旅支度それは瞬く間
時の経つのも早いもので。
何のかんので愉快な現状に追いやられてから一月程度でメンツの揃った<塔>の2パーティ。
なんだろね、このオカルト誘拐ってパーティ単位だったのかねぇ、いや、恐らくまだいるんじゃないのか? 等と話しながら。
各人其々に、まだ見ぬ外界へと打って出る準備を進めていた。
準備。
別段食糧やらに困る現状ではないけど。
極論すれば、すぐにでも旅立てはするのだけれども。
ほら、その、なんだ。
「過保護だしなぁ、自分たち・・・」
立つ鳥跡を濁さず、的なものかもしれないが。
ようやくある程度集まったメンツを再分断するのもバカバカしい、と、2パーティ揃っての行動を行うという指針の決定が有り。
ならば自分たちが<世界樹>に居ない間、弱い魔物くらいには対応できるようにしなくちゃね、と言う流れになり。
結果、各人が出来る<準備>を施して回っている感じである。
自分は今、<飛行>して<世界樹>外壁の補強工事を行いつつ、<世界樹>周辺にて行われる訓練の様子を(物理的に)上から目線で眺めている。
眼下では<世界樹>在住の魔族志願者達と首都の騎士団連中の戦闘訓練が行われていた。
武器こそ玩具のような竹刀やらだが。
実戦形式の、殺伐とした空気が流れている。
最初は全員に竹刀が配られ、遊び半分的な和やかさであったのだが。
武器使用技術に優れる騎士側と筋力体力精神力に優れる魔族側。
技術が勝つか肉体が勝つか。
もし双方が対立する羽目になって戦う状況になったら、どっちが勝つのかなぁ、なんて流れになった模様で。
「素手でも魔物と戦える我らの方が勝つにきまっている」「いや、別に素手縛りの話ではないのだが・・・武器使わせたらこちらが勝つに決まってるからそう言いたいのも分かるが」ビキビキィ。
・・・面白がって「じゃ、一回やってみればいいよ!」とか言ってる脳筋教師達には後で仕置きするとして。
「魔族さん達有利かなぁ、頭に血が登って何でもアリとかになっちゃうと」
ルールを決めたスポーツ剣術やら、当てたもの勝ちな殺傷力の高い刃物アリとかなら騎士さん達の独壇場ではあろうが。
さてさて、その衝撃の結末とはっ!?
・・・そんな事を思いつつも、その光景から目を離し、自分の仕事へと戻る。
喧騒が聞こえなくなってから、結果だけ分かればいいや。
ジオもいるし、自分もいるんだから、最悪死人が出ても平気だしねぇ。
・・・こんな愉快な思考に慣れると、確実に元の世界で支障が出るだろうなぁ。
ぐるっと<世界樹>補強の旅、そろそろ4周目を終えようとしております。
戦闘訓練の行われている場所とは<世界樹>を挟んで反対方向にて。
平和的に避難訓練とかしててホッコリ和んだりもした。
避難誘導、指導員は・・・エリスが行っていた模様で。
なんだエリス、やればできるんじゃないか。
真面目なエリスさん超素敵。(胃薬不要的な意味で)
・・・背後の監督役、エイジが怖かっただけ、という話もあるけど。
しかし、いつの間に防災頭巾なんて作って配布したんだろう・・・、懐かしすぎて吹いたじゃないか。
と、ひとまず心を弛緩させたところでさぁ本題。
ドキッ、脳筋達の大決戦! (部品が)ポロリもあるよ? の結果はどうなってるかな?
螺旋に<世界樹>を昇りつつ作業をしていたので結構な高度まで来ちゃってるから、少し見物がてら降りようか。
そんな事を思っていた矢先、見ようと思っていた場所に向けて。
高空から<空の槍>が、降っていった。
!?
え、なにやってんのレザードさん?
面白そうだから乱入したとかだったら泣かすぞ。
慌てて止めようと<瞬間移動>しようとして、降っていったソレの着弾予想地点に立つ灰剣士に目が行った。
剣を奇妙なタメ系の構えで固定した・・・ってかあれカウンター狙いの<唯剣>じゃね?
「何マジに決闘してんだこの脳筋どもっ!?」
割って入ろうにも、もう間に合わない。
下手したら髪の毛一本残らないじゃねぇかあの技二つとも。
転じて肉体復元も儘ならないのだから、最悪、蘇生出来ないじゃんか!
あー、しまった。
肉体消失レベルの被害も想定して、皆の髪とか爪とかの収集をしておくべきだった。
少なくともジオと自分の二人に、保険として持たせるくらいはすべきだった。
失敗した、失敗した、失敗した・・・。
そんなツッコミやら後悔やらが入混じり間延びした心的時間の、一瞬後。
<空の槍>と<唯剣>が、真っ向から衝突した。
砕け散る槍。
爆ぜる剣。
瞬く間に粉塵と化して虚空に消えゆく武器達。
当然、それを振るっていた両名も無事に済むはずもなく。
怪我だらけの騎士や魔族さん達が遠巻きに見守る中、ほんのりクレーターと化した地面の真ん中に仁王立ちの自分。
死んだ目でその場に近づく自分に気付き出迎えてくれたテトラさんに訓練結果を聞くと「大体引き分けというところでした」との灰色な返答。
詳しく聞くと、結構血を見る感じの展開になりかけたところを教師役のシオンとレザードに止められたらしく。
で、今現在。
「だからさ、体と技術が両立するとこんなのも出来るぞっていうお手本を見せてたんだって」ブチ、ブチ。
んー、そんじょそこら鍛えたって、人間20mジャンプなんて出来ねぇよ変な夢見せるな。
「ちなみにワチキが技術系寄りでレザードがパワー系寄りっていうツッコミどころだぞ?」ブチ、ブチ。
んー、だったら<重剣>の方が見栄え良かったんじゃね?
一般人に目視理解出来るかどうかは別問題になるけど。
自分は正座させた二人の正面に立ち、彼らから任意の事情聴取を行っている状況に、なったわけでして。
無傷でブーブー言う連中を無事に済ませぬよう頑張る自分がいる。
ブチ、ブチ。
「「あのぅ、髪の毛むしるの止めて貰えませんか」」
「・・・・?」
「「いや、そんな不思議そうな顔されても」」
「ああ、ごめん。 もうちょっとまとめて引き抜けばいいんだよね解ります」
「「解ってねぇ!?」」
<黒粘体>張って通常武器使えば、確かに危険はないけどさ。
でも万が一が起こったらと思うと怒らざるをえない。
ビックリさせられた腹いせではないアル。
髪の毛抜くのにも飽・・・必要量揃ったので、そろそろ説明しておこうかね。
「ジオと二人で分けるので貴様らの髪の毛は貰って行く」
「「アイツと二人で何やる気だっ!?」」
しまった、狂気のマッドヒーラー兼ケミカルマスター、ジオの名を出したのは失敗だったか説明にしくじった恥ずかしいというわけで自分は去るるぜさらばだ中年脳筋団ども<飛行>。
追え、逃がすな的な声がした気もしたが、自分はぬるりと逃走完了。
どさくさまぎれで言いそびれたけし、彼らがいつ気が付くかわからないが。
「10円ハゲふたつー、ありましたー♪」
呟くように歌いながら、自分は他のメンツの髪狩りも開始した。
「そういうわけで髪の毛頂戴」
「・・・ほいほいー」
目立つ外見の女友達から蘇生用アイテムゲットだぜー。
「むしりに来ました」
「何を!? ってか、近接組がお前さん探して回ってたが何やらかした?」
別の場所で真っ当に剣術教えてたマックスにも快く協力いただき。
「つー」
「かー。 ・・・うん、うん、そういう事か。 保険は必要だよね。 どのくらい必要だい同士?」
同士には立て板に水で話が通じ。
「エリスたんの髪の毛はぁはぁ(棒読み)」
「髪以外は萌えぬとでも申すか? で、本当に髪の毛でいいの?」
嫌だと言ったら何くれる気だったんだおまいは「足と足の間の」それ以上いけないあと流れるように下ネタにつなげない「メリウ兄上様の教育成果ですだ、てへぺろっ」あざといっ、じゃなくて。
自分、正座説教喰らう流れじゃねこれ? というわけでエイジに捕まる前に即時逃走。
「じゃ、そういう事で半分こ、と」
「では、ついでにウチらも髪の毛交換しときましょうか」
混ざらないように名前札付けてっと、これにて万が一バックアップ作成終了~。
「さてさて、じゃぁ補強工事の続きでもするかなー」
心に余裕ができると足取り軽い。
「「まぁ、ちょっと休んでいきなって」」
「ですよねー」
そんな自分の両肩を、左右の彼らに掴まれる。
まぁ、ジオの所で待ち伏せるわなぁ、名前出した流れ的に。
いつものメンツの近接組に拉致された自分の明日はどっちだ。
「次回。 エログロ展開はないといったな、あれは嘘だ。 メリウ地獄の拷問篇「らめぇ、そんなところにサグラダファミリア入れちゃ裂けちゃ未完成きんもちいぃぃぃ」に、続くー」
「「嘘つくなっ」」
結局二人に引っ立てられて、対魔物実戦用の相手として<変身>を駆使し、騎士さんやら魔族さんやらのスパーリングパートナーを務めることに。
一般人の前で<変身>バラすのもアレなので、手品仕立てでシオンが「召喚っ」とか言って無限袋からドア出して、その後ろで変身した自分がドア開けて出てくるといった茶番もしたりして。
そんな訓練だったり補強工事だったりする日々を費やすこと、一月。
筋力体力を高めた騎士さん達やら、技術を手に入れた魔族さん達やら、生きてるだけで丸儲け精神を注入された非戦闘員などが出来上がり。
「これが我らを苦しめていた<戦闘技術>か・・・」「力が漲る・・・もう小手先だけのスポーツ騎士とは言わせぬ」「「あの地獄の一ヶ月を共に生き残れた我らは、魂の兄弟っ」」「ああいう変なのは見ちゃいけませんよ、関わらないのが正解ですからね皆さんー」「「「はーい」」」・・・うん、多くは語らない。
・・・しかしまぁ、皆さん、成長・・・超早いですね、等と目を見張ることも多々あった短い一月は瞬く間にすぎて。
最終試験の「大怪獣メリモス襲来」から迅速かつ果敢に逃げ切った皆様に喝采を送りつつ。
<塔>の2パーティ連合(通称:外から見ると痴ロリンの姫プレイに見えなくもない集団、略して外見痴姫)は、外界に向けて旅立つ運びとなった。