第30話
ムラール・カラストル様、それは私がリオールにいて、未だマートラスに来ていない時に調べた人間でした。
公爵家の人間で、王子の勝手に何の抵抗もできずに翻弄されている貴族達の中で、唯一中心となれる人物。
そしてこれは偶然なのですが、公爵家ということであの王子に言い寄られても抵抗できるだけの権威を有している数少ない人物でした。
だからこそ、私はムラール様を婚約相手にするとリオールにいた時から決めていたのです。
「やはり私に声をかけてくださいましたね!待っていたんですよ!」
「そ、そうですか……」
そしてそのことを私は早々に後悔することになっていました……
私に話しかけるムラール様の顔に浮かんでいたのは隠すつもりもない傲慢さでした。
決して貴族にとって自分に自信があることは悪いことではありません。
いえ、それどころかそれが無ければダメなくらいでしょう。
しかし、それでもムラール様の場合は行き過ぎていました。
「おい、お前!動きが遅い!」
「は、はい!申し訳ございません!」
彼は第二の王子かと思ってしまうほどのやりたい放題だなのですから。
使用人に向けて理不尽な要求をする彼はまさにぼんくらと言う様子で私は思わず溜息を漏らした。
「はぁ……」
なんでこの国にはこんなのしかいないのでしょうか。
「あの人には逆らうなよ。後ろには……」
「わ、分かっている。そんなことをしたら……」
そしてさらに背後から聞こえる使用人達の会話から、決してムラール様は人を率いて行くタイプの人間であることもわかってさらに私は顔を歪めました。
……いや、思いっきり虎の威を借る狐じゃないですか。
どうやらムラール様は後ろにいるのが何者かは分かりませんが、その人物の威光を利用しているだけのただの小物でしかありませんでした。
それは決して私の求めていたリオールに益になる人物などではなく……
「けれども他の人間達も……」
しかし他の貴族達はあまりにも消極的過ぎで……
「何ですかこの究極の二択……」
私は思わず頭を抱えました。
決して私はウルベール様レベルの人材を求めた訳ではありません。
それどころか有能であることを求めたわけでもありません。
通常貴族に必要な要素を求めたつもりなのに、けれどもその条件に該当する人間はこの場にはいませんでした。
その事実に私は思わず頬に引き攣った笑みを浮かべました……
……それから全てが終わるその直前まで私はどのような人材にするか考えていましたが、最終的に決まることはありませんでした。
そして私の婚約者はムラール様として次の結婚式へと続くことになりました……
◇◆◇
「すまない。少し私の部屋に寄ってくれないか?」
婚約者の選抜のお昼の食事会が終わった後、結婚式へと移行するまでは少しの時間がありました。
そして、その時間を自室で過ごそうと私が動き出しかけたその時、私はそうムラール様に声をかけられました。
もちろん進んで選んだわけではないとはいえ、婚約者となった彼の頼みを私が断ることはできませんでしたが……
……けれども、その顔にどこか面白みのないそんな表情が浮かんでいることに気づいていました。
「……今度は何が」
そしてそれだけでこの国に来てから様々な厄介ごとに巻き込まれていた私はまた何か望まぬことが起きることを悟りました。
……本当に何でこんなことばかりに巻き込まれるのでしょうか。
けれどもそのことが分かったとしても無視をできるわけではなく、少し後で来てくれと言われた通り、私は一人婚約者の後から彼の部屋を目指して歩き出していました。
「戻りなさい。シリア嬢」
けれども、その部屋に辿り着くその前に私の目の前に王妃様が現れました。
突然の出現に私は驚いて、何事があったのかと聞こうとして……
「貴女の行こうとしているその部屋には王子がいますよ」
「なっ!」
そしてその言葉に絶句することになりました……
「チートな聖女ですが、偽物の烙印押されて追放されました」
新作始めました!よらしくお願いします!
下に粗筋とURLおいておきます!
「ルイジア!貴様は自身を聖女と偽った!その罪で私との婚約を破棄し、貴様をこの国から追放する!」
ある日私、ルイジア・パレストアは突然呼び出され、婚約をしてもいない王子に婚約破棄された。
しかも、その王子の側には自分を本物の聖女だと叫ぶ妹、ルシア・パレストアの姿があり……
……いや、真っ先に聖女になるための訓練から逃げ出したルシアがどの口で自分が聖女だと主張できるの?
まぁ、この国を追放されるというならば、チートな聖女の能力で気ままに旅でも行くことにします。
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