようなものを背負っていると感じたからだ。戦う理由がそこにあるのなら共に戦うことも出来るのではないか…と考えていた。だから恭二の質問に対し、正義は一度目と同様に答えた。


「覚悟はありません。でも必ず奴を倒します」


報復を望む恭二からすれば答えになっていない解答だ。

しかし正義の瞳を見てその場しのぎの答えじゃないことは理解したのだろう。彼は何も言わずに帰っていった。

恭二がいなくなったあと、正義は自分の手汗が尋常じゃないことに気づいた。それをズボンで拭うと一度大きく深呼吸をした。

そして工藤が言っていたことを思い出す。

ハードラックがヒーローを指名してきた。この機会を逃す気はない。クラウンの、ヒーローの力を見せつけろ。


「やるしかないよな」


正義は小さく呟き帰路についた。

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