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13 そんなことはない

 気持ちが悪い。

 いや、気色が悪い。


「うっ…」


 気持ち悪さに負けてこみ上げてきたモノを吐き出した。口が酸っぱくてそれにも吐き気を催す。


「おぇ」

「イチヤ?」


 どうした、などと心配げに近付いて僕の背中を優しくさすった。さり気に水まで用意していた。


 この死神は本当に僕だけには優しい。

 だが、ちょっといただけない。それは吐いてる姿ほど惨めな姿もない。仮に好きな人なら見せたくない姿であるが、僕は別に死神が好きではない。


「悪阻か?」

「んな訳あるかっ!?」


 口を水で濯ぎ一息ついた時にそんな言葉を投げかけられた。


 こいつ馬鹿なのか、馬鹿なんだろ?


「っ…、とにかく、背中さすってくれてありがと」

「…ついに、デレ期か」


 しみじみと噛み締めながら馬鹿なことを言いだしている。

 もう馬鹿らしいから、放置だ。


 最近、夢を見る。

 気持ち悪い光景で、正直、あまり思い出したくもない少し昔の僕の思い出。


 壮絶で発狂してしまいそうな光景なのに僕は目の前に現れた美骨死神を見て次々現れる現象に諦めを感じた。

 そう、天界は現実と変わらない。さぼったり、苦労人がいたり、尻に敷かれたりと威厳の欠片も見当たらなかった。


 ただ一言でいうなら、あそこの住人はこの完璧超人みたいな死神を恐れていたように思えたということだ。

 今思えば、冷や汗がだらだらというか滲んでいた。


「大丈夫か。辛くないか?」

「ん、もう、一応、落ち着いた…」


 自分の死が、認められない。

 今もこうして生きている。僕という人格で、動き話しているのに、死んでいる。


 まるでトマトを潰したような、僕が見ても自分だとわからないような死体だった。でも、あれは確かに僕だ。


 身に付けた衣類が、散らばった荷物が、歩いていた場所が見覚えがあった。


「あまり、深く考える必要はないのだ、市夜」


 ふと視線が遮られ、目元を死神の手で隠されたのかとわかった。ぞっとするほど気持ちがよかった。


「そんな些細な事など気にする必要などない」


 くらくらしそうな聞き取りやすい声は睡眠学習にうってつけだな。頭にスルリと入り込んで洗脳されそうな美声。

 この声なら眠くなくても子守歌なんて歌われたら寝てしまうな。


「…市夜は私のことを誰よりも愛している」

「そんなことあるかっ!」


 ハッと心地よさを断ち切りツッコミをいれる。

 危ない危ない、そんなことはない。


 つか、ありえないわ。



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