一話
『ジーナさんはね! ジーナって言うんだよ!』
斜め四十五度に吹っ飛んだ自己紹介をするジーナに、コハルは曖昧に笑って見せる。緑色の髪に、これまた緑の瞳を持つ美しい少女、それが神霊ジーナだ。
コハルは、目の前にいる少女がジーナと言う名前をしている事だけはわかった。
『君の名前は?』
ジーナはそう尋ねてくる、やさしい声色で落ち着かせるように聞いてくる。
『村上小春です……あの、ここはどこですか?』
質問に答えたなら、こちらだって質問する権利があると言わんばかりに、コハルは尋ねる。
『いーい質問だねー! ここは四人の神が作り、五人の神が治める世界! 君に解り易いように言うなら、異世界だね!』
『えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?』
下は騒がしいなぁとジロウは笑う。
トンカチを持って、木材に釘を打ち込んでいく。魔法を使えばすぐ直せるのだが……異世界人たるジロウは、魔力を補給する術がかなり特殊だ。
こちらの生物なら魂の規模が大きいので、生きているだけで魔力を精製してくれる、だが地球人のジロウは魂の規模が小さい為、魔力の精製が少ない。
魔力の総量と言うのは鍛えれば鍛える程に大きくなっていくのだが……ジロウの総量だと微々たる精製魔力だけならば、満タンになるまで200年かかる試算となっている。
ジーナに供給する魔力だけで既に赤字なのだから、手で出来るところはやっていかないといけない。
この世界で十五番目位に強いジロウならではの悩みだ。
『この世界には魔法だってあるんだよ!』
『え、魔法ですか? それは指輪物語のガン〇ルフみたいな……』
『誰?』
下は賑やかである。
『灰色の魔法使いですよ! 主人公達を助けるエルフの魔法使いで……』
『え、エルフ?』
珍しい事にジーナが困っているのが聞こえる。珍しい事もあるもんだと思ったジロウは石材を取り出して、屋根の修理に取り掛かる。
その頃下では、ジーナが爆発していた。
『もう! 話を反らしちゃダメなんだよ!』
むきーっと両手を振り回しながら叫んでいる、妙に子供っぽいジーナだが、これでも1500万歳の神様である。
初見では信じられないだろう。
『いい? まず君には魔法の詠唱方法とか、この世界の知識や言葉なんかを学んでもらうんだから!』
人の世で生きるにはまず言葉が第一である。
『それとコハルの体をこちらの世界に合わせる! こっちの空気は君にとって毒だからね。今は平気だろうけど、その内中毒症状を起こすだろうね』
『はぁ……』
『本当にわかってるのかな!? ジーナさん、君の事すっごく心配なんだけど!』
こちらの世界の空気には地球上に存在しない物質が僅かに含まれている、こちらの世界の生き物には問題ないが、異世界から来た天落人には微量な毒となるだろう。
慣れない物質に細胞が拒否反応を示し過ぎて、アナフィラキシーショックを起こしてしまうのだ。
『よくわかりませんけど、わかりました!』
コハルはこんな頼りない返事を返している。
ジーナは多分解ってないコハルの顔を見て、一瞬眉尻を下げたが、すぐさま気を取り直して、いつもの快活そうでポンコツそうな表情に戻った。
『よし、それではまず魔法の詠唱から説明するよ! ジーナさんの事は先生と呼ぶように!』
『はい、ジーナさん!』
『……よし!』
あまり良くはなさそうだが、ジーナは良しと決めたようだ。
まぁ、あまり拘っていては話が進まない、コハルが空気中の未知物質でぶっ倒れるまで、あまり時間がないので、基本的な魔力運用を教えておく。
『魔法を使うには、魂から魔力を生み出す魔道炉心と言うものが必須なんだよ』
『いきなり中二臭いですね』
『この世界の基礎を中二で片付けてほしくないなぁ』
『ご、ごめんなさい……』
不用意な発言にムッとするジーナであったが、屋根で聞いているジロウから言わせて貰うと、コハルの言い分は間違ってはいない。
地球の基礎は、物理法則と言う理があって、その上に生き物達が立っている。生き物達は物理法則の理に従って、自分達の体を長い年月の中で作り替えては、今の世界を生きている。地球人類だって地球に合わせた生き物なのだ。
逆にこちらは、魔道法則と言うものが存在する。生き物達はその法則の上に立っていて、それに合わせた進化をしている。
「例えば、ドラゴンだよな」
こちらの世界で一般的なドラゴンと言えば、二対の手足があって、背中に翼の生えた物を言う、漢字で書くと龍だ。
絶対的な力を持つ、最も神に近い生き物であると言えよう。
何せ体重数万トン、全長数百メートルの図体なのに音速を越えて空を飛び災害をまき散らす化け物である。物理法則では決してありえないものが、こちらの世界には存在する。
ジーナの話は続く。
『魔法と言うのは、世界に込められた……あーっと、コハルはコンピュータプログラムってわかる?そっちの』
ジーナの地球知識はジロウ産だ、なんとなくで説明したのでジーナもなんとなくでしか解っていない。
『は、はい、私は一応PC部に入っていたので』
対するコハルはPC部に所属していたようで、魔法の理解も早いだろう。
『それなら話がはやいね! 魔法と言うものは、世界と言う大きなプログラムの中に、小さなプログラムを一時的に書き足すものなんだよ!』
声からの想像だが、恐らくジーナはえっへんとグレープフルーツ大の胸を張っているだろう。
『それってコンフリクトを起こさないんですか? こう、世界が止まったりとか』
コハルのツッコミに、ジーナが呻く。
コンフリクトが何か解らなかったからだ、無論、ジロウも解らない。
『世界が止まるなら、時空停止魔法とかあるけど……』
それには莫大な魔力が必要になる。
敵だけの動きを止めるなら、幻惑魔法だ。相手に直接かけて、認識を停止させてしまえば敵はぴたりと動きを止める、凝固・停滞を司る氷の魔法だ。
『……まぁ、話を続けるよ!』
ジーナは無理矢理切り上げて、魔法の説明を開始する。
『君は早く魔道炉心を活性化させなくちゃいけない』
理由は、魔道炉心を動かさないと体を作り替えるジロウの霊薬が効かないからだ。
『でも、私に魔道炉心ってあるんですか? 魔法がない世界から来た人間ですよ』
コハルは当然の疑問を口にする。これも、屋根を修理しているジロウには見えないが、ジーナは懐かしそうに笑っているのだろう。
(俺も同じ質問したしな)
この辺りは当然の疑問なので、致し方ない。
ジーナも、あの時と同じように答えてくれるだろう。
『魔道炉心は生き物全てに存在するよ。こちらの世界の生き物に心臓があるように、君にももちろん魔道炉心があるよ』
どちらも破壊されれば死んでしまう。
地球で呪い殺されただの、幽霊に連れて行かれただの、原因不明の死は魔道炉心が破壊された事による死亡だ。
『そこで君には、魔法の詠唱方法を教えてあげよう! 大まかに分けて四つだよ!』
『わー!』
コハルが手を叩いて、ジーナを賞賛している。そんな事をすればジーナがますます調子に乗ってしまう、後で圧し折らないといけないな、なんてジロウは考えていた。
『まず基本の詠唱方法だよ、世界に干渉して現象を起こす魔法、それはマギアス式魔道言語かルベニア真言で喋る事、口語詠唱なんて呼ばれてるよ!』
とジーナは説明するが、これではどっちを学んでいいかなんてコハルには解らないだろう。
仕方なしに、ジロウは屋根に空いた穴に顔を突っ込んで、細く説明をしてやる。
『ルベニア真言は詠唱に長く時間がかかる上に複雑だ。学者に成りでもしない限り必要ないから、マギアス式を覚えろ』
ルベニアンと呼ばれる小人族は、かつて魔法の力で三千年もの間、世界を支配していた。だが、その魔法の力を解き明かした上に、改良したマギアスに一度ルベニアン帝国を滅ぼされる。
その後、マギアス族により魔法の力は全世界へとばら撒かれ、魔法の時代は終わったのだ。
ここで、ルベニアン達は現代よりも大幅に進んだ高度な魔法文明を断絶してしまったので、世界各地には危険な遺跡が溢れている。
ジロウは更に細かい付録をつけてやる。
『ルベニア式は応用が高いが、魔法としての力は強力でもない。マギアス式は強力で覚えやすい、まずこっちを覚えるんだ』
『あ、ありがとうございます』
屋根から一階まで開いた、直通の穴からジロウの顔を見上げたコハルは笑ってお礼を言う、傍ではジーナがむくれているが、無視する。
『むう、まあいいや。説明を続けるよ』
ジーナは人間の味方だ。
例え、面倒臭くなろうともこう言った事を投げ出す事はなく、説明を続けてくれる。ジロウはその姿に苦笑しつつ、修理に戻るのだった。
仕事忙しいので、休日を見つけての投稿です。
時間が開いてしまって申し訳ない。




