閑話⑦ あの男は、俺より、すべてが上だ 〜ヴィクトール視点〜
ある夜、
社交界の、サロン。
ヴィクトールは、いつものように、隅の、卓に、座っていた。
セレスティーヌが、来る、と、聞いていた。
ラファエル・ド・サン・ジュストも、来る、と、聞いていた。
彼は、もう、自分が、なぜ、こういう場に、足を、運ぶのか、ごまかさなかった。
——、
——、
——、彼女を、
——、
——、見るために、来ているのだ。
——、
——、それ、以外の、
——、理由は、
——、ない。
—-
セレスティーヌは、
赤紫色の、
長袖の、
ドレスで、
入場した。
短い、ボブヘアが、
ろうそくの光に、
軽やかに、
揺れていた。
—-
その姿に、
ヴィクトールは、
胸を、
詰まらせた。
——、
——、
——、
——、
——、似合っている、
——、
——、
——、
——、
——、似合っている、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、似合っている、
——、
——、
——、
——、
——、私が、
——、
——、
——、
——、
——、いま、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、世界で、最も、
——、
——、
——、
——、
——、好きな、
——、
——、
——、
——、
——、姿、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、それ、
——、
——、
—-
ラファエル・ド・サン・ジュストが、
彼女に、
寄り添って、
入場した。
二人の、距離。
二人の、視線の、合わせ方。
ラファエルの、手が、
セレスティーヌの、
肘の、
すぐ、
後ろに、
そっと、
添えられていた。
—-
紳士が、
レディの、
エスコート、として、
肘の、
後ろに、
手を、添える、
その動作。
しかし——
ラファエルの、
その動作の、
距離が、
過去のヴィクトールが、
セレスティーヌに対して、
していた、
社交辞令的な、
距離より、
明らかに、
近い、
ように、
ヴィクトールには、
見えた。
—-
——、
——、
——、
——、近い、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、彼ら、
——、
——、
——、
——、
——、
——、近い、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、明らかに、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、ビジネスパートナーの、
——、
——、
——、
——、
——、
——、距離、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、
——、では、
——、
——、
——、
——、
——、ない。
—-
「ヴィクトール」
声が、隣で、聞こえた。
旧友レオン・ド・ヴァロワが、立っていた。
「お前、見ているな」
「……、レオン」
「お前、悪い、噂、聞いたか」
「悪い、噂、というと」
「サン・ジュスト公爵令息様、近日中に、シャティヨン伯爵に、ご面会を、お申し入れ、なさるそうだ」
ヴィクトールの、心臓が、
ぎゅっ、と、
軋んだ。
「面会の、ご内容、は」
「正式な、ご求婚、の、と、噂で、流れている」
「……、
「……、それは、
「公の、噂?」
「ああ、もう、王宮の、サロンでは、誰でも、知っているレベル、だ」
ヴィクトールは、ワイングラスを、握る指が、震えた。
「……」
「ヴィクトール、お前、どう、する」
「……、レオン」
「うむ?」
「あの男、
「あの男、
「私より、すべてが、上だ」
「……」
「身分、公爵嫡男。私は、侯爵嫡男。一段、下」
「うむ」
「能力、希少な、光属性治癒師。私は、ただの、領主見習い、剣の腕も、平均」
「うむ」
「容姿、絶世の、美形。私は、まあ、目鼻が、整っているくらい、だ」
「ヴィクトール、それは、ちょっと、過小評価、だがな、お前」
「いや、ラファエル様と、比べたら、私は——」
「ヴィクトール」
レオンが、肩に、手を、置いた。
「お前、彼女の、過去の、すべてを、知っている、男だ」
「……、何?」
「それは、サン・ジュスト公爵令息様には、できないことだ」
「……」
「身分は、勝てぬ。能力も、勝てぬ。容姿、まあ、これも、勝てぬかもしれぬ。だが、彼女の、五歳の頃から、共に、生きてきた、十二年間の、思い出、それは、お前にしか、ない、武器だ」
「レオン」
「うむ」
「だが、その十二年は、私が、彼女を、軽蔑し続けた、十二年でも、ある」
「……」
「私が、彼女を、解消した、その、当事者でもある」
「……」
「私には、もう、立つ瀬が、ない」
レオンは、しばらく、ヴィクトールを、見つめた。
それから、軽く、笑った。
「ヴィクトール、お前、なぜ、いま、ここに、いる」
「……、彼女を、見るために」
「諦めて、いないんだろう?」
「……」
「諦めるなら、サロンに、来ない。お前、来ている。来ているのは、心の奥で、まだ、闘うつもりだから、だろう」
「……レオン」
「行ってこい」
「うむ?」
「あの男に、宣戦布告、しに、行け」
「……、馬鹿げている」
「馬鹿げて、いてもよい。お前、男だろう」
「……」
「身分でも、能力でも、容姿でも、勝てぬ、お前が、唯一、勝てる、ものが、あるとしたら——」
「うむ」
「『彼女の、過去ごと、愛したい』、と、面と、向かって、伝えること、だ」
「……、レオン」
「行ってこい」
—-
ヴィクトールは、ワイングラスを、置いた。
そして、立ち上がった。
サロンの、
中央へと、
歩き始めた。
——、
——、
——、ラファエル、と、
——、
——、対峙、
——、
——、する。
——、
——、
——、勝つ、
——、
——、
——、つもりは、
——、
——、
——、ない、
——、
——、
——、だが、
——、
——、
——、引かない、
——、
——、
——、つもりも、
——、
——、
——、ある、
——、
——、
——、
—-
中央に、
セレスティーヌと、ラファエルが、立って、王太子妃と、談笑していた。
ヴィクトールが、近づくと、王太子妃が、最初に、気付いて、軽く、微笑んだ。
「あら、モンテーニュ卿、ご機嫌よう」
「殿下、ご機嫌、麗しゅう」
ヴィクトールは、王太子妃に、礼を、して、それから、セレスティーヌと、ラファエルに、それぞれ、深く、頭を、下げた。
「セレスティーヌ嬢、サン・ジュスト卿、お久しぶり、で、ございます」
セレスティーヌの、頬が、
ぼっ、
と、
紅潮した。
——、
——、
——、ふふ、
——、
——、
——、見えた、
——、
——、
——、その、
——、
——、
——、紅潮、
——、
——、
——、
——、ラファエル様、
——、
——、
——、ご覧、
——、
——、
——、ですか?
—-
ラファエルが、わずかに、ヴィクトールに、目を、向けた。
「モンテーニュ卿、お久しぶり、で、ございます」
その声、
冷静、
紳士的、
しかし、
セレスティーヌの、頬の、紅潮、を、
確実に、
横目で、
捉えていた。
—-
——、
——、わかったか、サン・ジュスト卿。
——、
——、貴方は、
——、
——、彼女の、
——、
——、心の、表面の、
——、
——、上澄み、しか、
——、
——、知らないが、
——、
——、私は、
——、
——、
——、彼女の、頬の、
——、
——、奥に、
——、
——、
——、私の、面影が、
——、
——、
——、まだ、
——、
——、
——、生きている、ことを、
——、
——、
——、
——、知っている、
——、
—-
ヴィクトールは、深く、息を、吸った。
そして、ラファエルの、隣に、立った。
「サン・ジュスト卿、サロンの、隅で、ご相談、よろしいか」
「うむ?」
「内密の、お話、です」
ラファエルが、しばらく、ヴィクトールを、見つめた。
そして、軽く、頷いた。
「セレスティーヌ嬢、王太子妃殿下、少々、失礼、致します」
「ええ、ラファエル様、どうぞ」
セレスティーヌは、軽く、微笑んだ。
そして、ヴィクトールに、視線を、向けた。
その、視線の、奥に、
ほんの少しの、
不安が、
宿った。
——、
——、
——、彼女、
——、
——、
——、私たち、二人が、
——、
——、
——、何の、話を、するか、
——、
——、
——、すでに、
——、
——、
——、
——、察している、
——、
—-
ヴィクトールと、ラファエルは、サロンの、隅の、テラスの、闇に、二人で、出た。
—-
【次話、その対峙の、結末】




