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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第二部 ゴブリン迷宮の物語
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真実の選択

絶世の美女と神々しいドラゴンが言葉を交わす。


「レスカリウス。私の呼びかけに応じてくれて本当にありがとう。礼を言います。助かりました。貴方が来てくださらなければ、私達はこの世から完全に消え失せていたことでしょう」

「礼には及ばんエルフの女よ。我はそなたの子として生まれるであろう、王を護ったにすぎんのだ」

「ええ、そうですね。分かっています」


漠然としたエルフと龍の会話に耳を傾けるキース。


「それにしても、そなたの声が我に届いたのは幸運であったな」

「必死でした。どの様にして貴方に声を飛ばしたのか、自分でも分かりません」

「黄金則の力であったのだろう。幸いな事に一時的とはいえ、我もその力を王より授けられていたのでな。そなたの声が我に届いたのも偶然ではなかったろう」


エフルの姫、エルファイムは、自分のてのひらにある二つの精霊晶を指先で触れてみながら、レスカリウスの言う事に深々と頷いて見せた。


「エル」

「なあに。キース」


男の呼びかけに珠玉の笑顔を見せたエルファイム。


「ああ、その……あんた達は一体何を言っているんだ。この状況は一体、何がどうしてこうなってんだ。それにあれ、あそこに転がるドラゴン。あいつ、完全に死んでんのか?」


ドラゴンの驚異的な再生能力に、警戒をしなくていいのかと言いたいキース。


「大丈夫よ。そうね、大丈夫。貴方には分からなことだらけでしょうけれど。でも、ごめんなさい、もうちょっとだけ待って。後できちんと貴方に話すから。だから、もうちょっとだけ待って……ね、貴方達も待てるわね?」


待てるか、と話を向けられたヨタとナキ。

伝説のエルフの圧力にこくんと頷く。

それを見てエルファイム、キリリとした顔でタラスクのいる地表を見た。

彼女は一人、その場を離れると地表へ向かう。

熱風さめやらぬ地表へと近寄り、上に残された者達が何をするのかと見ていれば、エルフは赤黒いマグマ状の地表へ綺麗な手をかざした。

ぬたり、ぬたりと蠢く溶岩。

ほどなくすると、溶けた岩石の一角から、二本のナイフがキラリと姿を現した。

ディスカバリー(発見)され、転移する二本のナイフ。


「ナイフだ」

「すごい。ナイフが戻って来た!」


持ち主の手の中へ戻ったナイフ。


「すげえな、エルの力も凄えけど、このナイフ、あの中にあってまったく形を変えていねえ。そういや俺の剣も何ともなってねえな。俺の体はもたなかったのによ」


ナイフと剣のエンチャントに自分の状態を振り返り、あれ?と思うキース。


「ちょっと待て、俺のエンチャントされている状態が変わっていねえぞ!どうしてだ。精霊さんから付与された素体は全て使い切ったはずのに……」


人の男のその声を気に留めたレスカリウス。


「そなたが言う付与された素体というのは、八色に輝く精霊より授かったものであろう?」

「ああそうだよ。白のドラゴンさん。アレは色んな素体を持った男の精霊さんでよ。俺達の事を何度も救ってくれたんだ」

「その力は王の力だ」

「王?」

「そう。我らリテラに生きる全ての王。精霊王、その人の力だ」

「え?」

「王の力が、直接そなたの素体に付与されたのだ。形成されたその力の器はそう簡単に消えはしまい。仮にお主が付与された素体の全てを使いきったた所で、そなたの素体生成力が強化されておれば、いくらでも補充されよう。案ずるな、我も彼の王にやられたばかりでな。そなたの戸惑いもわかるぞ」


まぶたをしばたかせるキース。

精霊王だ?

彼にしてみれば、寝耳に水の証言である。

聞き間違いかと思ったが、どうやらそうでもないらしい。

一体どういう事なのか、エルファイムは何かを知っているようだった。

思わず、彼女の姿を求めるキース。


そのエルファイム、

一人、横たわるタラスクの傍へと近寄った。

今だ、じくじくと滲み出る黒い液体。


「起きなさい。冥界龍タラスク


穴と言う穴から汚らしい液体を流すタラスクに、エルファイムの両手が当てられる。

ジュン!と音を立て、土石素の奔流がタラスクを抜けた。

今そこにあったはずの、黒い液体が消え失せる。

そして、タラスクの顔に精気が宿り、モコモコと眼球が盛り上がったかと思えば、みるみる裂傷が塞がって行った。



グゥウウウウウウウウ。

タラスクの腹より聞こえる音。


ムクリと起き上がるタラスク。

鱗と皮膚の擦れ合う音。

瞳に知性の輝きが入る。


「目が覚めた?タラスク」

「腹が減った」


目の前にいる者が、知った顔であった事に気を許したタラスク。

ふう、と溜息をつくエルファイム。


「世界樹の葉っぱでよければ一枚どうぞ」


エルファイムは胸あたりの空間に手をやり、世界樹の葉を一枚取り出すと、先程とは別者のように見えるタラスクへ差し出した。


「世界樹の葉か、どおれ。うーむ、なかなかの珍味だ。二枚目、貰えぬか」

「あげません」


恐ろしい顔はそのままに、すっとぼけた感想を述べるタラスク。


「おお、あそこにいるは祖龍、レスカリウスではないか。エルフの姫よ、これは一体何がどうなっておるのだろう」


その反応をある程度予測していたエルファイム。

彼女はおもむろに、両の手を冥界龍タラスクの前に突き出して見せてみた。

その手に光る二つの宝珠。

姫の掌に埋まった宝珠の光に、驚愕の様相で目を見張り、鼻の孔を広がせた冥界龍。


そのドラゴンの顔に吹き出しそうになるのをこらえつつ、エルファイムはキースらを振り返り、ニッコリと笑みを浮かべて大きく手を振った。




タラスクとレスカリウスは合流し、パーティーはゴブリン迷宮の外へと転移する。

二匹のドラゴンとエルフと人間、獣族の子にスレイプニルは地中深くより外へ出た。

苦難の末の、解放の大地。

閉ざされた空間にはない解放感が彼らを包む。


それは、キース、ヨタ、ナキ、そしてグラーネにとって、惨憺たるゴブリン迷宮からの明確な決別の瞬間であり、エルフの姫エルファイムにとっては、実に200年ぶりに踏みしめた、大地への開放の瞬間でもあった。



―――――――――――――――



滅多に濡れぬ大荒野に、雨で濡れた跡がある。

夜明け前のしっとりとした空気が、彼らの体を包み込む。

ゴブリン迷宮の入口であった場所のそのふちで、これまでの状況を詳しく説明したエルフの姫、エルファイム。


「そう、タラスク。この200年、あなたはグール王の創りだした悪毒に侵されて、宝珠を側に置いておきたいという本能だけで生きていたの」

「この冥界龍が、宝珠欲しさにグールの傀儡に成り下がっていたとは、悪い夢でも見ているようだ」

「ルグラン。そなたは昔から隙が多すぎた」

「そう言ってくれるな、白銀の」


己のしでかした事に恥じ入るタラスク。


「エルフの姫よ、我がそなたにした事はいくら詫びても足らんだろうが、そなたに浄化してもらったこの命、今ここで死ねと言われれば我は死んでも構わぬ。そなたの言う通りの選択をしよう」

「てめえ、タラスク。俺達にした事はどうなんだよ。それに、この穴に住んでいたゴブリン。こいつらはお前のせいで全員死んじまったんだ。人の事は言えねえし、奴らの肩を持つ訳じゃねえが、これであんたが死んだら浮かばれねえよな」

「言葉もない」

「あなたが死ぬと言うのなら私は止めません。勝手にどうぞ死んでください。ですが、ホウジュを200年傍に置いておきながら、勝手気ままな本能のみで生を繋いでこられて、多くの命が貴方に吸われ死んでいった事、その事実をどうするおつもりでしょう。貴方が正気であったなら、生命の力の補充など、ほどんど必要なかっでしょうに」


冷ややかに見つめる白銀龍の横で、目を瞑り、深いため息をついた冥界龍。

――確かに我は隙が多すぎる――


「ルグラン」

「何だ」

「せめてもの償いだ。そなた、この者達の後ろ盾となれ」

「我が……我の存在が、この者達の後ろ盾になるか」

「そうだ。そなたならその力も十二分にある。我は外界での干渉を好まぬゆえ、滅多なことでコルニアから外界に出ることも無い。外界に生きるそなたであれば、闇のしじまに紛れ、この者達の側に駆けつける事も可能であろう」

「買い被ってくれるな、我はそなたとは違う。そのような事、我には出来ぬ。だが……それが我の生きる道であるのなら、何かしらの手段も講じ得よう」


タラスクはそう言うと、皆の前に小さな真珠パール状の丸玉を発現させた。


「その玉は我の素体そのもので出来ている。我の力が必要な時はその玉にそなたらの素体を混ぜてみよ。さすればそなたらの声が我に届こう。必要とあらば、我はそなたらがどこにいようとも時を超え、そなたらのもとへと馳せ参じよう。例えそれが、我の力の届かぬ場所であったとしても、必ず我は駆けつけよう」


半信半疑に真珠へと手を伸ばすキース。


「へーえ。凄そうだけど、あんたを呼んだ瞬間、周りの物が吹っ飛んで行くなんて事はねえんだろうな」

「……」

「あんのかい!」

「貴方の気持ちはわかりました。タラスク。悩んでも後悔しても、過ぎ去った時間は決して戻ってこないのだから、せめてこれからの時間は、後ろ指を指されぬよう生きる努力しなければならないわ」

「痛み入る。肝に銘じよう」




地表を濡らした大荒野にも朝が来る。

白々と明るむリテラの大地。

星々が白む空の中へと溶けて行き、生きとし生ける者がこうべを上げる。

日の光を浴びる様々な種族。


「大地が汚れている」


朝日の中、周囲に悪毒を感じたエルファイム。

二つの宝珠を身に宿したエルフの、力強い土石素が大地を浄化する。

迷宮の外で発現される癒しの力。

皆が目を閉じ、濃厚な浄化の力をその身に浴びた。


力の放出を終え、無意識に腹へと手をやるエルフの姿にレスカリウスが尋ねる。


「分かるか」

「いいえ。でもあの精霊が私の中に入った事は分かります。この星ではない別の場所ほしの記憶が私の中に入って来ましたから」

「そうか。後は時の流れに任せるのみか……ならば、我は王の誕生を気長に待てば良いのだな」

「エル。あの精霊さん、もしかしてもうお腹にいるのか?」

「どうなのかしら。もういるのかも知れないし、貴方の精があって初めて形と成るのかも知れないし、私には分からないわ」

「お、俺の精……」

「はっきりさせておきたい?キース」


エルファイムの尋ねる意図を計りかねるキース。

エルファイムの説明で何となく分かった、精霊さんの生まれ変わり。

エルが懐胎しているのかいないのか。

全てを受け入れる現状の流れに任せるのか、やることをやった上で、ハッキリさせた上で認知した方がいいのか。

俺はどっちがいいのだろう。


「どっちでもいいか」


思わず出た呟きに――それでこそキース――と、その場にいない誰かの心の声が聞こえたような気がして、キースは一人、照れ臭そうに微笑んだ。

そんなキースの答えに、一つの落としどころを見たエルフとドラゴン。

彼らは、さも満足そうな顔をしてキースを眺めていた。


「では、そろそろ我はコルニアに帰らせてもらおうか。姫よ、王の誕生に再び相まみえようぞ」


話の落ち着きに、レスカリウスが動き出す。


「その時は外界に出て来られるのですね」

「もちろんだ。そなたらに来るなと言われても我は参るぞ」

「では私は、周りに迷惑をかけない、何もない場所で出産しないといけないのかしら……ね、キース」

「え、ど、どうなの?」


キャパ越えぎみの連発、急に振られて、慌てるキース。

ふっ、と笑うレスカリウス。


「可能であれば、そなたらの認めた場所で、好きな時に産めばよかろう。何なればコルニアに参られるか?その時をコルニアでという事になれば、縁のある精霊達も喜ぶであろう。うむ。王の誕生にコルニアを於いて、ほかにふさわしい場所などそうそうないかも知れんな」

「待てまて、王とて人の子だ。人の世で産め。誰にも行けぬコルニアなどで産むな」


と、冥界龍タラスクのルグラン。


「人の子と言うか、ルグラン」

「エルフの腹より産まれるのだ。それはもはや精霊ではあるまい。世捨て者のそなたでもあるまいし、わざわざ失われた大地で未来の王を誕生させる事もないだろう」

「人から生まれた……精霊人」


図らずも、コルニアで風と戯れていた若者に、レスカリウス自身が告げた『精霊人』というワードがエルファイムの口よりこぼれ出た。

その声の響きに、カイラルプスとの対話を思い出すレスカリウス。


「精霊王は精霊人であったと聞いている。かつて、6000万年前に栄えていた一つの種族、リテラの全ての場所に居を構え、つつましやかな生活を営んでいた平和な種族。その種族が精霊人であった。その種族の王であった者、それが精霊王であったのだ」


レスカリウスの言葉に真実を知り、驚くルグラン。


「そのような話、初めて聞いたぞ」

「カイラルプスの意識体より賜った話だ」

「何と!カイラルプスの意識体、そなたの言葉でなければにわかには信じられぬ話だ」

「そうだ。だが、精霊族は滅んだ。それもまた事実だ。これから誕生するこの王が、どのような種族に属するのか、我には分からん。おぬしが申した人の子としての精霊王、それは恐らく間違ってはおるまい。これは、この星が望んだ新しき形なのだ。それはそれで楽しみな話ではないか」


――賽は投げられ、新たな時代の断片ピースが世界に投じられるのだ――と続けた白銀龍。

満足げに話しは終わりと一方的に話を区切り、音もなく浮くと別れの感傷もなく、さらばと消えた。




「消えちゃった」

「白いドラゴン……」

「白銀龍、レスカリウス。陽の色よりもなお白く、その身に纏いし鱗鎧、数多の龍のその上の、静寂の中の龍こそは、唯一無二の祖龍なりって言われているドラゴンよ」


白銀龍の伝説を説明するエルファイム。

それを聞いたキース、驚く子らをしり目に口を挟んだ。


「でもよ、エル。エルフのエルファイムと言えば昨今、眉唾の白銀龍なんかよりもよっぽど有名だと思うぞ。それに、あんたは200年前の大戦時における勇士の一人なんだ。大戦の勇士を知らない奴なんて、俺の周りじゃまずいねえ」

「あら、私、有名人?」

「ああ。子ども達が読む絵本になってるよ。俺もそんな絵本を見て育ったクチだ」


はあ~、と仰ぎ見るエルファイムに冥界龍の顔が覗き込む。


次回サブタイトル予告です。

~エルファイムへの求婚~

第二部 最終話となりました。

お楽しみに。


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