鏡(童話)
きいろ
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この世界の空には鏡があった。
子供たちが丘に登り、空を仰ぎ見ると、未来がうつる。
未来が猟師の子供のときは、空一面に海が広がる。
未来が木こりの子供のときは、森がしげる。
機織なら色とりどりの布が、大工なら無数の家が現れる。
そのたびに、世界はその色に美しく染まり、誰かの未来を祝福した。
ある日、弓の得意な少年が、たくさんの友達と一緒に丘を登った。
空は何度も色を変えたが、少年の未来はうつさなかった。
友達と一緒だったからだろう。
少年は、後から一人で丘を登り、鏡を見上げた。
そこには、川を渡す船がうつった。
少年は船頭に弟子入りし、船の操り方を学び始めた。
ただ、大好きな弓はやめらなかった。
船を操れるようになった頃、再び少年は丘を登った。
そこには、海で魚をとる船がうつった。
少年は船頭にお礼を言うと、海の船に弟子入りし、魚をとる術を学んだ。
合間に、森に弓を打ちに行った。
魚をとれるようになった頃、また少年は丘を登った。
そこには、様々な家がうつった。
少年は漁師にお礼を言うと、棟梁に弟子入りし、家を建てる方法を学んだ。
疲れていても弓はやめられなかった。
そうして青年になった少年は、仕事を覚えると丘に登った。
空には、いつも違う未来がうつった。
青年は、うつった未来に向かって努力を続けた。
そして空を仰ぎ見る。
空には、なぜか一度として、同じ未来がうつることはなかった。
幼馴染は次々と、うつった未来をかなえていった。
青年は、なんでもできるようになった。
それでも空は、青年の望む未来をうつさなかった。
腹を立てた青年は、ついに自慢の弓を空に向けて打ち上げた。
青年は、今は正確に、太くて立派な矢が打てる。
大きな矢は、真直ぐ空に向かって行った。
空が割れる!
青年は、とっさに頭をかばった。
しかし、予想したような欠片は、落ちてこなかった。
大きな矢が吸い込まれた空は、はじけたように雨を落した。
大粒の雨は、しばらく降り続いた。
今、空に鏡はなく、色の無い光が、まっすぐ世界を照らしていた。
子供たちは、もう、丘に登って未来を見ない。
青年は自分の胸に、鏡があることを感じていた。
しんと心を静めた時、硬く澄み切った鏡がうつすのは、青年の思った通りの未来だった。
20031220修正20050908
もう少し修正したものがあったような気がするのですが、見つけられませんでした。
なにかの絵本大賞に出したような。
K.様のサイト「伍拾音式。」(50のお題)の「割れる」タイトルで、個人サイトに載せていました。




