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令嬢は王子に狂わされ、俺は彼女を護るために騎士の道を捨てた。~ただの取り巻きだった男が、すべてを失った彼女を笑顔にするまでの物語~  作者: 波多見錘
第二章 訪れた帝国での日々

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第二十話 浸蝕

 三日後――


 救出されたパーティーのうちの三人の、トール、ジェスタ、ギィブルが目を覚ました。

 医療施設にて見舞いに来ていたビオラと呼ばれる少女が病床者に抱き着きながら騒ぐなど、少々トラブルがあったが、目覚めた次の日には全員が快復し、冒険者稼業へと戻ることが可能な状態となった。


 とは言っても、記憶がないながらも全滅しかけた事実から四人ともすぐに依頼に出ようとはならなかった。


 現在、パーティーの四人は休息として街中のカフェにいた。


「にしてもなんだったんだ。あの、白い化け物は――」

「結局討伐されちゃったせいで、詳しくは調べられなかったみたいだし……」

「でも、死体の破片の一つも残らないなんておかしいだろ。まじでなんなんだよ」

「確かに、俺たちは全滅しかけたし、結局わからないことも多かった。でも、満額ではないが、調査以来の報酬も入ってきたんだ。今は少し休もう」

「そうだね、エレノアさんとアーシェさんに感謝だね」


 彼らのパーティーには調査以来の約七割の報酬が支払われることになった。

 魔物正体についてはわからなかったものの、あとから来た協力者とともに退けたということになって、その分の報酬が支払われた形だ。


 それもこれもビオラが魔物の手から逃げ延びて、最終的にアーシェたちと脱出のための行動を一緒に取っていたのが大きい。


 しかし、その光景を知る者は少ない。

 今食事をしているパーティーもビオラ以外、アーシェのこともエレノアのこともまともに知らないのだ。


「にしても、俺たちを助けに来てくれたって言う二人はどんな奴なんだろうな……」

「きっと会えるよ。しばらくはこの街で活動するって言ってたし」

「そういえばランクはどこなんだ? Cランクの俺たちですら足下に及ばなかった魔物を倒したなんて――Aランクか?」

「え、えっと――その、Eランクって言ってたような」

「「「Eランク!?」」」

「あ、で、でも――今回のことでCランクに即昇級で、しばらくの手続きが終わったのちにBランクになるんだって」

「いや、でも――あの依頼にEランクを投げてくるなんて、協会の頭が壊れたのか?」


 さすがの援軍のランクにギィブルは苦言を呈す。しかし、ビオラは首を振ってその言葉をとがめた。


「Eランクでも私たちを助けてくれた。信号自体は魔物の罠だって言ってたけど、それすらもはねのけて――」

「そうだったな。次会ったら、酒でも奢ろう。皆はいいよな?」

「俺は構わないぜ」

「僕も恩には報いるべきだと思うね」


 ◇◇◇◇◇◇


 依頼達成後、数日経って――


「この間の緊急依頼の達成ありがとうございます。こちら、謝礼金と未確認討伐報酬となります。こちらの方にサインを――」


 そうして二人は渡された紙に姓のない自分たちの名前を記す。

 すると、金銭の受領が認められ、彼らは少しばかりの大金を手にし、ちょっとした小金持ちとなった。


 そこでいの一番に彼らが行ったことは――


「アーシェ――ベッドが柔らかいぞ!」

「これで少しは疲れもとれますかね。前のはちょっと硬すぎましたし――この宿は朝食が軽く出るらしいですからね。固いパンの苦労もこれで解決です」

「ふむ、安宿というのはなれれば良いが、やはりこういうのはいいところを見てしまうと戻れなくなってしまうな」

「そうですね」

「しかし、またベッドが一つの部屋だが――」

「いいんですよ。二人分の部屋だと、手持ちが心もとなかったりするかもしれないので――俺はしばらくはこれでいいですよ」

「そうか……だが、今日くらいはお前がベッドを使っていいぞ」

「大丈夫です。エレノア様が使ってください」

「む……」


 彼の言葉の何かが引っ掛かったのか、エレノアは表情を少しだけ険しくする。

 だが、昔からの癖というのもあるし――などと考えて、思ったことに蓋をした。しかし、どうしても気になったので彼女は彼に文句を言う。


「なあ、アーシェ」

「はい、なんでしょう?」

「今の私とお前は対等な関係のはずだ」

「――? 違いますよ」

「いいや、少なくとも私はそのつもりだ。だから、あの時みたいに呼び捨てでいい」

「あの時……?」


 あの時と言われて、思い出す光景は一つだけ。

 ダンジョン内で切羽詰まった彼が、一度だけ彼女を呼び捨てにした場面だ。


「あれはあまり余裕がなかったので――あくまでエレノア様と俺の関係は主と従者のそれです。俺が連れだしたんですから、あなたを不幸にするわけにはいかないんです」

「しかし、私はそうだとは――」

「エレノア様、俺たちはもう貴族を名乗ることはできません。ですが――そういうものなのです……」

「そうか……わかった。今日はもう寝よう。明日から多少難易度の上がった依頼を受けよう。これからも金が必要なのだろう……」

「そうですね。では、おやすみなさい」

「ああ……」


 少し空気が悪くなったが、すぐに彼女の寝息が聞こえてくる。

 その中で彼は手にした路銀を数え始める。


 決して少ないものではない。

 だが、このままこの宿で生活するには依頼を受ける必要がある。ただ、毎日毎日日帰りの依頼を受けるわけではないので、毎日宿泊費がかかるわけではないが、他の客に取られないように宿泊費の半額はいない日も払わないといけない。


 依頼を受け続けられればそれでいい。

 だが、そう高難度の任務がコロコロ転がっているわけではない。そこまで世界の治安は終わっていない。


 だからこそ一発稼ぐ夢はあれど、定期的に稼ぐことは難しい。

 帝都に行けばある程度の強さが見込めれば護衛隊にもなれるが、彼らの出自を考えれば不可能なのだ。


「まあ、日中二人で依頼に出るだけじゃ――CとかBランクの依頼でも難しいかもなぁ……」


 これからの出費の可能性や宿泊費など考えても、どう見ても収支が釣り合わない。

 かといって、エレノアにこれ以上の負担を強いるわけにはいかない。


「はぁ……しばらく夜も依頼に出るか。森の魔物とか収集依頼程度なら――」


 彼の言う夜の依頼は報酬が高い。

 正確には、夜にしか出現しない魔物。夜にしか収集できない植物等々。


 一定の時間にしか達成が困難な依頼は同じランクの依頼でも多少額が上がる。だからこそ、彼は今まで寝る時間を削りながら行ってきた。

 その生活はこれからも変わりそうにない。


 だが、彼はその姿をエレノアに見せることは絶対にしない。

 彼女は楽しく生活してくれればいいのだからと、余計は心配はかけさせたくなかった。

ここで第二章は閉じさせていただきます。

例のごとく学業等がありますので、第三章までは数日空くと思われます

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