ラブレター
ピンク
久しぶりに日本に帰国した私のすることと言えば、たまったファンレターを読むことだ。
私こと26歳(男)は、日本にほぼいないにも関わらず、日本で知らない人はいない冒険家だ。
私の書く手記がなぜか好評で、ファンレターの数だけは人気アイドルをも凌駕する勢いらしい。
ファンレターに書かれているのは、おもに冒険記の感想だ。
どうして旅に出るのかといった質問もあるが、理由は私にもわからない。
おや。結婚式の招待状が混ざっている。
また知らない間に、親戚の親戚の親戚にされたのか、知り合いの知り合いの知り合いにでもされたのか。
しかしこの名前、どこかで見た覚えが……。
開封すると、美しい手書きの文字があった。
『冒険記、いつも楽しく拝見しております。私事で恐縮ですが、ひとこと報告をと思い、筆をとりました。これからの活躍も期待しております』
あの子だ!
一瞬で私の記憶が蘇った。
古い小さな小学校の教室で、彼女とは隣の席だった。
体が弱く学校を休みがちな彼女に、今日1日のことを書いたノートを持っていくのが、私の役目だった。
はじめは、授業と終わりの会の内容だけ書いていた。
やがて、誰其がバケツをひっくり返して怒られただの、何某がカエルを引き出しに入れて先生を驚かしたなども書くようになった。
特別なにもなかった日は、外の様子を描写した。
風にゆれて、雨のような音を鳴らすポプラを。
校庭をそしらぬ顔で歩きまわる猫を。
あの頃は、なにを見ても彼女を想い、彼女にも見せたいと願った。
私の手記は、彼女に読んでもらうためのものだったのだ。
あらためて招待状を見た。
吉日は次の旅行中だ。
式に行けなくて構わない。
私は変わらず手記を書くだけだ。
今は自分の楽しみとなった彼女へのラブレターをこれからも書き続けるだろう。
最後に足した一文で、主人公も幸せであると伝われば幸いです。
060418修正110901修正20190318