77話 ナデシコ
ヤマト国一の撫子と呼ばれた
絶世の美女がおりました。
容姿端麗、品行方正、誰からも愛し愛される
その姫はイザナミ家の分家のひとつの生まれでした。
皇太子殿下であるヤマトタケルノミコトの元へ嫁ぎ
誰もが皇后陛下となる人物だと期待していました。
ところが、その撫子はライバルである
アマハラ家へと嫁ぐことになります。
黄泉の国を担当するイザナミ家。
天界を担当するアマハラ家。
この両家によりヤマト国は神の国と呼ばれ
世界中からも一目置かれる存在でした。
しかし、この両家はとても仲が悪く
いつも、喧嘩ばかり。
ヤマト家がいつも仲裁をしては
何とか事なきを得ている状態が
もう数百年も続いていたのです。
――わたしが、この戦争を終わらせます――
アマハラの当主マサカドとナデシコの婚姻は
ヤマト家にもイザナミ家にも
当時は祝福されたわけではありませんでした。
しかし、実際、それから30年
アマハラとイザナミの仲違いはぴたりとなくなり
平和なヤマト国を築くことに成功したのです。
さらにナデシコの子たちは
類まれなる才能を持って生まれ
後の世に大きく貢献していくこととなります。
しかし、ナデシコの没後
少しずつ、少しずつ、
またも
イザナミとアマハラの喧嘩は
増えていきます。
そして、今また
ついに
両家の持つ秘宝
天叢雲と八尺瓊勾玉の紛失事件をもって
戦争へと突入いたします――
――ここはアマハラ本家。
マサカドはナデシコの亡き後
体調を崩しており床に伏せています。
本家にあった八尺瓊勾玉が紛失。
このアマハラの秘宝の護衛担当についていた
マサカドの弟サダモリ一家が何者かによって襲われ
犯人は取り逃しましたが、イザナミ家からの
報復であることは明白……。
マサカドの子たちによる
イザナミ家への宣戦布告が始まっていました。
「ミヤビ。
わたしの代わりに指揮は全てお前に任せる」
「お父様。かしこまりました。
必ずやわたくし達兄弟姉妹が
イザナミ家との戦争に勝利いたします」
アマハラ家全軍総出でのイザナミ家への進軍。
長男セイメイ率いる憑藻、妖軍団。
次男ムサシ率いるアマハラ最強の侍軍団。
三男イナリ率いるアマハラ忍者軍団。
指揮を取るのは三女ミヤビ。
その天才ミヤビの護衛に着くのは
次女アズミ率いる最強くノ一軍団。
一国の軍をも遥かに凌駕するこの
アマハラ家の最強軍団は
ついに出陣の時を迎えます。
アマハラ本家に現れたのは長女ヒミコ。
「お待ちください! お父様!」
「もう手遅れだヒミコ。全てはミヤビに託した」
ヒミコはヤマト天皇の右腕であり
参謀軍師と呼ばれる【ジョスイ】
の元にすでに嫁いでおり
今となってはヤマト家の人間なのです。
「ヤマト家が仲裁に入ります!
どうか思いとどまってくださいまし!」
「もう遅い……見ろ」
マサカドの横で大きな傷を負い
床に伏せているのは弟のサダモリ。
なんとか一命は取り留めたものの
八尺瓊勾玉を護ろうとして瀕死の重症……
「犠牲者が増えるだけでございます!」
「すまんの……もう……」
「……おじいちゃん!」
そこにもうひとり現れたのは
ヒミコの一人娘【カグヤ】。
「おお、カグヤ……来ていたのか……
ダメじゃ今はこのアマハラ本家は危険なのじゃ」
「喧嘩は、やめられないのですか〜?」
「うう……すまんのカグヤ……」
10歳になったばかりのカグヤですが、彼女は
未婚で子供のいない天皇ヤマトタケルにかわり
次期女系天皇となるべく育てられている
このヤマト国の未来の希望でもあるのです。
「ねぇ! おじいちゃん!
あのザコザコ女はいないのですか!?」
「……ザコザコ?」
「よわよわざーこざーこの女よ!
動物と遊んでるだけのあのお気楽女!」
「これ! カグヤ!
そんな下品な言い方をしてはいけません!」
「ああ、ツムギのことか……
あの子は今旅に出ておる。
国内だと思ったら、
勝手に海外へ出ているらしくてな……」
「なーんだ、いないのかぁ〜
またカグヤがからかってやろうと思ったのに!
残念ですわ〜!」
「お父様すいません……
この子はこんなこと言っておりますが
本当はツムギのことがお気に入りなのです……」
「ははは。そうかそうか……いや、
ツムギは旅に出ていてちょうどよかったのじゃ。
こんな戦争に心優しきあの子は
巻き込みたくない……」
「お父様! まだ間にいます!」
「うう……!」
苦しみ悶えるマサカドの弟サダモリ。
「サダモリ叔父様……」
「もう、どうしようもないのじゃ……
ナデシコ亡き後、またアマハラとイザナミは
元の関係に戻ってしまった……
今にして思えば
本当にナデシコの存在は偉大であった……」
「お父様……!」
「ヒミコ。もうヤマト家へ戻りなさい。
カグヤも危険じゃ。
ここはすぐにでも戦場になりかねんのじゃ!」
止めに来たヒミコの声も届かず……
「おじいちゃん……」
アマハラ軍団は勢揃いしており
ミヤビが士気を高めます。
「悪しきイザナミ家を淘汰し!
アマハラがイザナミの領地もすべて治め
このヤマト国に平和を取り戻します!」
うおおおお!!
わぁぁぁあ!!
「天下分け目の決戦です!
アマハラの名のもとに!
こころをひとつに!
【恋せよアマハラ】!」
ミヤビの魅了スキルをフル稼働させ
妖軍団、侍軍団、忍者軍団は
一気に最高潮に昂ります。
――うおおお!!
――ワァアア!!
しかし――
そんなアマハラ軍団の前に数人の影が……
「……なんだあいつら?」
「獣人……?」
「どこかで見たような……」
「……え?」
「ミヤビ……あれを見ろ」
「アズミ姉さん……? え! まさか?」
「……ツムギだ」
「……? ツムギですって!?
こんな時にあのおバカ妹は
なんの真似ですの〜!?」
アマハラの大軍の前にたった数人……
立ち塞がったそのアマハラの四女は……
「……ツムギ? はて?
どちら様のことでらっしゃいますか!?
わたくし達は……!!
和解の使者!
ムギムギガールとその仲間たちで
ございますわ〜!」
ばーん!!
謎のポージングを決める
変な軍団として
アマハラ軍の前に立ち塞がったのでございました
「だから名前もポーズもダサいってば〜!」
リッカのツッコミは
残念ながらツムギの耳には
届かないようでございます……
「なんの真似です……ツムギ……!」
そして
この謎のムギムギガールは
かつての
和解の使者と同じセリフを吐くのでございます
――わたくしが、この戦争を終わらせますわ――




