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喪失【PORT24一社店】

 2017年5月28日。

 PORT24一社店は閉店した。

 空中に放り出された気分だった。

 アリババが機能していないいま、私がアーケードで恋姫をできる場所は完全になくなってしまった。

 確かに家庭用はある。しかし、閉店後の軒先での駄弁りや、長い帰り道の反省会も、もうできない。

 アリババ勢がやめてしまい、彼らを満足させるという目標も消え、私は本気で引退を意識した。

 いいじゃないか。よくやったよ。三年もひとつのことに集中できて立派じゃないか。

 私は自分に言い聞かせたが、胸のうちにはまだくすぶるものがあった。

 あと少しで何かに届きそうな気がする。

 それはアーケードでなくては掴めない。

 家庭用の配信やツイッターでも情報は得ることができる。

 だがゲーセンには生きた声があった。発信される情報の元がどのようにあがいてその声を発していたかわかった。

 生のストーリーがある。

 私はずっと彼らのドラマの中にいた。初心者のうちから、はじめはエキストラのような存在感で、そこに入って行った。

 彼らのドラマの先が見たかった。

 物語が潰え去って行った者も大勢いた。なんの進歩もなくただ続いているだけのストーリーもあった。だが台に100円を投入することで、彼らはそれぞれの物語を紡いでいた。

 他の誰でもない自分だけの格ゲー放浪記が、プレイヤーの数だけそこにあった。

 私の物語はここで終わるのだろうか。

 家庭用に腰を下ろし、続けることに意味があるのだろうか。

 家庭用にだってドラマはある。交流も。

 それはわかっている。

 だが、一社の安っぽいネオンの下で語り合った日々は、もう来ない。

 格ゲーマーはお互いの名前も知らない。名乗ったプレイヤーネームが全てで、よほど仲良くならないと本名を知ることもない。仕事や、年齢もそうだ。

 私たちの繋がりは互いに台に向かい合って戦うことだけ。

 あとはせいぜいSNSで繋がった薄く細い線だ。

 一社で顔を見合わせていた連中も、名前も知らぬまま、散り散りになるだろう。

 二度と顔を見ることのないものも少なくないはずだ。

 所詮そこまでの関係というならそこまでだが、私たちはいい歳をして青春を過ごした。

 ゲーセンは居場所だった。

 家に帰りたくなくてずっといるやつ、仕事帰りに寄れば誰かいるからというやつもいた。やるゲームなんてなんでもよくて、ただ居場所を求めてそこにいる。

 すっかり大人になってからゲーセンに通い始めた私と違い、ゲーセンは彼らの巣穴だった。

 そんな彼らの居場所が、この日、消えてなくなる。

 私はその日、最後の閉店時間まで恋姫をやった。

 カコーン、カコーンと鳴る崩撃の音が鐘の音のようにひとつの時代の終わりを告げていた。

 シャッターが閉まるのを見送って、私たちは帰ることもできず、その場にとどまって長々と話した。

 そして、いつものように別れた。

「それじゃ」

「お疲れっす」

 帰りの車の中、私は泣くこともできず、ただただ喪失感に包まれていた。


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