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婚約解消されたオバカ令嬢、前世を思い出す  作者: 鷹居鈴野


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第三十四話 ラファエル、求婚

ベル・サンテ、執務室。扉が閉まる音とともに、ラファエルが大股でセレスティーヌの机の前に立った。


---


「セレスティーヌ嬢」


「なに?」


「私は本日、二つ申し上げたいことがございます」


「そう、お聞きします」


「一つ目」


ラファエルが、息を吸った。


深く、長く。


「私は、貴方をお慕いしております」


扇を握る指が、止まった。


「ラファエル様、それは——」


「最後までお聞きください」


「わかったわ」


「私は貴方の知識と人格に敬意を抱くだけではありません。一人の女性として、貴方をお慕いしております」


「……」


「貴方を、サン・ジュスト公爵家の嫡男ちゃくなん夫人としてお迎えしたい。これが、私の正式な求愛です」


セレスティーヌは、答えなかった。


扇の骨が、指の下できしむ。喉の奥が、きゅっと詰まった。なのに、頬は熱くならない。ラファエル様には、ならない。


分かっていたことなのに、今さら申し訳なくなる。


これほど誠実な求愛を受けて、頬の一つも赤らめられない自分に。


---


セレスティーヌは息を整え、扇をゆっくりと閉じた。


「ラファエル様」


「はい」


「お言葉、心より感謝申し上げます」


「いえ」


「ですが、私——」


「セレスティーヌ嬢、お返事は即答不要です」


「なるほど?」


「一ヶ月後で結構です。私は待ちます」


——一ヶ月。


ずいぶんと、紳士的な猶予だ。


それでいて、退路はどこにも見当たらない。


「ラファエル様」


「なんでしょう」


「もう一つおっしゃりたいこと、とおっしゃいましたが——」


「ええ」


ラファエルが、わずかに笑んだ。


「もし貴方が、私の求愛をお受けにならないとお返事なさるならば」


「……はい」


間があった。


一つ、呼吸ぶんの。


「もし叶わずとも、貴方への敬意は変わりません」


セレスティーヌの目が、見開かれた。


「ラファエル様……」


「振られても、私が貴方をお慕いした事実だけは、消えません」


「……」


「いつか、その敬意をどのような形でお返しできるか、私自身、まだわかりません」


「ラファエル様……」


「これが、本日申し上げたかった二つです」


---


ラファエルが深く礼をして、執務室を出た。


扉が閉まる、その音。


セレスティーヌは椅子に座ったまま、両手で顔を覆った。


「ラファエル様……」


「……ラファエル様」


「ずるい」


「あなたも、ずるい」


涙が、頬を伝う。


机の上、扇だけが、開いたままだった。

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