ぬいぐるみ
きいろ
わたしはテディベア。
小さな子供が両手で抱えるくらいの大きさだ。
テディベアの姿になって、もう一世紀近い。
この家族の、お婆さんのお爺さんが青年だった頃、わたしは、まだ若い奥さんのために買われた。
わたしは、すぐに産まれた女の子に可愛がられ、女の子の嫁ぎ先について行った。
そんな風に、わたしは代々産まれた女の子に受け継がれ、今また、嫁ぎ先に行くところだ。
今の持ち主は、大変わたしを可愛がってくれる。
三代目くらいから、わたしは「骨董品だから」とガラスのケースに入れられるようになった。
わたしをガラスの檻から出し、昔のように触れてくれたのが、今の持ち主であるエリーだ。
ガラスの向こうから見守るのも良かったけれど。
小さなエリーに抱きしめられるたびに、わたしは、ただただ幸せだった。
エリーがわたしを置いた場所は、大きなベッドの枕もとだ。
引っ越してすぐに、エリーと旦那さんが挨拶をしてくれた。
「テディ、今日からここがあなたの場所よ。また仲良くしてね」
「初めまして、テディ。これからよろしく」
新しい家族、新しい生活。
ぎこちなかった空気も馴染んだとき、新しい命が産まれた。
女の子だ。
わたしは、また、この子の手へと渡っていくのだろう。
そしてまた次の子供の手へと。
そんなことを考えながら、いつものようにエリーの寝顔を見守っていた。
わたしはもう、エリーに抱きしめられることはない。
わたしは一度も、エリーを抱きしめられはしない。
わたしがぬいぐるみである限り。
わたしの中のなにかがチクリと痛んだ。
女の子は大きくなって、わたしと遊ぶようになった。
わたしは女の子のもので、エリーのものじゃない。
わたしは、はじけ飛んでいた。
「ママー。テディが『さよなら』ってゆったよ」
「え? まぁ!」
エリーは床に散らばったわたしを見て、膝をついた。
「どうしたの? 落としたの?」
「ううん。かってにこうなったの」
泣かないでエリー。
わたしはエリーを抱きしめられる腕を探しに行くんだ。
だからそれまで、さようなら。
041028修正20190418
K.様のサイト「伍拾音式。」(50のお題)の「ぬいぐるみ」で書いたのが最初です。
純粋な愛情として書いていましたが、読みようによってはホラーかもですね。




