負けたくない!
あの大男の顔が浮かび、「負けたくない!」という気持ちが強まった。
なんとかして、あの大男を出し抜けないかしら。
考えることになる。
何か思いついて、思いついて、思いついて、私――!
直近に起きた様々な出来事を思い出した時。
ガラージオの洞窟からの生還のことを、まず想起した。あの時、船頭のトーマはこう言っていた。
――「港の仲間と連絡をとります。そのための狼煙と合図も、決めていますから。必ず生還できます」
そうよ。
狼煙!
あの時、トーマは狼煙に色をつける手段として、硝石を使うと言っていた。赤色の狼煙を上げるために。そして硝石がない時は、代用できるものもあると言っていたのだ。例えばチークに使われているに酸化鉄系顔料は赤鉄鉱であり、これで赤い狼煙をあげることもできると言っていた。
閉じ込められているこの部屋には、暖炉がある。
あとは化粧品があれば……。
競売にかけるなら、商品である私達のことを着飾らせると思うのだ。よって衣装と共に、安物の宝飾品や化粧品があるはず。
部屋の中を見渡し、クローゼットとチェストがあるので、それを物色することにした。
幸いだったのは、この部屋にいる女性達が皆、薬のおかげで他者に無関心であることだった。私がクローゼットやチェストを物色しても、皆、宙を眺め、無反応なのだ。
そこで私は化粧品を探し続け……。
「あったわ!」と心の中で叫んでしまう。
やはり着飾らせるため、安っぽい宝飾品と化粧道具が用意されている。それはチェストの中で発見できた。そしてチークもあったのだ!
こうして私は、チークを手に暖炉に近づき、その中身だけを薪にくべる。
街中で赤い狼煙が上がれば、何事か、となるはずだ。
ここで何か起きていると、みんな思うはず。
それで人が集まってくれれば……。
中身が空になったチークは隠し、バニティボックスはチェストの中に戻した。
あとは他のみんなと同じで、無関心・無反応を装う。
多くの人が気づくと言うことは。
闇組織の人間も気が付くことになる。私がやったとバレないようにしたいけれど……。
そもそも本当に赤い狼煙は、上がっているのか。
この牢屋と言われる部屋にいては、分からない。
しばらくは緊張感を持って待っていた。
だが、何の変化もない。
しかもパン一つしか食べていないので空腹でもあり、喉も渇いている。そして薄暗い部屋。そうなると体は体力の温存を求めるようで、私は眠り込むことになった。
◇
突然、文字通り、叩き起こされ、驚き、目を丸くする。
「起きろ、立て、部屋から出ろ!」
これまで見たことがない、髭がぼうぼうの男に怒鳴られ、部屋中の女性がのろのろと床から立ち上がっている。私は咄嗟にシャキッと動きそうになり、慌てて回りの動きに合わせ、緩慢な動きに変えた。
「くそっ。なんでまたあんな赤い煙が上がったんだ!?」
「分からねぇ。でもここを目指し、警備隊が大挙して向かっていると聞いた。女達を早く隠すんだ」
髭ぼうぼう男の嘆きに答えたのは、私をこの牢に連れて来た、目つきの怖い男だ。
この二人の会話を聞いた私は驚き、そして嬉しくなっていた。赤い狼煙作戦は、大成功だった。でも闇組織は私達を、地下へ隠そうとしている!
それを何とか阻止したいと思った。
でも一体どうしたら……?
私一人が暴れたところで、どうにもならない。
そう思いながら、追い立てられるようにして、牢屋という名の部屋を出て、廊下を歩くことになった。部屋を出てすぐに気が付く。進行方向とは逆、つまり後ろで食べ物の香りを感じる。
そこで前後の女性の肩を叩き、厨房の方に顔を向けると……。
彼女達は匂いに気づき、一目散に厨房の方へ駆けて行く。
私のスープを貪り食べた女性。あれはきっと薬の作用で、食欲が旺盛になっているのではないか。匂いにつられ、行動するのではと思ったが、正解だったようだ。
そこで部屋から出てくる女性の肩を手当たり次第に叩き、厨房へ誘導すると……。
部屋から出てきた女性はみんな、厨房へと向かってくれた。
私もその後に続くように歩き出す。
「!? おい、お前たち! なんでそっちに行っているんだ!」
薬でコントロールされている女性達は、いつも従順なのだろう。この場に男は二人しかいない。地下へ誘導するため、先頭にいるのは、髭ぼうぼう男。部屋の中で座り込む女性を立たせ、誘導するのは、目つきの怖い男だった。
目つきの怖い男は、女性を立ち上がらせると、「部屋を出て、前の女の背中を追って歩け」と告げていた。だが私により、途中からみんな、厨房に向かいだしたのだが……。ようやくそれに、目つきの悪い男が気付いたようだ。
「おい、おい、何でそっちにみんな向かっているんだ!?」
目つきの悪い男と同時くらいに、私も厨房に着いた。
厨房では女性達が食べ物を物色している。
パンを見つけ、かぶりついている者。スープの入った鍋に、食器をつっこみ飲もうとしている者。リンゴやオレンジを見つけ、食べ始めている者。まさにカオス。収拾がつかない状態だ。





















































