二段落ち
『それは良かったです。……シャルロン様は自由でいる時にこそ、最大限に輝くと思います。鳥籠から出て、僕のところへ来ませんか?』
ドキッとしてカシウスを見ると、その瞳に甘い煌めきを感じる。
これは私の夢の中だ。
私はカシウスに何を求めているのかしら……?
『カシウス殿下……』「シャルロン!」
ウォードの声が聞こえ、体を揺さぶられた。
これは……夢の中のことではない。
「シャルロン!」
頬に何かが触れたと分かった。
現実で何かが起きている。
「シャルロン!」
目を開けると、上半身を起こしたウォードが、心配そうに私を見ていることに気が付く。アイスシルバーの髪は乱れ、碧眼の瞳は真っ直ぐに私に向けられている。
「……どうして泣いている? それにカシウスと呼んでいたが、それは……ラエル皇国のカシウス・ラエルのこと……だろう?」
直前に見ていた夢のことを思い出し、ギクリとしながら、私も上半身を起こす。
昨晩、ウォードが眠るベッドのそばに椅子を置き、彼の様子を見守っていた。だが眠気に襲われ、ベッドに顔を伏せるように上半身を預け、椅子に座ったまま寝ていたようだ。
なんだか体のあちこちが痛む。
「もしやカシウス皇子に、何か嫌なことでもされたのか?」
伸ばしたウォードの指が、私の頬に触れたので、ビクッと体が震えてしまう。普段、ウォードに触れられたりすることがないので、警戒していた。
「カシウス皇子は立派な方です。私が嫌がるようなこと、するわけがありません。寝惚けていただけです。気にしないでください」
そう答え、椅子から立ち上がろうとすると、手首を掴まれた。これには仰天して声を出しそうになったが、それは我慢する。カーテンを見る限り、まだ陽は完全に上っていないと思う。少しずつ朝陽が届き始めている様子だった。叫んだりしたら、使用人たちを驚かせてしまう。皆、ウォードが目覚めたとはまだ知らないはず。その状態で叫んだとなると、何かあったと心配もするはずだ。
ということで悲鳴を呑み込み、「な、何でしょうか。カーテンを開けようと思っているのですが。……水でも必要ですか?」と尋ねると……。
ウォードは見たこともない悲しそうな表情を浮かべ、「すまなかった。ごめん。急に掴んでしまい、加減ができなかった」と言い、ゆっくり私の手を離した。少し手首が赤くなっていると分かると――。
「え……」
ウォードの碧い瞳から、ポロリ、ポロリと涙がこぼれ落ちる。
その瞬間。
これは夢なのではないか、と思った。
よくある夢の二段落ち。
夢から目覚めたと思ったら、まだそこは夢の中だった……というパターンだ。
それならば。
ウォードのことをぎゅっと抱きしめた。
「大丈夫ですよ。ちょっと赤くなったぐらい、すぐに元に戻ります」
「シャルロン……」
信じられないくらい弱々しい声で私の名を呼ぶと、おずおずとウォードは腕を伸ばす。ゆっくりと私の腰にウォードは腕を回し、遠慮がちに少しだけ力を入れた。
こんな夢を見るなんて。私はウォードに、こんな風に抱きしめて欲しかったのかしら?
ウォードの髪に触れると、アイスシルバーの髪はとても艶やかでサラサラしている。
急にドキドキしてきた。
「水を飲んでください、ウォード。あなたは昨晩から飲まず食わずです」
「そうしよう」
あっさり私から体を離し、ウォードは私が用意した水を飲んでいる。
その間にカーテンを開けると、柔らかい朝陽が部屋に降り注ぐ。
もう一箇所のカーテンも開けると、部屋が一気に明るくなった。
現実では雨だったけど、夢では綺麗に晴れている。
こんなに明るいと目が覚めそうなのに。
まだ目覚めないのね、私。
「ウォード、具合はどうですか? あなたは馬車から投げ出された上に、川にまで落ちたんですよ。そして自力で泳いで川岸までたどり着いたのに。そこで緊張の糸が切れたのか、意識を失ったのです。そして倒れ、おそらく頭を打った。一応、小さなたん瘤ができていたようです。痛みませんか?」
尋ねるとウォードは手で頭に触れ「ああ、これかな。少しだけ痛む」と応じた。
夢の中でも痛みを感じるのね。
あ、この目の前にいるウォードは、私が意識で生みだした存在。
私が痛みを感じさせているのだわ。ちょっと可哀そうなことをしているわね。
「ずっと眠った状態で、熱もなく、脈も心音も正常だと、医者は言っていました。どこか具合が悪いところはありませんか?」
「……そうだな。大丈夫……だと思う」
ウォードは体のあちこちを動かし、そう答えた。
「食欲はありますか?」
「そう言われると……」
「分かりました。ではまず医者を呼びます。診察していただいている間に、朝食を用意させましょう」
そう言いながらウォードのいるベッドに近づいた。
サイドテーブルには水を入れたピッチャーとグラス、そして呼び出しのベルが置かれている。
「いろいろとありがとう、シャルロン」
ベルに伸ばした手が止まる。
ウォードに感謝の言葉を言われた。
その瞬間。
ここが夢であると思い出し、情けない気持ちになっていた。














