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鏡(童話)

きいろ


連続投稿しています。1/2

 この世界の空には鏡があった。


 子供たちが丘に登り、空を仰ぎ見ると、未来がうつる。

 未来が猟師の子供のときは、空一面に海が広がる。

 未来が木こりの子供のときは、森がしげる。

 機織なら色とりどりの布が、大工なら無数の家が現れる。

 そのたびに、世界はその色に美しく染まり、誰かの未来を祝福した。


 ある日、弓の得意な少年が、たくさんの友達と一緒に丘を登った。

 空は何度も色を変えたが、少年の未来はうつさなかった。

 友達と一緒だったからだろう。

 少年は、後から一人で丘を登り、鏡を見上げた。

 そこには、川を渡す船がうつった。

 少年は船頭に弟子入りし、船の操り方を学び始めた。

 ただ、大好きな弓はやめらなかった。


 船を操れるようになった頃、再び少年は丘を登った。

 そこには、海で魚をとる船がうつった。

 少年は船頭にお礼を言うと、海の船に弟子入りし、魚をとる術を学んだ。

 合間に、森に弓を打ちに行った。


 魚をとれるようになった頃、また少年は丘を登った。

 そこには、様々な家がうつった。

 少年は漁師にお礼を言うと、棟梁に弟子入りし、家を建てる方法を学んだ。

 疲れていても弓はやめられなかった。


 そうして青年になった少年は、仕事を覚えると丘に登った。

 空には、いつも違う未来がうつった。


 青年は、うつった未来に向かって努力を続けた。

 そして空を仰ぎ見る。

 空には、なぜか一度として、同じ未来がうつることはなかった。


 幼馴染は次々と、うつった未来をかなえていった。

 青年は、なんでもできるようになった。

 それでも空は、青年の望む未来をうつさなかった。

 腹を立てた青年は、ついに自慢の弓を空に向けて打ち上げた。

 青年は、今は正確に、太くて立派な矢が打てる。

 大きな矢は、真直ぐ空に向かって行った。


 空が割れる!


 青年は、とっさに頭をかばった。

 しかし、予想したような欠片は、落ちてこなかった。

 大きな矢が吸い込まれた空は、はじけたように雨を落した。

 大粒の雨は、しばらく降り続いた。


 今、空に鏡はなく、色の無い光が、まっすぐ世界を照らしていた。

 子供たちは、もう、丘に登って未来を見ない。


 青年は自分の胸に、鏡があることを感じていた。


 しんと心を静めた時、硬く澄み切った鏡がうつすのは、青年の思った通りの未来だった。

20031220修正20050908

もう少し修正したものがあったような気がするのですが、見つけられませんでした。

なにかの絵本大賞に出したような。

K.様のサイト「伍拾音式。」(50のお題)の「割れる」タイトルで、個人サイトに載せていました。

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