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フロスティアン

良子のクラスに「帰国子女」がやって来た。

風間かざま青士あおしと言います。よろしく、みなさん」

彼は金髪碧眼の美少年だった。

イケメンである。

クラスの女子たちから甘い悲鳴が起こった。

風間はさっそく、授業を受けた。

「日本の授業がなじむかわかりませんが、努力しようと思います」

良子は国語の授業をしていた。

「……と、これがスイミーという絵本の物語です。みなさんはこの作品に触れてどう思いましたか?」

「はい!」

さっそく手が上がった。

「みんなと協力すれば大きなことができると思います」

「みんなと同じじゃなくてもいいと作者は言っていると思います」

「ふふふ……風間君? 風間君はどう思いましたか?」

「そうですね。スイミーの作者はレオ・レオニでしたね? レオニは孤独と人生について語っていたようです。その証拠にスイミーは一人でいる場面が一番多い。結束の集団化は結果にすぎません。集団行動を美化する日本人はこの物語を協調の精神と理解したがる傾向があります。しかし、本来は孤独になることで人生の美しさに気づくことができる。孤独によって自分自身を知るということこそ、作家が『強調』したかったことです。ぼくの意見は間違っていますか?」

良子は思わず息をのんだ。

なぜなら風間は良子が言いたかったことをすべて、いや、それ以上言ったからだ。

「すばらしいです、風間君。みなさん、作者のレオニさんが言いたかったことは孤独の大切さです。人は孤独になることで自分自身を知る――それが作者のメッセージなのです。みなさんも努めて自分自身のことを真剣に考えてみてください。古代ギリシアでは『汝自身を知れ』という有名な言葉がデルフォイの神殿に刻まれていました。自分を知るためには孤独になることが必要です」

その時、チャイムが鳴った。

「では今日の国語はここまでです」


生徒たちが帰った後、良子は一人で教材の整頓をしていた。

良子は風間のことを考えていた。

風間からは普通のレベルを越えている知性を良子は感じた。

とても、小学生の知力ではなかった。

「坂木先生、いいですか?」

「風間君?」

教室は二人のほかに誰もいなかった。

「風間君、まだ帰らなかったの?」

「ええ、どうしてもやりたいことがあって」

「やりたいこと?」

風間はニヤリと笑った。

「ぼくは『リトル・サタン』なんです」

「え?」

「ぼくはあなたを不信仰に導くためにやって来た」

「何を、言っているの!?」

良子は思わず、胸にある銀色のアンクをつかんだ。

アンクはシベリウス教の象徴だ。

「あなたはシベリウス教徒ですね? ですからぼくが背徳の道へいざなって差し上げましょう」

「そこまで、だ」

「!? 誰だ!?」

「セリオン君!」

そこにセリオンが現れた。

セリオンは大剣を持っていた。

「君がセリオン君か……フフフ……おもしろいね」

「良子から離れろ」

「フフフ……わかったよ、言うとおりにする」

風間は良子から距離を取った。

すかさず、セリオンが二人のあいだに入る。

「おまえは何者だ?」

「ぼくかい? ぼくはザッハークの使徒だよ。坂木 良子に接触して霊力を奪おうとしたんだけどね。セリオン君が出てきたおかげで失敗したなあ……」

「俺がいる限り、良子に危害は加えさせない」

「フフフ、そうだろうね。まあ、またの機会にするとしよう。アディオス!」

そういうと風間の姿は消えた。

「……」

良子は呆然として床に座り込んでしまった。

「今のが悪魔と言う奴だ。悪魔は人を不信仰に陥らせようとする。気をつけろ」

「セリオン君……」

「信仰を持ち続けるんだ。神を信じろ」

「ご、ごめんなさい。いきなりだったから、腰をぬかしちゃって……」

セリオンはそれを見てため息を出した。

それからセリオンは良子を抱き上げた。

「はう!? セ、セリオン君!? ちょっと!?」

「立てないんだろう? 俺が連れて行く」


次の日、良子は熱を出した。

セリオンと冴子が見舞いにやって来た。

「38℃……明らかに熱があるよ」

冴子が体温計を見ながら言った。

「夜風に当たったからかもしれないわね……ありがとう、冴子、セリオン君」

「冴子は仕事があるが俺はフリーだ。買い物にも行って、ゼリーを買ってきた。飲んでくれ、食事の代わりだ」

「ありがとう。食欲はなくて……これなら飲めそうね」

「薬はここに置いておくから。アクエリアスもあるし、ちゃんと服用してよね?」

「大丈夫よ、冴子。私はお子様じゃないんだから」

「例の悪魔がまた良子に接触してくるかもしれない。俺は待機しておく。良子は静かに寝てろ」

「うん、わかってる。ありがとう、セリオン君」


セリオンは大剣を持って坂木家の庭に出た。

「いるんだろう? 出てこい」

「アハハハハハ! さすがだね、セリオン君!」

そこには白スーツを着た紳士がいた。

「おまえは……この前会った悪魔か?」

「その通り。この大人の姿こそ、ぼくの真の姿さ。まずぼくの名を教えよう。ぼくはフロスティアン(Frostian)。ザッハーク様に仕える使徒のひとりさ!」

「ザッハークの使徒か……坂木家の姉妹を狙っているのか」

「ザッハーク様の復活のためにね」

「おまえの目的をかなえてやる気はない。俺と戦え」

「もちろんさ! そのために来たんだからね!」

セリオンは大剣を構えた。

フロスティアンは右手から氷の槍を出した。

氷の槍はセリオンの腹めがけて飛んでくる。

セリオンは蒼気をまとった。

セリオンは蒼気の斬撃で氷の槍を破壊した。

フロスティアンはほくそ笑んだ。

予想していたと言わんばかりの反応だ。

「さあ、行くよ、セリオン君? 氷の美を味わってくれたまえ」

フロスティアンは頭上に氷の槍を二つ展開した。

氷の槍をフロスティアンは発射する。

セリオンはそれらを大剣で打ち砕く。

フロスティアンはさらに斜め上から、三本の氷の槍を発射した。

セリオンは蒼気を大剣にまとわせて、飛んできた氷の槍を一撃のもとに破壊した。

「なら、威力を落として、数で攻めようか」

フロスティアンが氷の矢を多数出した。

「死ぬがいい!」

セリオンに多数の氷の矢が迫る。

いくらセリオンでもこれだけの氷の矢をさばくことはできない。

セリオンは大剣を上にかかげた。

大剣から光が輝く。

「光、在れ! 閃光剣!」

光が爆発するように広がっていく。

氷の矢はすべて光輝く剣の前に消滅した。

「くっ!?  ここまでやるとはね……なら、この攻撃をくらうがいい! 氷結花!」

フロスティアンを中心に氷の花が咲く。

花は刃となってセリオンに襲いかかる。

セリオンは蒼気を収束した。

「翔破斬!」

セリオンは蒼気の波を放った。

蒼気の衝撃がフロスティアンと氷の花を呑みこんでいく。

「うおおおおおお!?」

フロスティアンは叫んだ。

そのままフロスティアンは倒れた。

そして青い粒子と化して消えていった。


良子は風邪を治し、小学校に通い出した。

途中までセリオンといっしょだった。

「あまり学校までセリオン君が来ると妙なうわさがかき立てられるから、ここまでにして」

「ウワサ?」

「坂木先生の彼氏だとか誤解されちゃうでしょ? それに私はもう大丈夫だから」

「ああ、わかった。良子とはいろいろとこの国のことについて話せて楽しかった。また、何かがあったら、そんな話をしてくれ。それじゃあな」

「ええ、ありがとう。セリオン君」

二人は別々の方向に歩み出した。

しかし、その心は信仰は同じ方向を向いていた。

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