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月の光に  作者: マン太


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8.その後

 その夜、久しぶりに同じベッドで眠った。

 もちろん手など出されず、今までそうだった様に、額にキスを落とし寝るまでの間話しをして。


「来週、行けば学校は終わりだ。それで正式に青の騎士団に入団することになる。宿直以外はここで過ごすことになるよ。これでまた、マレと一緒にいられる」


 そう言って、サイアンは横になったマレの頬にかかる白銀の髪を梳いた。

 頬に触れる温もりが心地いい。夢見心地でそんなサイアンを見つめながら。


「良かった…。それなら、またあの家でも過ごせる?」


「そうだね。非番の日は行けるよ。あそこで薬も作っているのだよね?」


「そうなんだ。流石にここじゃ、火は使えなないし…」


 マレに与えられている部屋は、申し分ないくらい広いが、流石に薬草を砕いて粉を撒き散らしたり、丸薬に加える蜂蜜を温める為、火を使ったりなど出来ない。


「そうだね。そんなことになったら、みんな大騒ぎだろうなぁ。マレの部屋から煙が上がったって」


「おかげで自由にやれているよ。…あの家を残してくれてありがとう」


「だって、あれは君のものだからね。父さんにとっても思いでのある場所だもの。なくしたりはしないよ」


「──サイアン」


「なんだい?」


 マレは少し言いよどんだ後。


「その…本当に僕でいいの? 僕はとても嬉しいよ。サイアンにそんな風に思ってもらえて…。でも……」


「自信がない?」


「うん…。だって、サイアンはとても綺麗でかっこいいもの。みんながサイアンを好きで…。僕なんかより、もっとずっと似合う人はいるはずで…。僕は何も持っていないんだ。僕が嬉しくても、サイアンにとってそれが一番なのか…」


 サイアンに釣り合うような地位も名誉も持っていない。まして、美貌など持ち合わせていなかった。

 するとサイアンはくすりと笑んで。


「僕はマレが好きだ。ひとめ見た時からね。もちろん、あの頃はそこまで深く考えてはいなかったけれど……。ずっと一緒に過ごすうちにどんどん好きになって行った。僕はどんな高い地位も名誉も、誰もが見惚れる美貌も必要じゃない。そんなものに目はくらまないよ。ただ、隣で君に笑っていて欲しいんだ。──それで充分なんだ」


 頬に触れていた指が唇を掠めて、感触を楽しむ様に触れてきた。思わず胸がドキリとする。


「本当はいますぐ君が欲しいくらいだ。──けれど、まだ早い。君が十七才になるまで待つよ。それで成人だ。そうしたら、君を僕のものにする。周囲にも正式にパートナーとして紹介するよ」


「サイアン…」


 顔が熱くなって鼓動が早くなった。サイアンはそんなマレの額にキスを落として。


「さあ、もう寝よう。──その前に、久しぶりに歌おうか? 時々、ひとりになったとき、口ずさんでいたんだ。君に歌っているつもりでね」


「──ありがとう。サイアン」


 そうして、サイアンはあの少し物悲しくも、美しい旋律の子守唄を、マレの為だけに歌ってくれた。



 それから一週間。ラーゴも含め、皆で以前の様に楽しく賑やかに過ごした。でも確実にサイアンは大人になっていて。

 養成学校に戻る当日。

 早朝に出ていくからと、朝食も待たず出発準備を整えていた。それを傍らでジッと見守っていたマレに、なにかを感じ取ったのか、サイアンは誰もいない書斎へ連れ出すと。


「マレ。来週にはまたここへ帰ってくる。すぐだから、そんな顔をしないでくれ」


 肩に手をおいて、顔を覗き込んでくる。マレは視線をサイアンの胸元あたりに向けていた。顔をみると泣き出したくなるからだ。

 なんて子供じみているんだと思う。けれど、悲しいのは止められない。来週帰ってくると何度も言い聞かせたのに。


「…マレ」


 少し低くなった声音に、顔をあげれば。


「──!」


 目前にサイアンの顔が迫って、次に唇に温もりを感じた。合わせただけのそれは、それでも長く。


「──マレ。かならず、戻って来る。待っていて。僕は──必ず守るから」


「……!」


 それが、ルボルとの事を指しているのだと悟って、余計に泣き出しそうになった。


「なにがあっても。君をひとりにはしないから。ね?」


「…うん」


 こくりと頷くと、もう一度だけ、やはり触れるだけのキスが唇に落ちてきて、そのまましっかりとした腕に抱きしめられた。


「…キスなんかして…。僕の方が待てるかどうか…」


 頭上でそんな言葉が聞こえてきたが。


「──いいや。守って見せるよ。君との幸せのためにね」


 それで、サイアンはまた学校へと戻って行った。

 そして、一週間後卒業する。

 そのまま、青の騎士団への入団が決まり、晴れてサイアンは騎士の一員となった。



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