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「図書館都市のリディア」~砂漠の王にさらわれて、陰謀渦巻く後宮へ~  作者: 高瀬さくら
2.ヴァルハラ宮編

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8.着飾ること


「ご挨拶?」


 はい、とシーリがリディアの髪を整えながら頷く。いつもならばどうしますか? と尋ね、適当にと言えば、なるべく緩く結んでくれるのに。


「現在、皇后様はいらっしゃいませんけれど。紅妃様がそれを担って、毎朝妃嬪の方々は、赤花宮に参られるのです。碧妃様は来たばかりと免除されていましたが、お招きが来まして――」

「ああ――」


 そいうことなのか。すっごく面倒で、行きたくない。


(でも、仕事と思えば――割り切れるかな)


 毎朝の朝礼、または定例会議みたいなもの。通常送るであろう日常生活や道具の名称は覚えているのに、自分のことは全く覚えていない。


 けれど、時々何かがよぎる。以前はこんな生活をしていなかったのに、とか。なのに、それはパッと消えてしまう。


「碧妃様?」

「――いつかは、行かなきゃいけないのよね」

「――はい」


 たおやかなシーリが申し訳なさそうに眦を下げた。いつかこんなところから逃げ出すから、顔見知りは少ないほうが良かったけれど。


「なるべく、簡素な格好にして頂戴ね」

 

 張り切ったのはペトラだった。それなりの格好をしなくては失礼だと言うのはわかる。

 でも招いた主人よりも華美になってはいけないとのシーリの助言に同意見だ。


「紅妃様は碧妃様と格は同じだから、もっと飾り立ててもいいのに!」

「ペトラ!」


 シーリが小声で窘める。ペトラは明るくて元気だけど、思ったことを軽々しく口にしてしまう性格だ。いつか、これで痛い目をみそうだ。


 その時には、主である自分が責任をとることになる、既にそれは読めていた。


(でも自分のほうが頼っている日々だから、注意できないし……)


 そもそも、この子って本当に“無邪気”なのだろうか?


「だって、碧妃様のほうが、ご寵愛が深いのよ!


(ちょっとヤバいな……)


 それにはシーリも気づいているようで、リディアに目を伏せて謝罪をする。


「ちょ、待って。ペトラ、(かんざし)多いから」


 普通だったら、髪飾りは一つで十分。なのに、二十個ぐらい出すから選ぶのかと思えば、全部挿す気らしい。誕生日ケーキの蝋燭じゃないんだから!


「陛下から毎日届く贈り物ですもの、全部飾り立てないと」


 すでに、部屋の一つは衣裳部屋。棚にはたくさんの首飾りや、耳飾りに腕輪、簪。


「碧妃様はまだ髪が短くて、結い上げることもできないし、とても珍しいお色だから付け髪もないし残念です……」


 肩より少し長めの髪を、まだ短いと言うペトラ。一体どのくらい伸ばせばいいのだろう。

 そもそも伸びるまでここにいる気もない。


 本当は何もつけたくない。並べられた飾りは見事な細工物だと思う。一番ファズーンが送ってくるのは翠玉(エメラルド)のアクセサリーだ。


 髪飾りも耳飾りも首飾りも、揃えたようなものもあれば、単体でつけるものもある。


 名前も知らない煌めく石を連ねたペンダントもあるし、翠玉を花びらにして重ね、中央には黄色の花芯を飾った見事な細工もある。


 見惚れてしまうものばかりだけど、あの人からのものだと思えば手にする気にもなれない。

 それ以上に、飾り立てる自分がイメージできない。


 たぶん、そんな身分の女性ではなかったのだろう。もしくは、そんな階級がある世界にいなかった。


「何もつけなくていいから」

「とんでもない!……飾らないなんて笑われてしまいます」

「笑われてもいいの。そんなものだと言われて、見下されるくらいのほうがいいのよ」


 後宮というものは嫉妬渦巻く伏魔殿だと想像できる。見たことも入ったこともないし、記憶さえもないくせに、リディアにはわかっていた。


 ならば、侮られているくらいが丁度いい。


「碧妃さまは、一番溺愛されているのに」


 リディアはまだわからないペトラに内心ため息をついた。ここでは、常にマウントを他人にも自分にも見せて競う場所。でも、そんなことに興味はない。


「確かに着飾るのは大事だわ。品位を保つため」


 身だしなみも、お洒落もそれらしい自分を保つため。楽をするのも気を抜くのもありだが、その先はだらしなさにつながる危険がある。


「それに自分のテンションをあげるため。そして相手に敬意を示すため」


 レセプションやパーティは招待してくれた相手に敬意をしめす格好をする必要がある。だから今回は紅妃に敬意をしめすために、ある程度の格好は必要だろうけど。


「その(かんざし)と、首飾りでいいわ。相手に見せつけるために着飾る必要はないのよ」


 行動が、後の自分の首を絞めることになってしまうから。

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