僕と彼のマツロ
こっちの方が個人的に楽しいという現実。何かつらいものを感じます。
拷問官を物理的に焼却した青年と精霊は次の目的地へと向かっていた。
「どこに向かってるの?」
”諸悪の根源だよ”
青年の声は淡々としており、感情の起伏が少ない。それに精霊が止めるわけでもなく、自分の力を使ってくれるのを今か今かと待ち望んでいた。
本来、力を使うことに抵抗がない青年だが、その限界まで使うといったことは一度きりしかない。
そして、精霊にしてみれば力を搾られていく感じが最高に気持ちがいいし、頼られていると言う感覚が強く、もっと使ってほしいと願っているのだ。
そんな中、自分が見てもわかりやすいほどに怒っている青年を見ると自分の出番かと、腕まくりの1つでもしたくなるというものだ。
もし、これが怒りの1つでも覚えないと人間として終わっているような気もするが青年はちゃんとした人間だ。人間ゆえに、殺されかけたことに報復をせねば可笑しいのだ。
その日、ボルフェッサは、国全体を見下ろせる自室から国を見下ろし、ワインを飲んでいた。真昼間から何を飲んでいるんだ、飲む暇があるなら仕事をしろというものもいるかもしれないが、この男にその才能はない。
事実、この国を動かしているのはボルフェッサを支えている宰相である。彼は、ボルフェッサの無茶な用件をかわしながらも、この国をよい方向へと導こうとしていた。故に、今回の事件に宰相に非はないとここに記載する。諸悪の根源であるのは、面白おかしく無茶な法を作りそれを取り消そうとしないボルフェッサに非があるのだ。
そんなボルフェッサだが、使えない無能な男のわりにというか、使えない無能な男らしくプライドだけは一人前にあり、そして、嗜虐趣味があった。
そんな彼が治める国だからこそ、拷問官などという男がいるしプライドが高いからこそ周囲の声に耳を傾けることはなかった。
「さて、今日はどうしてやろうか」
彼がくるりと向きを変える。そこには、1人の女性が壁に鎖でつながれていた。しかし、この女性全ての衣服を脱がされており所謂所の全裸であった。身体の至る所には赤い腫れがミミズのようにのたくっており、女性の白い肌がほぼ赤く染まってしまっている。眼は何処か虚ろでもやは何も見ていないのだろう。無駄に豪華な絨毯の一点を見つめており、ピクリとも動かない。
辛うじてだが、口がしきりに動いていることから最低限生きていることだけはわかる。
そんな彼女だが、通常の人間と違う点がいくつかある。
まずは頭だ。通常の人間ならばないはずの獣の耳を頭から生やしている。人間で言うところの耳の部分には毛があるだけでそれを除けばツルリとしている。
尾骨の部分からは尻尾の様なものを生やしており動かせるのだろうが、今は動くことなくぐったりしている。
彼女は亜人種。親が人間同士なのになぜか生まれてきてしまう種族。身体能力はもちろん知性全てが人間に劣っており、簡単に利用され、簡単に捨てられる。
彼女たちは、きちんと喋る事はできる。たって歩くこともできる。人間との間に子だって作れる。
しかし、排斥社会において自分と違うものは排除されるのが世の現状なのだ。
残念なことに亜人種は利用されて終わるというのが運命なのだ。
故に、彼女はボルフェッサの奴隷だった。
意味のない拷問を受け、辱かしめを受け、そして慰み者にされた。
見た目は耳と尻尾の生えた人間と大差ないのだ。故に彼女たちを奴隷にするものの目的はいつも同じ。
だが、彼女たちを哀れむ者はいない。これが彼女たちの現状。これが彼女たちの運命だと諦めるしかない。
そんな、裸身丸出しの彼女を見てまたボルフェッサのどうでもいい部分が刺激されたのか、徐に来ている衣服を脱ぎ始める。
服を脱いで、彼女に近づく。鼻息荒く平時の外で同じようなことをいていれば誰だってボルフェッサの事を変態だと思うだろう。それほどに、鼻息が荒かったのだ。
近づく必要もなく「フーッ!フーッ!」と彼から聞こえる。周りからすればあまりに聞きたくないもの。
そして、彼女の胸を鷲掴みにし、彼女という女を堪能し始めた。
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自身の荒ぶる獣を本能のままに彼女にぶつけたボルフェッサは非常に満足していた。しかし、それをぶつけれらた女の亜人は事切れており既に瞳に色はない。
そんな彼女をチラッと見ては「また新しいのを買わんとな」と呟く。
この奴隷はボルフェッサにとって気に入っていた部類のものだったのだが死んでしまっては反応がなく詰まらない。やはり拷問にしても新鮮な反応がほしいというものなのだ。
そして、さて奴隷の手配をしようかと召使いの者に連絡を入れようとしたところで、彼の意識は途絶えた。
次にボルフェッサが目を覚ましたのは亜人であった女が繋がれていた壁だった。
そして、そんな彼の目の前の何もない空間から突如として現れる一人の青年。
”やあ、領主様、ご機嫌はいかがですか?”
彼の口は動いていないのにも拘らず、自分の頭の中にこの青年のと思しき声が響く。
「き、貴様っ!いい訳があるか!ほら!早くこの鎖を解け!私を誰だと思っているんだ」
”貴方をそこに置いたのは僕なんですよ?そんなことするわけないじゃないですか”
「いいから早く解け!」
ボルフェッサと会話が成立しない。こうなればと青年はボルフェッサを無視して勝手に話し出す。
”実は僕は見ての通りなのですが、田舎者でしてね?この国、いやこの世界の情勢について何も知らないに等しい。そんな僕ですが、一般的な教養は身に着けたつもりです。しかし、さあ世界を見て回ろう!と思った矢先にこの国が見えたんです。どんな国かな?とドキドキしながらこの国へ入国申請してんですがね…”
そこで一度言葉を区切る。ボルフェッサの頭を掴み壁へと叩きつけながら瞳を覗き込むように言う。
”身分証明できなかったから、という下らない理由で拷問みたいなものに遭いましてね?なに、その拷問官はキレイに消してあげましたから少しは多少はスッキリしているんですよ?ですけどね、それを指示した人がいると考えてると非常に、非常に!腹が立ちまして、ねっ!”
もう一度壁に叩きつける。心なしか自分の身体の制御が不安定になってきているのか、ボルフェッサの頭を掴んでいる部分が黒く焼け焦げていっている。その間にも何やら騒いでいるが、聞く気がない青年は自分の構成から今だけ聴覚器官を取り除いている。故に音のない世界というわけだ。
青年に人の悲鳴を聞いて愉悦に浸かるような趣味はない。
”そこで思ったんですよ。そいつを殺そうって”
瞬間、ボルフェッサが硬直し青ざめた顔でこちらを見ている。
青年に掴まれている部分が焼け爛れている事を一瞬忘れたかのような表情になり、涙と鼻水を垂らしながら必死に青年に同じ言葉を呟く。
しかし、青年には聞こえない。
”大丈夫ですよ領主様。僕だってそんな理性のない獣染みた衝動で人を殺そうとは思ってませんから”
ボルフェッサの顔に僅かながらも希望があったことに驚いたのかこちらジッと見ている。
”僕は人間なのですから理性は持ち合わせてますよ。獣にはなりたくないのでね”
ボルフェッサは明らかに、誰が見ても明らかに心底安心しきっていた。自分は殺されない。殺されそうな目にはあってるけど死にはしない、と。
”ですから……”
そして、青年の声が彼のボルフェッサの脳内に今まで一番、それは宛ら壊れたスピーカーが決死の思いで最後の音を出そうとするほどに。声の響くホールのように。
”僕は、冷静に理性を持ってして、自分の意思で。状況に流されずに貴方を殺します”
瞬間、ボルフェッサはドロリと溶け床の一部になった。
次回の更新はいつかな~?