あれはあの日の流れ星 4
バァァアアン!! という音ともに、人気のない路地裏にギャンギャンスタンプが押印される。
用心棒ジャンク・ザ・ジャックは、解凍された囚人ロック・ロック・プリィズンの首根っこを掴んだまま、紋章の上に転送された。
「ウゥ……ァ……ガッ! ガッ!」
魂を失くしたロック・ロック・プリィズンの肉体は白眼を剥いたまま意味をなさない言葉を繰り返している。震えは止まらず、両足は立つ事もままならない。よっぽど、金でも積んで別の悪党を雇うほうがまだましなのではないかと思わせる有り様であった。
「ヘルタイム……。面倒な事を思いついてくれたな」
ジャンク・ザ・ジャックはひとり愚痴を口にしながらも、任された儀式を遂行するためにロック・ロック・プリィズンを紋章の中央まで引き摺った。意識のないプリィズンが抵抗する事はなかったが、魂のない肉体は重たかった。手を離すと、プリィズンは自身の肉体を支えようともせず、紋章の上に大の字になった。
「ガァ……ガァッ! グ、ゥ、ウウ、ガッ!」
「静かにしていろ。下郎」
言って、ジャンク・ザ・ジャックは右手に持った異形の剣を地面に突き刺した。
その昔、大マゼラン雲の中に生息していた悪魔のごとき怪物を打ち倒し、その牙より造り出した禍々しい刀身を持つ魔剣である。柄には、かつては復讐の女神ゼラの顔が彫刻されていたが、今、その顔は金属の被膜によって覆われている。
「宇宙の狭間の闇にその魂あるならば、我が呼びかけに応えよ。汝はロック・ロック・プリィズン。時の呪縛を破り、我らは汝の器を現世に呼び戻した。魂よ、ギャンギャンスタンプの導きに従い、その器に戻るがいい!」
反魂の儀の呪文に応じて、ギャンギャンスタンプによって地面に押された紋章が明滅する。暗雲が立ち込め、稲妻が幾度となく走った。やがて雲の間を、青白い霊魂のような光が駆け抜けてきて、紋章の上で倒れているロック・ロック・プリィズンの肉体に飛び込んだ。
「今こそ甦れ、ロック・ロック・プリィズン!」
ガン! と、魔剣の切っ先で地面を強く突く。ひと際強い光が紋章から迸り、プリィズンの肉体が妖しげな光に包まれた。
「――――――はっ!?」
プリィズンが起き上がった。その目は、瞳が光を取り戻し、震えは収まっている。
「……オレは、確かに死んだはず。だとすれば、これは二度目の生か。オレをこの世に呼び戻したのは、あなたか」
プリィズンの言葉ははっきりしており、言語等に支障があるようには見えなかった。ジャンク・ザ・ジャックはプリィズンのほうへと向き直った。
「正確に言えば、俺の仲間が準備し、俺が儀式を遂行した。自分の名前はわかるか?」
「……ロック・ロック・プリィズン。甦らされた、という事は、オレの第二の命はあなたたちに握られているな。裏切れば、第二の死か? 教えてプリィズン」
奇妙な語尾にも、ジャンク・ザ・ジャックの心は動揺しなかった。奇妙な事は、この宇宙にはいくらでもあるからだ。
「そう考えてもらって構わん。さっそくだが、お前の仕事を伝える。これはギャンギャンスタンプ。地域のピースフルを下げる事で支配の力を増す紋章だ。お前は今から、この辺り一帯のピースフルを下げてこい。やり方は任せるが、二十四時間で支配完了とならない場合は、俺のボスが直々にお前を粛清するだろう」
ロック・ロック・プリィズンは顔色を変えず、粛々と頷いた。
「そういう事か。ピースフルを下げるんだな。了解した。ところで、ここはどこだ?」
「地球だ。来た事は?」
「……昔、何度か。週末のレジャーで」
「それは結構。もう一つ確認だ。自分の中にかつてなかった力を感じるか? この紋章に似た力だ」
「……ふむ」
プリィズンは首を傾げて少し考えたあと、
「ふん!」
おもむろに壁に向かって素早く掌を突き出した。光を放った掌の先で、壁が蒸気を立ち昇らせていた。妖しげな発光の、掌サイズのギャンギャンスタンプの紋章が、壁に押印されていた。
「これの事か?」
ジャンク・ザ・ジャックは無言で頷いた。ヘルタイムの目論見はどうやら成功したようだ。これなら予想以上に使えるだろう。
「結構だ。ではさっそく始めろ。さしあたり、あちらのほうに街がある」
言って、ジャンク・ザ・ジャックは街のある方角を指で指し示した。
「承知した――」
そう言って、プリィズンは動き出そうとし――
「あ、いや待った。あなたのお名前を知りたい。オレを甦らせてくれた者よ。教えてプリィズン」
「……ジャンク・ザ・ジャック」
魔剣が、地面から引き抜かれる。
「これでいいだろう。さあ、行け。俺はここで紋章を守るとしよう」
「承知した、ジャンク・ザ・ジャック。教えてくれてありがとうプリィズン」
言って、ロック・ロック・プリィズンは両腕を大きく振ると、とんでもない跳躍力で、紋章の上から跳び去った。
「……ふん」
さて。次の仕事だ。このギャンギャンスタンプの押印はほどなく戦隊連中の知るところとなるだろう。ジャンク・ザ・ジャックは、奴らが来るのを待ち受けていればいい。
「面倒な事だ」
日の光は薄く、路地裏は冷たい暗さのままだった。せめてこの魔剣を振るうに値する敵であればいい。そうでなければ、来たくもない地球に来た甲斐がない。




