大きな鴉、楽しそうな猫
「やめろってお前、こら」
「黎明くんが出て来ないから運んであげてるじゃないですか」
「だからって担ぐなよ。お前俺より小さいのに力強くないか」
「いっぱい持てるから便利ですよ」
「だからって俺を持つな、俺を」
茜と黎明、二人が騒ぎながら階段を降りていく。なぜか黎明は肩に担がれていた。
階段を降りると、茜は黎明をひょいっと降ろして氷室を確認しに行った。黎明もついて行くので会話も続く。
「黎明くんは怖がり過ぎです」
「だってよ、あの婆さん、羽折るとか言うんだぞ。怖いだろ普通」
「冗談ですよ」
「いいや、あの目は本気だった」
黎明は山婆をすっかり恐れていた。
どのくらいかと言うと、茜のところに来てその背に隠れるくらい。黎明の部屋を準備していた茜は面食らった。着物を離さない黎明に、弟ができたような気持ちになって宥めたり慰めたりしていた茜は、気がついたら一緒に寝ていた。二人して壁に持たれて寝ていたので首が痛い。
氷室で野菜や卵を見繕い厨に移動する。山婆は酒さえ有ればいいが、茜は食べた方が調子が良い。この辺は妖怪によって結構違いがある。もちろん好みも。黎明は初対面の様子を見るに、食事は重要らしいと茜は思った。半妖だからだろうか。
「だいたい、山婆は朝から仕入れで居ませんよ。いい酒が入るんだそうです。ついでに飲んでくるのでしばらく帰りません」
「それもそれで不用心じゃないか」
「何かあったら腕力で解決します」
「そうか、お前にはそれがあったな」
黎明がいた里では怪我をさせられても返り討ちにしたし、嫌がらせされても倍にして返したが、本能が山婆を恐れたらしい。あれは相当強い妖だ。そういう訳で部屋を出るのを渋った黎明には、山婆の不在は拍子抜けもいいところだった。
「というか、居ないなら早く言ってくれよ」
「ここまで来ると面白くて」
「こちとら必死だったんだぞ〜」
「それは申し訳ない」
申し訳ないと言いつつも茜の尻尾はピンとしていて、表情だって楽しそうだ。
「山婆がいない時はいつも一人でしたから、なんだかいいなと思いまして」
耳をしゅんとさせてそんなことを言われると黎明もこれ以上文句を言えない。
そんな黎明を知ってか知らずか、茜はテキパキと動いて朝食を用意していく。
「食べたら、店を開けましょう。今日はあなたがいるので、賑やかになりそうですね」
この店は様々な物を売っている。
名前の通りの駄菓子。芳乃が買う煙草。その他にも、紙や筆。雪女お手製の氷。酒や薬草。なんだか分からないものもたくさん。
「駄菓子屋というか、何でも屋?」
「最初は普通に駄菓子を売っていたらしいですよ。客の要望に応えるうちにこのように」
「へぇ。ん、これは何だ?」
箱に入れられた腕輪。綺麗な石が付いているが、見ているとどこか落ち着かない。
「呪具ですよ。力を吸い取ります」
「ちょっと待て。お前同じの着けてないか」
茜の腕には、売り物とは違う石の付いた腕輪があった。
「ええ。私は妖火の力があるのですが、まだ制御が難しく、今はこの腕輪で抑えているんですよ」
私のは黎明が触っても平気ですよ、なんて話す様は、天気の話でもしているような気軽さがあった。
「何しれっとしてるんだお前は!呪具だぞ!」
「毒も薬になると言うでしょう」
それはそうだけれども。制御に呪具を使うなんて、相当妖力が強くなければないことだ。それでもあの山婆が問題ないとしているのならば、必要なことなのだろう。あの婆さんはどう考えても茜を可愛がっている。
「体に悪影響はないのか」
「慣れるまでは少し怠いですが、慣れてしまえば特にはないですね。体の動きにも支障はありません」
「それならいいけどな。全く、心配させるなよ」
「昨日今日で情が移るとは。貴方もお人好しですね」
「一晩一緒に寝たお前も同類だろう」
「大きな兄が増えたと思ったら弟なんですもの。弟は放って置けないでしょう」
「誰が弟だ、誰が」
「貴方ですよ、黎明くん」
茜は目を細めて、楽しそうに笑った。




