第七章 おかえり、白雪
白影寺の本堂は、
いつもよりずっと明るかった。
提灯が吊るされ、
横断幕が張られ、
色とりどりの華が飾られている。
つむぎちゃんが張り切って飾りつけをし、
まつりちゃんが大笑いしながら料理を並べ、
雷斗が雷を撒き散らしながら焼き鳥を焼き、
白翁様が酒樽を抱え筋肉を震わせながら笑っている。
木の葉老はすでに酔っていた。
「白雪ちゃんが帰ってきたぞーーー!!」
「福大も帰ってきたぞーーー!!」
「宴じゃーーー!!宴じゃーーー!!」
パパとママも泣きながら笑っていた。
「白雪ちゃん・・・
本当に・・・
本当に帰ってきてくれて・・・」
「ガッハッハッハ!!
福大・・・よくやった!!
よく連れ戻した!!!。」
白雪は春の姿で、
みんなの真ん中に立っていた。
笑っていた。
心から、幸せそうに。
その笑顔を見て、
ぼくは胸がいっぱいになった。
宴が盛り上がり、
白翁様が太鼓を叩き、
雷斗が踊り、
まつりちゃんがツッコミを入れ、
賽ちゃんがホラーな掛け声を入れ、
つむぎちゃんが拍手をしていた。
宴がひと段落した頃だった。
白雪がふと、みんなの方へ歩き出した。
白雪はが胸の前でそっと両手を合わせると、雪の粒がふわりと舞い上がり、春の光と混ざり合って輝き始めた。
「……壊れちゃったから。
もう一度……作りたいの」
白雪の声は小さくて、でも優しく震えていた。
最初に白雪が向かったのは、料理をつまみ食いしていたまつりちゃんだった。
「まつり……これ。また……つけて欲しい。」
白雪の手のひらに生まれたのは、【桃色の氷のしずくの髪飾り】
光に当たると虹色に反射し、まつりちゃんが動くたびに
チリン……
と小さく氷の音が鳴った。
「わぁぁぁぁぁ!!白雪ちゃん!! またくれるの!?めっちゃ可愛い!!」
まつりちゃんは白雪に抱きつき、 白雪は照れながらも受け止めていた。
次に白雪は雷斗の前に立った。
「雷斗……これ。また……持ってて」
白雪の手のひらに生まれたのは、【黄色い氷の稲妻キーホルダー】
触れると『ひんやりビリッ』とする、雷斗専用のアクセサリー。
「……白雪ちゃん…… カッコいい……」
雷斗は顔を真っ赤にして、 キーホルダーを胸に当てていた。
「雷斗……似合う」
「う、うるせぇよ……!」
白雪は静かに座っていた賽ちゃんの前に立った。
「賽……これ。また……持っててほしい」
白雪の手のひらに生まれたのは、【青氷のペンダント】
氷の中で青い影がゆらゆら揺れ、賽ちゃんの『ホラー体質』と相性抜群のアクセサリー。
賽ちゃんはそっと受け取り、胸に当てて小さく呟いた。
「……最高……」
白雪は嬉しそうに微笑んだ。
最後に白雪が、ぼくの袖をそっと引っ張った。
「……福大」
「ん?どうしたの白雪?」
白雪は胸元に手を当て、ゆっくりと小さな雪の粒を集め始めた。
その雪は光を帯び、春の光と混ざり合いながら形を変えていく。
やがて白雪の手のひらに、小さなペンダントが二つ 生まれた。
あの日、秋雪が壊してしまったものと同じ形。
でも、どこか違う。
もっと柔らかくて、もっと温かくて、
春の光を宿したような優しい輝きだった。
「……壊れちゃったから。
もう一度……作ったの」
白雪は照れくさそうに、
でも誇らしげに微笑んだ。
「これは……福大の。
……これは、わたしの」
白雪はぼくの首にそっとペンダントをかけてくれた。
その瞬間、
胸の奥がじんわりと温かくなった。
白雪のペンダントが、
ぼくのペンダントと近づいた瞬間、
ふわりと淡い光が重なり合った。
「……春の光。
福大とわたしが……一緒にいる光」
白雪の声は小さくて、
でも確かに震えていた。
ぼくは白雪の首にもペンダントをかけてあげた。
「白雪……ありがとう。
すごく……すごく嬉しいよ」
白雪はほんのり頬を赤くして、
ぼくの袖をぎゅっと掴んだ。
「……うん。
これからも……一緒に……」
ぼくは顔を真っ赤にして決心した。
言おう、ぼくの気持ちを。
何度だって言おう、ぼくの思いを。
ぼくは白雪と・・・・
「白雪」
白雪が振り向く。
「・・・福大?」
ぼくは深呼吸をした。
この言葉は、
何度も言ってきた言葉。
でも今日だけは違う。
「白雪・・・
結婚して下さい」
宴が一瞬止まった。
雷斗が焼き鳥を落とし、
まつりちゃんが口を開け、
賽ちゃんが「ヒュー、ドロローン」と呟き、
つむぎちゃんが拍手を止め、
白翁様が酒を吹き出し、
パパとママが固まり、
木の葉老がひっくり返った。
白雪は、無言だった。
ぼくは心臓が止まりそうだった。
そして白雪は、
ゆっくりと、
ゆっくりと、
こくり、と頷いた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「白雪ちゃんが頷いたぁぁぁぁぁぁ!!!」
「福大ぁぁぁぁ!!やったなぁぁぁぁ!!!」
「婚約だーーー!!婚約だーーー!!!」
「祝えーーー!!祝えーーー!!!」
「宴じゃーーー!!宴じゃーーー!!!」
「ヒュー、ドロローン(祝福)」
「おめでとおおおおおおおお!!!」
「ガッハッハッハッハ!!!」
本堂が揺れるほどの歓声。
白雪は顔を真っ赤にして、
ぼくの袖をぎゅっと掴んだ。
「・・・福大
よろしくね・・・。」
「うん。
ぼくが白雪を幸せにするよ。
それが・・・ぼくの幸せだから」
白雪は照れながら笑った。
その笑顔は、
冬を越えた春の光そのものだった。
宴は夜遅くまで続いた。
笑い声が絶えず、
白雪はみんなに抱きしめられ、
ぼくは雷斗に肩を叩かれ、
つむぎちゃんに祝福され、
白翁様に酒を飲まされ、
パパに泣かれ、
ママに泣かれ、
木の葉老に説教され、
賽ちゃんに呪われかけた。
でも全部、幸せだった。
白雪が帰ってきた。
ぼくの隣に。
そして、
ぼく達は婚約した。
最高の、
最高のハッピーエンドだった。
大宴会翌日。
ぼくはなぜか、本堂の中央に置かれた机の前に座らされていた。
ぼくの目の前にいる
白雪は眠たい目を擦りうつらうつらしている。
パパとママは額にはちまきをし、
雷斗、まつりちゃん、賽ちゃんは黒縁メガネをかけて教科書を抱えている。
白翁様は大量の本を抱えながら筋トレをしており、
木の葉老は酔い潰れて眠っている。
そしてつむぎちゃんが達筆な字でサラサラと書き出したのが
【来週から2年生!!
1年生の9月に倒れ!
目覚めたのは今年の3月!
6ヶ月分の勉強を!
1週間で終わらせる会!】
ヒョェーーーーーーー!!!
ぼくの悲鳴が本堂にこだました。
「トラブルファイブ全員集合ぉぉ!!」
「「「おう!!」」」
オレの叫びに全員が呼応した。
(なんだよこれ、めっちゃ楽しいじゃんか)
「オレは勉強イエロー藤原雷斗!!
勉強ファイブ名乗れ!!」
「勉強シルバー白雪!」
「勉強ピンク万来まつり!」
「勉強ブルー河原賽!」
「いや、名前違うよね。なんだよ勉強って。」
「何か問題があるのか福大!!
みんなお前の為に集まったんだぞ!!」
「ダメだよ福大。調子に乗ってる雷斗に逆らっちゃ。」
まつりちゃんが笑いながらぼくにダメ出ししてくる。
「福大!!名前!!」
「ヒョエー、怖いよぉー!!
勉強レッド千葉福大!」
「全員揃って」
「「「「「勉強ファイブ!!」」」」」
チュドーーーン!!
オレの熱い想いが燃え盛り、ぼくらの背後で5色の爆発が巻き起こった。
こうしてぼくの地獄の1週間が始まったのだ。




