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わたしにもう一度恋して欲しい~婚約破棄と断罪を回避した悪役令嬢のその後の物語~  作者: 一番星キラリ@受賞作発売中:商業ノベル&漫画化進行中


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甘くて苦い。

「勿論です。ただ、残されたボールもローブも、これと言った特徴がなく……。犯人逮捕は難しいかもしれません」


 それはそうだろうと思ってしまう。

 この世界の事件解決に、前世でお馴染みの防犯カメラ、DNA鑑定、犯罪ビッグデータの活用なんてできないのだから。それこそ天才的な頭脳を持つ名探偵でもいてくれないと、特徴のないボールとローブを放置した犯人は、捕まえられないだろう。


「仕方ないです。ただ郊外で起きるような犯罪が王都の中心部で起きているなら、怖いわね」


「そうですね。あのT字路に向かう橋は裏道でもあるんです。宮殿のあるメイン通りにつながる橋は、往来が多い。対して今回、事故が起きた場所は普段から往来はそこまでありません。しかも雨でしたから……。犯人はそこを狙ったのかもしれません」


 雨ということで、外が暗くなるのも普段より早かった。それもあり、狙われてしまったのかもしれない。犯人は通りがかった馬車なら、何でもよかったのだろう。T字路から先は貴族の邸宅が立ち並ぶエリアにつながる。貴族の乗った馬車以外を見つける方が困難だったとも言えた。


 ただ、今回、ウォードは護衛の騎士も連れていた。それに馬車は止まらず、転倒している。強盗犯も迂闊に近寄れず、逃げ去った可能性が高い。


「ワイリー。いろいろ教えてくださり、ありがとうございます。ウォードのことは、私が見ておくわ。あなたは休んでください」


「! そんな。若奥様こそ、お休みください」


「ウォードも目覚めた時、私よりあなたがいてくれた方が、喜ぶと思うわ。目覚めて私を見たら『なんだ、君か……』って落胆されそう。でも……寝ている状態とはいえ、ウォードの顔をじっと眺められるのは、こんなことでもなければ、なさそうですから……」


 そこでワイリーは紺色の瞳を細め、悲しそうな顔になる。


「……若奥様は今、幸せですか?」


「えっ……」


「今のような生活を強いられ、それを我慢し、でも何とか自分らしくあろうと、もがいていらっしゃいます。一時は享楽的になり、現実から目を背けられようとしました。ですが、皇女の教育係という誉れある仕事を見つけ、現在はあなたらしく生きていらっしゃいます。それでもすべての元凶は……。もし彼が……と考えてもおかしくないのに。どうしてそんなに献身的になれるのですか? まるで聖母のようです」


 それは食事前の私も、考えていることだった。

 可能性はいくつか考えたが、ワイリーの言葉でなんとなく、自分の中で答えが見つかったと思う。


「離婚はこの世界で認められないですから。修道院に私が入ることも、ウォードには認めてもらえませんでした。ですからもうウォードと、ちゃんと夫婦になりたいと考えるのは諦めたのです」


 私の言葉にワイリーは、辛そうな表情で息を呑む。


「でも自分の人生を諦めたつもりはありません。ソアール皇女の教育係は、私に新しい生き方を垣間見せてくれた気がします。公爵夫人という立場であれば、令嬢の家庭教師として雇ってくださるところはいくらでもある気がしました。ですから私はそうやって、自分らしく生きて行くことに決めたのです」


 夫婦になるのは失敗した。当然だが子どもを授かりたいとも、ウォードは思っていないのだろう。もしかすると将来的に養子を迎えたり、なんなら愛人でも作り、外で子どもをもうけ、跡継ぎに迎えるつもりなのかもしれない。


 アルモンド公爵家は、私にとって、結局は嫁ぎ先に過ぎない。家門にこだわり、牛耳りたいなどと考えてはいなかった。だから次の世代のことをウォードがどう対応しようと、何か言うつもりはない。とはいえ……。


「教育係や家庭教師をやるには、公爵夫人の肩書は重要ですから。ウォードに死なれては困ります」


「そんな言い方、若奥様らしくありません。若奥様は性根がお優しい方ですから、そんな考え方はできないはずです」


「まあ、どうかしら? 一晩中ウォードの顔を見ながら、復讐計画を立てるかもしれないわ」


 これには「まさかそんなことを」とワイリーは笑い、私も自分で言っておきながら、「シュールだわ」と笑ってしまう。


「もしかすると若奥様は、ウォード様とは夫婦にはなれないのかもしれません。ですがもしかしたら家族にはなれるかもしれません。ウォード様は自らの意志で、朝食の席に向かっています。自分が何か言ったわけではないです」


 このワイリーがもたらした情報は、甘くて苦い。


 たまにウォードが現れるようになった朝食。

 それは彼自身の意志で来ているのだと分かった。

 これは嬉しい。甘い情報だ。

 だが……。

 夫婦にはなれない。でも家族にならなれる……。

 これは何とも言えない。苦い情報。


 でもワイリーは励ますつもりで言ってくれているのだ。


「ありがとうございます、ワイリー。それではそろそろ休む準備に取り掛かってください」


「はい。ありがとうございます、若奥様」


 ワイリーがペコリと頭を下げ、椅子から立ち上がり、私はベルを鳴らし、ヘッドバトラーとチャーチャを呼んだ。ワイリーが出て行った後、ヘッドバトラーとチャーチャに指示を出す。


「私は入浴をしたら、またこちらへ戻ってきます。それまでの間、ウォードの様子を見ておいてください。あと、夕食、美味しかったわ。片付け、よろしくお願いします」


 私もウォードの寝室を出た。

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