第21話:自分だけ・・・・・・。
「いかせない・・・・・・。」
目の前で手を広げたミヨナを無理やり押しのけて痲緒梨の居場所をナースに聞き出し、駆けつけた。
ミヨナはよろけ、俺はやっとの思いで部屋を見つけた。
「痲緒梨・・・・・・!」
そこには包帯をぐるぐる巻きにされた痲緒梨が寝ていた。
「悟夢・・・・・・どうして・・・・・・どうしてあたしを見てくれないの!?」
「あ?」
「どうしてあたしがいるのにこいつばっか見るの!?」
「うるせぇな。だまれよ。」
「ねぇ!それはほとんど死人なんだよ!?」
「死んでねぇ!!生きてる!痲緒梨は生きてる!!」
「でも!」
「だまれよ、うそつき女!!」
「・・・・・・!!ひどい。」
俺は必死に植物人間状態にならないことを祈った。
どうして俺は忘れていたんだろう。
忘れていられることが出来たんだろう。
やっとの思いで掴み取った幸せを。
どうして再び危機に陥れてしまったのだろう。
生きてくれ。
生きて、生きててくれ。
自分に嫌気がさす。
一度守った命。
それを忘れて今までのうのうとすごしていた自分に。
それからというもの、毎日のように通った。
痲緒梨はいつも、どんなことを思って俺のところに来てくれていたんだろう。
いつも記憶の戻らない俺を見ていてなんと思っただろう。
どうして自分が彼女だと言ってくれなかったのだろう。
いや、言ってもきっと思い出さないと分かっていたから言わなかったのかもしれない。
頭を打ったせいでまだ頭がいたむ。
でも、植物人間になりかけてる痲緒梨を見ると、頭なんてどうでもよくなってしまう。
ただ、生きててくれ。
明日には目が覚めてくれ。
そればっかり。
病室の目の前に経つと、痲緒梨がベッドから起き上がって笑いかけてくれるかもしれない。
あほらしい妄想が浮かんでは消える。
「痲緒梨・・・・・・マーオ、そろそろ起きようぜ?」
そろそろ帰る時間が迫ってきた。
立ち上がった瞬間。
痲緒梨の目が開いた。
薄目でも俺にとっては嬉しかった。
「痲緒梨!!」
反応はない。
まさか本当に植物人間に・・・・・・?
不安が募る。
「・・・・・・誰?」
「・・・・・・は?」
言葉を発したことに安堵し、同時に耳を疑った。
予期しなかった言葉だった。
「・・・・・・あなた、誰?」
悔しかった。
なにより悲しかった。
自分を覚えていないという真実。
よく辛抱したな・・・・・・お前。
「俺は・・・・・・お前の彼氏。」
「彼氏?・・・・・・違う。あたしの彼氏、別れたから。」
「は?俺、別れる気ねぇよ?」
「違う・・・・・・あたし、新しい彼氏がほしかったの。だからミヨナといろんなところいくの。約束なの。」
ミヨナ・・・・・・?
「お前、過去のこと覚えてるのか?」
「当然でしょう?」
「俺の顔は?」
「・・・・・・分からない。」
俺だけ・・・・・・思い出してもらえない・・・・・・?
景色が一瞬とんだ。
「あなた・・・・・・名前は?」
「・・・・・・悟夢。」
「サトム?あたしの名前はね・・・・・・。」
「知ってるよ。痲緒梨。」
「・・・・・・ごめんね。」
「何が?」
「分からないけど・・・・・・ごめんね。お願いだからそんな悲しそうな顔、しないで?」
「してねぇよ!俺ちょっとナースステーションに知らせてくるわ!お前の意識が戻ったって。」
俺は走った。
辛い。
苦しい。
重たい。
誰でもいい。
俺を慰めてくれ。
誰でもいいんだ。
ナースステーションに知らせる。
「そう、ありがとう。」
そうして帰ろうとすると、呼び止められた。
「まって!!」
振り返ると、そこにはよたよたになった痲緒梨がいた。
「なにしてるの!?あなたはまだ寝てなきゃだめよ!!」
ナースさんが駆け寄る。
「また・・・・・・きてね?あなたのお話・・・・・・聞かせて。」
同じ顔、声、体。
同じ笑顔。
でも、俺のことを覚えていない彼女は髪の毛をくしゃくしゃにしたまま笑った。
その笑顔を断ることが出来なくて、辛いのに、「ああ。」といってうなずいた。
次の日も、俺は痲緒梨のところへ約束どおり会いに行った。
そこには小さい子供と楽しそうに目を細めながら話す痲緒梨の姿があった。
車椅子に乗っている。
痲緒梨は俺に気づくと、子供に手を振って俺のほうに近づいてきた。
「きてくれたんだね。」
「ああ。」
「背、高いね。」
「お前が車椅子だからじゃね?」
「これ?あのね、しばらく動かなくて筋肉がなくなっちゃってるから手からでもリハビリを始めて、手を振ることは簡単に出来るようになったの。ただ、問題は立てるけどあんまり歩けなくて。あたしっていったい何日寝っぱなしだったんだろう。」
「そうだな・・・・・・しばらく意識がなくて・・・・・・長かったよ。」
「ねぇ聞かせて。あたしの彼氏だったんでしょ?」
「あぁ、そうだな。」
いろんなことを聞かせた。
そのたび、楽しそうにうんうんとうなずいていたが、ミヨナの話になるにつれ、表情は曇っていった。




