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第13話:ノックアウト強盗事件その4

仮名頭(かながしら)リンは自分の取った行動を後悔していた。

目立つ場所で自転車とそれが停まっている雑居ビルを警戒するべきではなかった。

何よりも半グレ男に絡まれた時、すぐに常田(ときた)に電話するべきだった。

そうしていれば今のような監禁状態にあっても常田たちが駆けつけてくれる確率が段違いに高くなったはずだ。

それをしなかったのはひとえに自分の経験・力量不足にある。

(やっぱり私はポンコツだわ…)

自信を持ちつつあったリンの気持ちは一気に消沈してしまった。

(殺されるかも…怖い…)

彼女の背筋に鳥肌が走る。

(けど、私は刑事。何か爪跡を遺さないと死んでも死にきれない!)

リンは常田たちに何かを託すべく、目を見開いて半グレ男とジャンボを凝視した。

「3月〇〇日の深夜、S駅東口でノックアウト強盗事件が発生しました。その捜査中に容疑者の物と思しき自転車があのビルに停まっていたので、私はあの場にいたのです」

単刀直入なリンの物言いに、半グレ男はニヤリと笑みを浮かべる。

そして、おもむろにジャンボの腹にパンチを打った。

「テメェ、何足つくことしてんだよ!このマヌケがっ!」

「すんませんっ!アニキすんませんっ!」

ジャンボは謝罪するが半グレ男はパンチを止めない。

遂にジャンボは悶絶して倒れた。

「オラァッ!全部テメェのせいだぞ、薄ら馬鹿!」

半グレ男の攻撃はストンピングに変わる。

ジャンボは泣きながら地面に突っ伏し、亀のように身体を固くした。

この一連のやり取りを見ていたリンは戦慄したが、

「暴力は止めなさい!」

と半グレ男に大声で訴えかけた。

「あぁ?」

半グレ男が怒りの形相でリンの方を振り向く。

「刑事さんは黙ってろよ。余計な正義感なんてここじゃ無意味だぜ」

リンと半グレ男が視線を飛ばし合う。

「まぁ、どうせ死ぬんだ。二人仲良くな!」

半グレ男はそう言うと懐からナイフを取り出し、ジャンボを仰向けにすると彼の腹を何度も刺した。

「ガボッ…!グブッ…!」

ジャンボの腹から血が噴き出し、彼の口からも血が流れてきた。

「ガフッ…ガフッ…」

何かを言ったのだが、呻き声にしかならない。

やがて彼の動きが止まった。

リンは生まれて初めて殺人現場を目の当たりにし、猛烈な吐き気を覚えた。

「どうして?仲間を殺すなんて…」

嘔吐感を我慢しながら彼女は半グレ男に問い質す。

「仲間?コイツが?フヘヘヘッ!コイツは単なる駒に過ぎねぇよ。刑事さんの推理通りあの社長を襲ったのはコイツさ。けど、警察にバレるようなヘマしちまっちゃテメェの命で責任取ってもらうしかねぇよなぁ!」

半グレ男はいともあっさりとノックアウト強盗事件の犯人が自分とジャンボであると白状した。

その様子を見たリンにさっきまでとは別の恐怖感が襲ってきた。

「私にその人を殺した罪を着せて、私を殺すつもり?」

「ご名答!俺が捕まるわけにはいかないからねぇ」

リンの悪寒が全身に広がる。

(この男には言ったことをその通りに実行する非情さがある。言いたいことを言ったからすぐに私に手をかけるだろう…)

「刑事さん、ちょっと待っててくれや。今このマヌケを片づけたらすぐにアンタを極楽行きにしてやるからさ」

リンの予想は当たった。

半グレ男は偽装工作のためにジャンボの死体をいじり始めた。

(どうしよう…)

リンは逡巡する。

すると、何者かの声が聞こえてきた。

「…さん、リンさん!」

声の主は(そう)だ。

どうやら彼はずっとリンに語りかけ続けていたらしい。

とても小さい声だったのでリンが気づくまで時間がかかったようだった。

「双さん!?」

「やっと気づいてくれましたね。奴に私の声を聞かれてしまっては事ですから、小声で話すしかありませんでした。申し訳ございません」

久しぶりに存在を現した双は相変わらず丁寧な口調でリンに向けて話す。

「双さん、今私が置かれている状況がわかるのね?」

リンも小声で双に話しかけた。

「承知しています。ですからこうして現れたのです」

「そうなんだ…双さんありがとう」

自分の左肩の辺りがモゾモゾしていることが判ったリンは少し心に余裕が出てきた。

「お礼を言うのはまだ早いですよ、リンさん。急いでこの状況を打破しましょう!」

小声ではあるが、双の口調にはリンを無傷で助け出そうとする力強さが感じられた。

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