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精霊星の物語 ~精霊島の物語~  作者: uki yoe
第一部 精霊島の物語
28/65

親子の情景

ふーんそうだったんだ。

だが、これで腑に落ちる事もある。

前回、レスリーの背中に乗せくれと言った時に、一呼吸があったのはこういう事の背景があったのだ。

乗せてくれとお願いした時、微妙に躊躇していたものな。


空を飛べるはずなのに背中に乗せてくれとか。

そりゃ返事にも詰まるわ。

レスリー、あんたいい奴だなあ。

つい、ポンポンと鱗をさわる。

しかし俺の無茶ぶりも大概だ。

レスリーの逆鱗に触れていたらヤバかった。

ドッカと龍の背に胡坐かいてる場合じゃなかったぞ。


まあ、空を飛べるという事が分かったところで、今日の俺はもうそれを自分で試してみようとは思わない。

そんな仕組みがあったんだと思う感想のままでいい。

――サフィよそんな事ならもっと先に教えてよ――とも一瞬思ったが、サフィにしてもきっと俺を思ってくれての指導だったのだ。

そんなサフィに文句を言ったら罰が当たる。

そもそも俺の勘違いが一番の原因なのだ。

ここは大人しくしておこう。

聞いた所で帰ってくる答えはきっとこうだ。

――サフィ、素体って浮くんだな――

――何の事かな?わかんなーい――




多くの素体は体を軽くする。

空を飛ぶ時は素体を体全体に多く出して、体を浮かせればいい。

一度浮いてしまえば、後は感覚でどのようにでも飛べるのだろう。

そのことが分かっただけで良かったじゃないか。

風船のようにプカプカ浮いて、後はそれこそ風の力でビューンと飛べばいいのだろう。

簡単にイメージ出来ちゃった。


「パパ、分かってよかったね」


バビの声で思い出す。

そうだ、俺はバビに伝えておかなければならない大事な事があったのだ。

今、ここでバビに伝えておかなければならない事。




「バビ。バビに言っておかなきゃならない事があるんだ。とても大事な事。多分バビだけが知らない俺の大事な事。空の散歩にバビに付き合ってもらったのはその事を伝えたかったからなんだ。バビ、辛いかもしれないけど聞いてくれ」


モヤモヤしたバビにそっと手をかざす。

俺をパパと呼ぶ精霊バビ。

俺は覚悟を決めて話し出す。

大事な事。

俺が今日、コルニアを去ろうとしている事。

そして恐らくもう二度とこの地には、足を踏み入れることが無いであろう事。

しっかりと出来るだけ丁寧に。

バビから逃げずに俺自身から逃げずに、精一杯の気持ちを込めて話し出す。

もしかしたらバビは俺の事を恨むかもしれない。

それならそれで構わない。

それが報いなら俺は甘んじて受けよう。

善人ぶるつもりはない。

覚悟の告白。


俺は俺の気持ちを語った。




バビは聞いていた。

生まれたばかりのバビにとって、晴天の霹靂であろう俺の去就話。

俺自身が俺の責任で導き出した、俺の身の処し方。


語りを終えた俺にバビが最初に言った言葉。


「分かっていたよ。パパ。僕、知っていた」

「……知っていた?」


レスカリウスの声がする。


「優しいな、ユーキ。その事を伝える為にバビを誘ったのか。いじらしいほどの父性だな。感心するぞ」


知っていた?と思う俺を背に乗せて、レスリーよ野次るな。


「待ってくれよ、バビ、知っていたのか?」

「知ってた。だってパパ言ってたじゃん。思い残すことはないって」


少し寂しげな声のバビ。

でも、ちょっと待って。

バビにそんな事、俺いつ言った?

血の気がサーと引いて来る。

自覚はないけど俺、またやっちゃっていたのか?



「ユーキ、そなたの思いは我にも届いていたぞ。バビに分からぬ訳がない。そなたはバビに向かって語っておったではないか。思い出さぬか悪素を消し去った時の事だ、そなたはあの場にいたバビにそなたの思いを語っておったぞ」

「え?」


スーパー土石素人へ変身していた時。

あの時、俺が語ったセリフ?

悪素の消滅時、満足した俺が世界樹に向けて語ったセリフの事?

自分の力に酔った勢いで語った、青臭い言葉だったはずの決めセリフ?

――彼女ほしい――いやこんな言葉じゃなかったな。

――俺は満足だ――とか、――アバヨ――とかだったか?

そんな事言っていない?もうちょっと前?

――あんたらも長生きしろよ――か。

うわー。


「あれ、バビ聞いてたのー?」


ってレスリーもか。

俺は余計な事を言っていなかったろうな。

自分の行動が信じられない、悟りを開いているはずの俺。

―――ユーキはレベルダウンした。悟りを忘れた―――

さらば悟り、また悟りを得るその日まで……。


OK、オーケー。

落ち着こう。

俺の事なんかどうでもいい。

今はバビだ。

バビちゃんだ。


「バビ、つまり知っていたのか。俺が地球へ戻るって事」

「うん……コルニアからパパがいなくなってしまうのは、ボクのどこかで分かっていた……でも……で…でも、今日とは思わなかったよ……」


途中からバビの声の質が変わった。

姿があったなら、バビ体を震わせていただろう。

もしかしたら、泣いていたのかも知れない。


「………」

「辛いな、ユーキ」


ああ。

そうだなレスリー。


バビにも、そして俺自信にも辛い話になってしまった。


「バビ、俺は今日コルニアを発つ。その気持ちは変わらない。でも今、一番の心残りはバビお前の事だ。お前を目覚めさせた事に俺は責任を感じている。けれど、俺はお前にパパらしい事何もしてやれない。バビ、ごめん。本当にごめん」


俺の身勝手な言い分にも関わらず、バビの言いたいことが、俺を労わる優しい思いとなって伝わってくる。


「ううん、大丈夫。パパ、僕を産んでくれてありがとう。僕パパに産んでもらって本当に良かった。僕、凄い精霊になるよ。パパもビックリするくらい力を持った精霊になるよ。パパ……パパ。僕、本当に感謝しているんだ。ボ、僕、ボクを見つけてくれて、ありがとう」


ぐっときて……泣けた。

悲しくてじゃない。

切なくて、愛おしくて、泣けた。

コルニアへ来る時とは全く違う気持ちで流す涙。

俺は泣いた。

心の一番深い所から泣いた。

堰を切ったかのように気持ちが溢れた。

精一杯のバビの気持ちが、言葉を通して、気配を通して伝わってくる。

バビが俺を思う気持ちに胸が詰まる。

こんな気持ちがあるなんて。

こんな気持ちで泣く涙があるなんて。

こんな気持ちで泣いたことなんてない。

……俺の方こそお礼を言いたい。


こんな気持ちを教えてくれたバビ。


「……ありがとう、バビ……こんな俺に…ありがとう」

「うん、パパ。僕のパパ、僕の事忘れないで」




その後、レスリーは随分と時間をかけて空を飛んだ。

その間、俺はバビに色々な話をした。

俺の日本での暮らしぶりや、生活の様子をじっくりと話して聞かせた。

俺が六人家族だった事。

家族に迷惑を掛けていた時の事。

学生だった事。

食べ物の事。

お金の事。

遊びの事。

初恋の事。

武術の事。

音楽の事。

挫折の事。

社会の事。

勉強の事。

世界の事。

将来の夢の事。


とりとめのない話をバビに聞いてもらった。

コルニアへ来て、誰にも話していなかった俺の事。

俺にとっては当たり前の生活でも、バビにとってみればどれを取っても新鮮な話のはずだった。

バビはその都度相槌をし、俺の話を楽しそうに聞いてくれた。

レスリーがどんな思いで俺の話を聞いていたかは分からない。

それでいい。

俺は俺の気配をバビに伝えておきたかった。

傍にいるだけでしか伝わらないもの。

そんな気配をバビに汲んでほしかった。

バビだけでいい。

バビに聞いてほしかった。

バビが良かった。


俺は空を飛び続ける白銀龍の背の上で、昨日生まれたばかりの小さな精霊に、たいして面白くもないだろう俺の身の上話をこんこんと続けていた。


素体を通して見ていたら、俺とバビは兄弟のように、恋人のように、もしかしたら親子のように見えていたかも知れなかった。


親子の会話。

それはそんな情景だった。


次回サブタイトル予告です。

~空間魔法と時間魔法~

お楽しみに。

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