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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第一章:さよなら、美しき絶望の日々

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第四話 絶望の光の矢

「キルハ、ジリアは勝てるか?」

「負けはしないでしょう。あんなでも学園では実戦形式の試合ではクラス内で負けなしの男です。まあ相手のアーシェも調べた限りはそれなりにやるようですよ」


 そう言ってキルハと呼ばれた男――王太子殿下の側付きは持っている書類に目を通す。

 紙にはアーシェについての情報がまとめてあり、彼の研究の一端についても記載がある。ただ、そのあたりの情報は適性が雷撃という希少さ故から、あまり教員たちも全貌を理解していないため、有益な情報は集まらなかった。


 ただ、その程度で勝ちが揺らぐことはない。

 それだけジリアは強いのだ。


「アーシェ=グラメスタ――奴は王宮時代からよく目にしていたが、エレノアの側にいるばかりだったな」

「それもそうでしょう。エレノア様が殿下とお会いする前から側付きの人材として彼がいましたから。こんなところでも出てくるのは見上げた忠誠心ですよ。まあ、勝ち馬に乗る――情勢を読む能力は欠如しているようですが」


 少々見下したような視線を向ける。その先には、すでに剣術にて圧倒的差を見せつけられ、片膝をついているアーシェの姿があった。


 ◇◇◇◇◇◇


 決闘が始まってから五分――

 真剣ではないものの当たればそれなりの痛みが走る木剣での打ち合い――もとい、つばぜり合いの中の掌打で、すでに彼はボロボロだった。

 外野から見ても勝敗の決着がついているのは明白だった。しかし、アーシェは何度でも立ち上がる。なぜそこまでと言われれば、答えなんて一つに決まってる。


「もう諦めろ。これ以上やってもいいことないだろ」

「あるさ。まあ、お前にはわかんないだろうよ――お前みたいに好意が全部まっすぐにしか伝えられないと思ってる馬鹿にはなあ!」


 突然の彼の啖呵。それと同時に彼の手から水が放たれる。

 それなりの力で放出された水は放物線を描き、ジリアに直撃する。


「ぶっ!?――なにしやがる!」

「さあな……」

「ちっ、スカしやがって。これで止めだ」


 これが最後とばかりにジリアは剣を握り、それを振りかぶる。

 確かにこの一撃がアーシェに当たることはなかった。ジリアの持つ剣が彼のいる場所よりもはるか後方にすっぽ抜けていたから。


「は……?」


 決めの一撃。相手は避けるそぶりすら見せなかった。だからこそ取ったと思った。

 しかし、目の前の現実は違う。そして、ジリアは遅れて気付く。


 剣を握っていた右手に触れて、自分の感覚を確認する。

 だが、触れどさすれど、なにも感じることができない。痺れて力を入れることができない。

 まるで自分の右手に砂嵐が走っているような感覚。神経が通っていないのではないかと思うほど不快な感覚に満ちていた。


「なにしやがった……」

「火の魔術には、敵を焼き尽くすほどの炎を生み出す術もあれば、物を燃やすための種火程度の火を生み出す魔術もある。それは水も風も同じこと。扱い方と強弱で目的や効果を得る。魔術の絶対原則だ。そして、それは俺の扱う雷の魔術も同じこと。俺が馬鹿みたいに火力で押し切ると思うなら大間違いだ」


 そう言うと彼はその場にしゃがみ込み、地面に手を当てる。

 さすがにその動きにジリア反応するが、それはあり得ないと一蹴する。


「馬鹿か、水に雷は通らねえだろ!」

「いいや、通るさ――」


 ジリアの言う通り、この世界において魔術で生み出された純粋な水に電気が通ることはない。通ってもかなり微量。痺れる程度の力なら届くはずもない。

 そう、それはあくまで魔術で生み出されてしばらく経った水。


 純粋な水が電気を通さないのは魔術の介在しない物理の世界。しかし、魔術で生成して間もない頃であれば――“魔力”という不純物が水の中に滞留している。


 一瞬の閃光。観客の視界を奪ったかと思えば、次の瞬間にはジリアが倒れていた。

 どこか焦げ付いたような匂いが立ち込めており、そのにおいのもとをたどっていくとジリアの足から立ち込めていることがわかる。


「ぐあっ!? があああああ!」


 あまりの痛みに相手は悶絶する。下半身の大事な部分にまでは影響は及んでおらず、機能不全になることは彼の計算で回避している。だが、それでも足が焼けるような痛みに襲われ、真っ黒に変色している。


「大丈夫死にはしない。お前たちの囲っている女は光の魔術――治癒が扱えるんだろう? すぐに直せるのなら後遺症もないはず。だから、とどめだ」


 彼は決闘を終わらせるために、立ち上がれずにその場でうずくまっているジリアに照準を合わせる。この距離なら威力はこのくらいと計算しながら魔術の形を作っていく。


 バチバチと空気を震わせながら紡がれた魔術は少しずつ弓の形を作っていき、雷の弓と呼ばれるような武器を顕現させた。


 魔術を使うの才能が有り、体術のセンスが良くても、単純に力が足りない人もいる。その際によく使われる炎の剣のような質量が事実上存在しない武器。

 彼が今手にしているのは、そう言った魔術武器と呼ばれるもの。


 剣をかたどれば、剣の重さで振り回されることはなく、鞭に変えれば自分の思う通りに扱える。

 だが、武器の本来の重さがないゆえに、実際の剣との勝負では競り合いに弱い。


 そして――


 十分な力をため、電力を放出させながら彼は電気でかたどっられし矢を放った。

 綺麗な直線を描きながらジリアへ遅いかかる。


「だああああああ!」


 ジリアは自分の適性である“鉄”を扱い、自分の拳を固めて魔術を迎撃しようとする。

 だが、そんな相手の思惑など無視して、矢は鉄の拳をすり抜け、肩に直撃した。


 ――魔術の弓は一定以上の強さの風の魔術によって霧散されるリスクを持つ代わりに、有形の物質の妨害を受けない。


 電撃を受けたジリアは、右手を突き出したまま、その腕の肩口まで焼き焦がされて気絶する。

 ゆっくりと地面に沈み込み、誰の目にもその敗北は明らかだった。


『し、勝者――アーシェ=グラメスタ!』


 誰も想定していなかったどんでん返し。その展開に会場は沸き、地面を揺らすほどの歓声が響き渡った。

 しかし、アーシェは自分の見せた技を静かに振り返っている。


「やっぱり、距離があればあるほど電力が逃げて想定以下の火力しか出ない。治癒能力があるから大丈夫だろうとゼロ距離で撃てば腕は吹っ飛ぶほどの威力で放ったのだが――ごほっ、はぁ……どの道ここまでか。もう魔力がほとんど残ってないな」


 次に迎える第二戦。

 彼に勝てる見込みはもう存在しない。

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