夢を見た
夢を見た。
宮殿で行われている舞踏会に参加をした。
まるでウェディングドレスみたいな、純白のドレスを着て。
宮殿には「輝きの間」という大広間があり、舞踏会はそこで行われるのが定番だった。その部屋は天井に見事なフレスコ画が描かれている。青空を背景に、天使や聖人の姿が描かれ、中心に主の姿があった。
だが、今、天井に目をやると、そこには本物の青空が見えている。白い雲が浮かび、隙間から陽射しが射し込んでいた。「輝きの間」には、いくつもの天使の階段が伸び、その名の通り、キラキラと煌めいている。
美しさに見惚れていると、声をかけられた。
『シャルロン、わたしと踊ろう』
紺色のテールコートを着たウォードがそこにいる。
アイスシルバーの髪を隠すような包帯もない。
碧眼の美しい瞳は、ハッキリと開けられている。
『ウォード……目覚めたのですか?』
『ああ。君が一晩中、見守ってくれたおかげだ。ありがとう』
ウォードの「ありがとう」の一言に、なんだか涙が出そうになる。現実のウォードが私に感謝の気持ちを伝えてくれたことなんて、あったかしら? 夢は何でもありだから、素敵だわ。
『ほら、曲が始まるよ』
ダンスが始まると、結婚式の夜のパーティーが再現されているようだ。だってリアベラ海のバロス兄弟の海賊船について、ウォードと話しているのだから。しかも……。
『沈没したバロス兄弟の海賊船に積まれた金銀財宝……つまり、お宝探しか』
『そうなの。初期投資した分は、回収できるくらいのお宝が見つかるわ』
『面白いな。子どもの頃、宝探しゲームをよくやったよ。海賊船の引き上げでお宝探しなんて、大人しかできないだろう』
そこでウォードが私をクルリと回転させた。
ドレスのスカートがフワリと広がり、美しく白い花が、大広間の中央で咲き誇る。
『挑戦してみよう。沈没したバロス兄弟の海賊船の引き揚げに』
『え、でも海賊の盗んだお宝なんて、いらないって……』
『沈没してどれだけの時間が経っている? もう元の持ち主は亡くなっているだろう。そのまま眠らせるぐらいなら、有効活用した方がいい。シャルロンなら何に使う?』
問われた私は考える。
元は盗まれたお金だ。それを私利私欲のために使うのは、何か違う気がした。
それならば……。
『アルモンド公爵家の領地はとても広いですよね。沢山の領民がいて、彼らが暮らす村や町があります。でも学校はほとんどありません。平民でも地頭がいい子は沢山います。彼らに学びの機会を与えるのは、どうでしょうか? 優秀な子どもは、アルモンド公爵家で働いてもらったり、商会の従業員として、迎えてもいいかもしれません』
『それは名案だ。そうしよう』
これは夢だ。夢の中のウォードは、私の提案もちゃんと聞いてくれる。『名案だ』と喜んでくれた。
ダンスを終えると、『では若奥様、今度は自分とお願いします』と声を掛けられる。その声はワイリーだ。いつもの白シャツに黒のスーツと執事のような装いのワイリーは、腕を吊るしていない。
『骨折した腕は、もう大丈夫なのですか?』
『おかげさまで、この通りです』
そう言ったかと思うと、骨折していた左手で私の手をとった。そしてクルクルと私を回転させる。
『本当に、もう治ったのですね。良かったわ』
『若奥様のおかげです』
『え、私は何もしていないですけど』
するとワイリーの細い指が、私の唇をふわっと押さえた。
ドキッとしてワイリーを見ると、彼はなんとウィンクをしたのだ!
驚きでドクンと心臓が大きく反応している。
普段のワイリーから想像できない行動だった。
でもこんなことをさせているのは……私? だってこれは私の夢だから。
『さあ、踊りましょう、若奥様!』
いつもとは違う快活さで、ワイリーが私をリードしてダンスを始める。
初めてのワイリーとのダンスにドキドキしっぱなしだった。
あっという間にダンスは終ってしまったが、ワイリーはこんなことを言う。
『若奥様が寂しいと感じたら、いつでも自分のことを呼んでください。いくらでも話し相手になりますよ』
『ワイリー……』
あの屋敷で、チャーチャ以外で私のことを、心から理解してくれようとした人。それがワイリーだった。だからどこかで彼に優しくされたいという願望があったのかしら。
『では最後は僕とのダンスをお願いします』
驚いた。テールコートをビシッと着こなしたカシウスがそこにいるのだから。しかも瞳と同じ、深緑色を帯びたブラックオリーブ色のテールコートが、よく似合っている。
いつもゆったりとした母国の衣装を着ているが、こうやって体のラインが出る装いだと、引き締まった無駄のない体躯をしていることがよく分かる。脚も長いわ!
『それでは踊りましょう』
てっきりワルツを踊るのかと思ったら、なんだかエキゾチックな曲が流れてきた。どうやらこれはカシウスの母国、ラエル皇国のダンスの曲のようだ。
『えええええ、カシウス殿下、私、このダンス、よく分からないです』
『大丈夫ですよ、シャルロン様。細かいことは気にせず、気の赴くままに、踊ってみてください』
『そんな……!』
動揺したものの、よく見るとカシウスも、決まった動きをしていないように思える。腰を動かしたり、足でステップを踏んでみたり。確かに自由でいいようだ。
正解がないなら、好きなようにしていいわよね。
こうして音楽が奏でられている間は、カシウスとお互いの顔を見て、笑いながらダンスをできている。
カシウスとのダンスの時間は、何かから解放されたように感じ、とてもスッキリできた。
『どうでしたか、シャルロン様。僕の母国のダンスは?』
『自由に踊れるので、気持ちが楽になりました』
『それは良かったです。……シャルロン様は自由でいる時にこそ、最大限に輝くと思います。鳥籠から出て、僕のところへ来ませんか?』


















