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村娘は王になりたい:努力しすぎた田舎剣士は都で剣聖と呼ばれだす  作者: ファンタスティック小説家


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武功を求めて

 朝のうちにペロシナを出発した。

 2時間も歩けば、森の木の密度がさがり、だんだんと視界が開けてきた。デビルシュラウドの森に垂れこめる不気味な霧も、いくらか薄くなっている気がする。


「エリナ、平気?」

「……え? 大丈夫ですよ! な、なんでそんなこと聞くんですか?」

「だって元気ないじゃん」


 せっかく免許を手に入れて故郷に帰ってきたというのに。


 わたしは理由を考えてみた。


「わたしの都合に付き合わせちゃったから?」

「それってどういう……」

「魔法覚えたかったんじゃないの? ウィルストップでも、ホフでも、ペロシナでもさ」


 魔法使いとして、新たな力に目覚めるチャンスを奪ってしまったと言えなくもない。


「そ、そんな風に思ってたわけじゃないですよ。あれは私が覚えるのが遅かったせいですから……それにユーミルには元々、帰るつもりでしたし。魔法を修得するためのシルバーだって用意できていませんでしたし……」

「うーん、それじゃあ、もっとペロシナにいたかったとか?」

「そういうわけでもないです。寄り道で余計に滞在できるほど、シルバーを持ってませんから」


 それは確かに聞いていた。エリナはウィルストップへ行って、受験して、帰ってくるのに必要な分のシルバーしか持っていないと。余裕はないので、できるだけ短い日程で過ごすつもりだったと。


 この旅は、どちらかというとエリナの旅なのだ。わたしは目的地を持たない。わたしの目的は武功という形のないものだ。形としては、わたしはエリナについていっているだけなんだ。


「本当に元気がないなんてことないので! 気にしないでください!」

「そうかな」


 たぶん、嘘だけど、まあここまで頑なにされては、これ以上詮索することもできない。 


 そうこうしていると、行く道の先に家々が見え始めた。

 森が終わり、草原が始まる。


 日が高く昇る頃。

 わたしたちは村にたどり着いた。

 ユーミルだ。



 ────



 ユーミルに着いちゃった。

 私は流れに抗えず、スカーレットさんを家に案内する。

 

「お母さん、ただいま」

「あら! おかえり、エリナ! ずいぶん遅かったわね。心配したのよ」

「うん。歩いて帰ってきたからさ」

「馬車はどうしたの? シルバー持たせてあげたでしょ?」


 ウィルストップへの旅はひとりじゃなかった。行商人のおじさんにお願いして乗せていってもらったんだ。だから、ちっとも怖くなかった。家族を心配させないためだ。帰りも本当はおじさんと帰って来るつもりだったんだけど……それだとあっという間だから……。


「お母さん、お父さん、紹介するね! この人はスカーレットさん。腕利きの冒険者でね、なんと第三級の剣術免許を持ってるんだよ! すごいでしょ!?」

「第三級? ……あぁ、すごいじゃないかっ!」


 お父さんは上擦った声でわざとらしく驚いた。


 もう、全然わかってないんだから。お母さんも全然リアクションが薄いし。世の中のこと知らない田舎者って思われちゃうんだろうな。うう、恥ずかしい。


「ご、ごめんなさい、スカーレットさん」

「なんで謝るの?」


 当のスカーレットさんはキョトンとしている。

 さすがの器の大きさだ。気にしてないみたい。


「あら~すっごい美人さんなのね。その上剣士だなんて! エリナの友達になってくれてありがとうね」

  

 お母さんはさっそくスカーレットさんのことが気に入ったみたい。


 私はスカーレットさんを連れて、村のなかを案内した。とはいっても、なんの特徴もない普通の村だ。デビルシュラウドみたいな怪物もいないし、ホフで出会った恐ろしい闇の魔法使いなんかもいないし。


 スカーレットさんは、『王の器』っていう選ばれた人間らしい。物知りな魔女アローナさんが言ってた。やっぱり、そうだよね。なんとなくは感じてたんだ。スカーレットさんは、同じ14歳で村の生まれだけど、生きていく世界がそもそも違うんだ。


 そうじゃないと『王になりたい』なんて思いつかないもん。私はそんなことこれまで一度も考えたことがない。その時点でもうダメなんだ。


「あの羊の名前はボギー! もうすっかりおばあちゃんなんですけどね、私が子供の頃に生まれた子で──」

「あれはバカ馬のチップですよ! 走り出したらどれだけ制止しても止まらなくて!」


 私はスカーレットさんに思いつく限りのことを話した。ユーミルのことを覚えておいて欲しくて。いや、きっと違う。私のことを覚えておいて欲しくて……かな。


「ブルルルン」

「馬、乗ってみたいな。オーファルでは乗る機会なかったし」

「チップにですか? や、やめておいたほうがいいと思います……っ、本当にバカ馬なので……!」

「じゃあ、どれだけバカか確かめてみよう」


 言って、スカーレットさんは楽しそうにチップの鞍に跨った。乗り慣れていない不安定な跨り方だ。私が馬の扱いについて、説明していると、チップは案の定、脈絡もなく走り出した。あーもう、本当にバカ。


「くっ、これはなかなか……ッ」


 チップは暴れ馬となって半刻もの間、跳ねて、駆けてを繰り返した。でも、スカーレットさんは手綱を離すことはなかった。最初はスカーレットさんらしからぬ焦った表情を浮かべていたけど、だんだんコツを掴んできたのか、上手に衝撃を逃がすようになった。


「ハハハハ、大した娘だな! チップを乗りこなすなんて!」

「エリナの新しいお友達か?」


 気づいたら周囲に村のみんなが集まっていた。見事にチップに跨って見せるスカーレットさんはあっという間に人気者になってしまった。


 やっぱり、スカーレットさんは凄いな……。


 やがて夕食時になって、家に帰った。


 なんだか変な気分。ウィルストップっていう都で出会ったスカーレットさんが、実家の机で、お母さんのスープを口に運んでいるだなんて。

 

「今日は泊まっていってね、スカーレットちゃん」


 お母さんとお父さんは、すっかりスカーレットさんを受け入れていた。チップを乗り回した話を、人づてに聞いたからだ。まあ、そうでもなくとも、美人で、スラリと背が高くて、品があって、礼儀正しくて……こんな完璧な女の子を嫌う人はいない。


「す、スカーレットさん、ベッドひとつしかないから、その……」

「うん。もちろん、一緒でいいよ」


 ギュッと拳を握る。浅ましいな。

 

 私はスカーレットさんの肌を濡れたタオルで拭きながら、これまでの時間に思いを馳せた。


 ウィルストップで出会ってからホフ、ペロシナと共に歩いた。ここまで長いようで、短かった。あっという間の旅だった。できるだけゆっくり進んできたつもりだけど、でも、スカーレットさんはそんなこと望んでいなくて……彼女は進み続けるんだろう。


「スカーレットさん、ユーミルまで一緒に来てくれてありがとうございました」

「気にしないでいいよ。わたしもどこから巡ろうか迷ってたから。ちょうどよかったよ」

「次はどこに行くんですか?」

「まだ決めてない。武功を得られそうな場所だといいんだけどね」


 言って、スカーレットさんは涼しげに笑う。

 その綺麗な横顔から目が離せない。

 はあ。馬鹿な子だな、私って。


「エリナ? 大丈夫?」

「え?」

「泣いてるけど」


 言われてハッとした。

 手で頬を触る。濡れていた。

 瞳から雫がこぼれていたのだ。


「す、すみません!」

「謝らなくていいのに。大丈夫? 今日は朝から変だったけど」

「その……すみません」


 謝ってからハッとして、縮こまりたくなる。なんて情けないのだろう。こんな自信がなくて、平凡で、ただ偶然知り合えただけの私。何かを期待するのが間違いなのに。


 それなのにウィルストップから今日まで、ずっと頭について離れないんだ。スカーレットさんとこの先も旅をする自分の姿が。あるいは彼女と関わっていたい欲望が。


「あ」


 スカーレットさんはこちらに振り返り、私の手を取った。指先をつまむようにして。


「ね、話してみて」

「い、いえ、本当になんでもなくて……!」


 こんな醜くて、浅ましい感情。綺麗で、強くて、凛々しくて、そして英雄で──そんなスカーレットさんに知られたくない。


「言わないと離してあげないよ」

「はうう」


 全然、私は構いませんけど!

 ずっとこのままでいいですけど!


 でも、待って。

 これは私に都合が良すぎる。

 私の欲のために、にぎにぎし続けるのは、浅ましいことだよね……?


 うぅぅ、スカーレットさんずるい。

 こんなのもう白状するしかない。


「……」


 スカーレットさんは黙して待ってくれた。

 私は何度も声を発そうとし、思いとどまった。

 思考を練り直し、言葉を選び直した。

 勘違いされたくない。誤解されたくない。

 正しく伝わるように。これが最後だから。


「……私、もっとスカーレットさんと旅ができて、嬉しかったんです。本当に、本当に嬉しくて。危ないこともあったけど、でも、それすらもスカーレットさんがいたから、特別な記憶になって。もうきっと、私の人生には、こんな特別な時間はやってこないから、だから……それが寂しくて」


 間違わないように。

 間違わないように。

 ひとつずつ言葉を繋いだ。


 自分でもハッキリと認識できていなかった気持ちが、言葉にするたびに、いくらかまともに形を得る。そうして、私は自分の心を理解していった。


「もう二度と会えないのが、嫌なんです。でも、それはスカーレットさんにずっとユーミルに居てほしいって意味でもなくて、全然そうではなくて。スカーレットさんはきっと凄いことを成し遂げる人だから。だから、その……我儘なことなんですけど、いつか、すっごく偉くなっても、私と旅したこと、覚えていてくれたりしたら、嬉しいな、とか……」


 言ってから後悔する。

 間違えた。


 うわぁぁ、なんか気持ち悪い感じになっちゃった!

 なにこの自惚れが入ったお願い! 

 身の程知らずだって! 覚えてて欲しいなんて!


 体温が急上昇する。顔が熱い。死にたい。

 せっかくゆっくり喋ったのにぃぃぃ。

 チップのことバカにできないくらい、私もバカだ。


「はぅぅぅ」

「大丈夫だよ。エリナ、聞かせて」

「はぅ?」

「エリナの気持ち、全部知っておきたいんだ」


 綺麗なお顔がこっちを見つめて言う。

 なんて贅沢なのだろう。

 いま私だけを見てくれてる。


「その、本当に愚かで、身の丈に合わないことなのですけど、私のこと、たまにでいいから、思い出して欲しいんです……っ」

「うん。わかった。必ず思い出すよ」


 さらっとスカーレットさんは言ってのける。

 私はそれだけで嬉しくなるが、でも、さすがにチョロすぎる己に嫌になる。こんなの適当に流しているだけに決まってるんだから。面倒くさい子だって思われるだけだ。

 

「エリナはしばらくユーミルにいるんでしょ?」

「へ? あ、はい。たぶん。魔法を習うために、ここを空けることもあるかもですけど」

「そう。なら、手紙を出すよ」

「て、手紙!?」

「うん。この世界の物流を考えれば、届くかどうか不安だから、多めにね。わたしは多分、すごく偉い人になる。きっと優秀な仲間が必要になる。その時はきっと力を貸してね」


 私は固まってしまった。

 こんなこと言われるなんて思ってなかった。


 流しているわけじゃない。

 適当を言っているわけでもない。

 本心で言ってくれてるんだ。

 

 う、嬉しすぎる……っ。


「でも、私でいいんですか……?」

「エリナだからいいんだよ」

「はぅん……っ」


 すき。


「自信を持って」

「で、でで、でも、そんなこと言われても……っ」

「ウィルストップの魔女が言ってたでしょ。エリナは”100年に一人の天才”だって」


 言ってたけど、そんなにアテにしてないっていうか……!


「はあ、それじゃあ、今度はエリナの身体拭いてあげる。ほら、そっち向いて」


 スカーレットさんはタオルを濡らして、私の足を拭き始めた。隅々まで。私はすっかり熱くなって、もう何が何やらわからなくなっていた。


 ひとつ確かなのは、頑張ろうと強く思ったことだ。

 いつかスカーレットさんに頼ってもらえるような、そんな魔法使いになろう。それで今夜の約束をしてよかったって思ってもらうんだ。

 


 ────



 優秀な人材には声をかけておかないとね。

 組織というのは、個人では成り立たないもん。


 良い会社は、良い社員からなる。

 エリナは見込みのある子だ。


 何より普通に仲良くなったし。見込みうんぬんの話を抜きにしても、人手が必要になった時、協力してくれたりしたら嬉しいよね。友達だし。


 翌日。


 私はエリナに魔法を教えたという老婆をたずねていた。エリナの紹介で、魔法を教えてもらおうと思ったからだ。老婆は魔力属性《アイテール》の使い手で、第三魔法まで修めているらしかった。なので、10万シルバーを授業料として納めて、計6種の魔法を教えてもらった。


「信じられん才能じゃな。エリナ、とんでもない子を連れてきたねえ」

「ふふん、でしょでしょ? スカーレット様は本当に凄いんだから!」


 一夜明けて気づいたが、エリナの呼び方が「スカーレット様」になっていた。距離を縮めようという話で始まった「タメ口」なのに、向こうが離れていっているのはいかがなものか。


「エリナ、その呼び方、距離感じるんだけど……」

「スカーレット様は将来、王になる方ですから! それにこう呼ぶ方がなんだかしっくり来るんです」

「そうかな。わたしはしっくり来ないけど」


 何度か問答を繰り返したあと、わたしは諦めた。


「あ、そうだ。お師匠様、スカーレットさんはね、武功を求めて旅をしているんだよ。どこかに凄い怪物がいる噂とか聞いてない?」

「凄い怪物かあ。近頃は特にはないのう」

「そっか……」


 エリナは師匠のおばあちゃんに聞き込みをしてくれた。


「じゃが、きな臭い話なら行商から聞いたのう」

「きな臭い話?」

「おうよ。ベルネレット領の西のほうで、なにやら獣人どもと小競り合いを始めたとか。近く大きな戦になるかもしれんとかいって、軍需品の仕入れ時だとか騒いでおったわ」

「っ、す、スカーレットさん!」

「いいねぇ武功が匂ってきたね」


 戦争? 怪物より良いじゃん。


「ありがとうございます、おばあちゃん。いえ、師匠」

「やめないか、スカーレット。ただ1時間ばかり指導しただけで、 師匠面できるほど厚顔無恥ではないわ」


 あらま。師匠が拗ねちゃった。


 わたしはエリナの家に戻り、旅の支度を整えた。

 エリナと一緒に村の出口に向かう。

 途中、柵の向こうからこちらを見つめる瞳に気づいた。


「ブルルルン」

「ねえ、その馬、10万シルバーで譲ってくれない?」

「ああ、昨日の! いいぜ、チップを乗りこなせるのはお嬢ちゃんくらいだからな!」


 馬の食べるもの、世話の仕方などは、一通り昨日教えてもらった。結果、わたしでもお世話できると感じた。


 長い距離を苦労して旅していっても「もう戦争終わってました」とかなったら悔しいからね。今のわたしはちょっとお金持ち。馬の走力に設備投資しても良い頃だ。


「ブルルルン!」

「よーしよし。どうどう」

「すごい。チップもうすっかり懐いてますね」


 馬にまたがり、わたしはエリナを見下ろす。

 

「それじゃあ、また」

「うぅぅ、手紙、待ってますからね……!」


 チップの腹を内踵で叩く。


「ヒヒヒィィィイ!」

「はっ! 行け!」


 チップが大きく前足を蹴り上げ、立ち上がり、そして勢いよく走り始めた。すごい揺れる。そんなに爆走しなくてもいいんだけど……まあいっか。チップに任せよう。


 わたしはチップに跨って街道を爆走しながら、後ろをふと振り返る。ユーミルはすでにちいさくなっていた。門のところでは、まだエリナが立ち尽くしていた。

 

 







『村娘は王になりたい:努力しすぎた田舎剣士は都で剣聖と呼ばれだす』


    第一部完結





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こんにちは

ファンタスティック小説家です


『村娘は王になりたい:努力しすぎた田舎剣士は都で剣聖と呼ばれだす』を最後まで読んでいただきありがとうございます! 


 村娘スカーレットの物語はまだ始まったばかり! これからスカーレットは平穏な時代で武功を求めて東奔西走していきます! そして、その旅が起こす波紋は、時代を変えていくことになります! 追跡を続けるベルリオットは、ジッとしていない村娘に追い付けるのか……王の器とはなんなのか。物語はまだ続く余地に溢れていますが、ひとまずはここで完結とさせてください。


 第2回GAウェブ小説コンテストに応募する目的で執筆した本作でしたが、いかがだったでしょうか? 面白いと思っていただけてたら嬉しいです! コンテストで何かしら成績をおさめることができたら、続きを書くこともあるかもしれません! ぜひ作品ブックマークをして、気長にお待ちいただけると幸いです! 評価もいれてくれたらうれしいです!


 ではでは、この辺であとがきを締めさせていただきます。

 スカーレットの物語、ご愛読いただきありがとうございました。


 また本作の続きでお会いできたら嬉しいです。


 ファンタスティック小説家

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