メガスコルピオン
日曜日の夕食は外食することにした。
ファミリーレストラン「ウンディーネ」である。
坂木家の姉妹たちとセリオンはウンディーネに来ていた。
「ここがレストランなのか……俺たちの文明とは違うな」
セリオンはレストランの中をしげしげと眺めた。
「セリオンさん、あまり周囲を眺めないほうがいいわ。注目されちゃう」
とセラ。
「すまない。初めて来たもので……これがメニューか?」
「そうよ。支払いは各自でお願いしているわ」
と綾女。
「セリオンさんの分は私が出しましょう」
とセラ。
「ああ、ありがとう、セラ。俺はこの国のカネを持っていないからな」
「いいえ、セリオンさんには助けてもらったから。うふふ」
セリオンはメニューを見てハンバーグを注文した。
月曜日、マリヤは職場であるスーパー「アベ・マリア」に出勤した。
「なあ、マリヤ、俺たちもついて行っていいか?」
「マリヤ、私も何か買うから。セリオンさんがマリヤの働いているところに行ってみたいんだって」
と冴子。
「まあ、かまわないけれど……仕事の邪魔はしないでちょうだい?」
三人は「アベ・マリア」を訪れた。
「それじゃあ、私は仕事に行くから。それと仕事中は話しかけないでね?」
「ああ、わかった。連れてきてくれてありがとう」
「セリオンさん、まずはアイスクリームを見て回らない?」
「アイスクリーム?」
「冷たくておいしいよ?」
冴子はセリオンを連れてアイス売り場に向かった。
そこにはいろいろなアイスが並んでいた。
「いろいろあるんだな。ありすぎてどれを買えばいいのかわからない……」
「私はこれが好きなんだ!」
冴子は棒付きのチョコレートバニラを取った。
「セリオンさんはどうするの?」
「俺か……正直、どれを取ればいいのかわからない。種類が多すぎるんだ」
「あー、それはあるかも。確かに迷うよね」
「どれかおすすめはあるか? 高級品じゃなくて普通のでいいんだが……」
セリオンは困惑気味の顔をした。
「じゃあ、私と同じのにしなよ」
「ああ、そうするとしよう」
夜七時、マリヤは「アベ・マリア」からの帰り道だった。
一人で暗い夜道を歩く。
マリヤは少し疲れていた。
今日は悪質なクレーマーがいちゃもんをつけてきたのだ。
スーパーの店員は接客業、基本的には店員が謝るしかない。
店長は見て見ぬふりである。
そういうわけで、マリヤは疲れていた。
帰ったら、おふろに入ってお酒でも飲んで寝よう。
マリヤは人が好きだった。
わざわざ、仕事にサービス業を選んだのも人と接するのが好きだったからだ。
「今日は疲れちゃった……早くおふろに入りたいな……」
最近はセリオンも家事を手伝ってくれるようになった。
セリオンは食器洗いと、おふろ洗いを積極的に引き受けてくれている。
マリヤはセラと同じく男性が苦手だった。
ただふしぎとセリオンに対してはそうではなかった。
そんなことを考えていた時である。
夜の住宅地は照明で明るかった。
そこに影のようなものが現れた。
影は尾のようなものでマリヤを攻撃してきた。
「え?」
マリヤは呆然と立ちすくんだ。
その時。
セリオンが大剣で尾を斬り払った。
そしてマリヤを守るように、セリオンは立ちはだかった。
「無事か?」
「え? セリオン?」
「敵だ。あれは悪魔のしもべだ」
影の姿がはっきりとしたシルエットを示した。
それは巨大なサソリだった。
マリヤは腰を抜かして座り込んでしまった。
「マリヤは……立てそうもないな……なら!」
セリオンはダッシュしてサソリに攻撃した。
このサソリ、名はメガスコルピオン(Megaskorpion)を道路の奥まで押しのける。
メガスコルピオンがはさみでセリオンに攻撃してきた。
セリオンはとっさに間合いを取ってはさみをよける。
メガスコルピオンの目が妖しく光った。
その直後、メガスコルピオンの目からレーザーが発射された。
しかし、それはセリオンには通じなかった。
セリオンは蒼気を出して、レーザー攻撃を受け止めた。
メガスコルピオンはセリオンをその尾で突き刺そうとしてきた。
長く太い尾であった。
セリオンはすぐさま横によける。
セリオンがいた位置に尾は落下した。
尾が落下したところはコンクリートの道路が貫かれていた。
よく見ると、コンクリートは毒で溶解していた。
セリオンはそれを見て。
「あの尾の先端に触れたら即死だな。さて、こいつに有効な攻撃は何だ?」
メガスコルピオンは口に炎をたくわえた。
それは炎の息だった。その炎は灼熱の砂漠を思わせた。
セリオンは蒼気を発した。
蒼気は冷たい闘気でだ。
それによって周囲の空気までがふるえ、凍えていた。
セリオンは蒼気を大剣にまとわせて、一体と化していく。
セリオンは蒼気によって剣と一体となった。
大剣の先まで自分の感覚が支配していることがわかる。
セリオンは大剣を振るった。
メガスコルピオンの炎のブレスはあっさりとセリオンによってかき消された。
一方、メガスコルピオンはセリオンが発した蒼気によって震えていた。
「安心しろ。一撃で終わらせてやる」
メガスコルピオンは尾を高くかかげた。
その尾に魔力が収束していく。
さきほどのレーザーとは比べ物にならない魔力だ。
「まだ、こんな手を残していたのか?」
メガスコルピオンの技、シュヴァンツ・シュトラール(Schwanzstrahl)である。
この熱線はセリオンを直接狙わず、薙ぎ払うように発射された。
太いビームが道路をえぐるように放たれる。
セリオンは後方に跳んでビームの余波から逃れた。
「そんな攻撃はただで受けはしない。
セリオンは雷電を大剣から放出した。
セリオンの大剣が青い光に包まれる。
これこそ「青き狼」の意味なのだ。
青い雷――セリオンの雷の色は青だ。
「決める! 雷鳴剣!」
セリオンは雷電が降り注ぐ一撃をメガスコルピオンに放った。
メガスコルピオンは雷電によって体の頑丈な殻を貫通してダメージを受けていた。
「ギイイイイイイイイ!?」
セリオンの雷鳴剣によって、メガスコルピオンは絶命した。
メガスコルピオンは崩れ落ちて、そのまま赤い粒子と化して消滅した。
セリオンはその様子を見送った。
それから大剣をしまって、マリヤのもとに来た。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかも……」
マリヤはどうやら先の戦いを見て、精神的にまいったらしい。
「立てそうか?」
「ちょっと、無理……」
マリヤは情けない声を出した。
セリオンはしょうがないと思ってマリヤに触れる。
「ひゃっ!?」
「俺が背を貸してやる」
「ありがとう、セリオン……」
セラと同じくマリヤも男慣れしていなかった。
マリヤに限らず、坂木家の人々は男を苦手としている。
セリオンはマリヤをおぶった。
セリオンはマリヤからのいい匂いと、柔らかな女性の体に恥ずかしさを覚えた。